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第7話 狂犬との再会

 西側の非常出口から、階段を降りていく。気配はない。足音を殺して、静かに階下へ進んでいく。


 三階と二階を繋ぐ踊り場まで降りてくると、そこで非常口が開かれた。現れたのは防弾チョッキを着込んだ大柄なスキンヘッドの男。敵だ。


 麗羽は一歩の助走で二階まで飛び下りた。振り向いた大男が散弾銃を向けようとするが、銃口が上がりきるより先に首に踵を叩き込む。


 壁に叩きつけて、崩れる大男。下敷きにしたままフロア側へ向くと、自動小銃を手にした敵が二人。拳銃を向けて引き金を引き、喉と顎をそれぞれ撃ち抜いて倒し、最後に喉を押さえて呻く大男の眉間に銃口を宛がい、引き金を引いた。


 至近距離の一発で脳を吹き飛ばすと、麗羽は立ち上がる。フロアの奥から気配が四つ。駆け足で向かってくる。


 階段を駆け降り、一階へ向かう。背後から銃声が響き、背中に衝撃が叩き込まれて、階段を転げ落ちる。


 床に頭を打ち付けて、意識がぶれる。すぐ傍に気配が駆けてきて、次の瞬間フルオートの掃射が響き渡った。


「熱っ! あっつ!」


 熱を帯びた薬莢がうなじと耳に触れ、転げ回る。平衡感覚を取り戻した視界で、麗羽は見覚えのある顔を認めた。


「本社にカチコミかけられるなんて、随分な嫌われようだね。反社にはお似合いだよ」


 ダットサイト付のM4を提げた白炭が、挑発的な笑みで言った。フラッシュハイダーの硝煙はまるで自分の成果を誇るよう。踊り場まで迫ってきていた敵の加勢は、全員倒れていた。


「こんなとこまでついてくるなんて、よっぽど暇なんだね」


「あぁ、そうさ。あんたらクズに割いてやる時間なら腐るほどある」


 挑発してやるが、白炭は構わず銃口を向けてきた。


「そのクズどもを根絶やしにするの、うちも手伝うよ」


 提案すると、殺気立つ目に猜疑の色が宿った。


「あんたはこの事件を解決したい。うちも敵を叩きたい。利害は一致してるし、あんたもここで死ぬのは本意じゃないでしょ」


「この状況でどうやったらあたしが死ぬんだよ」


「もうすぐ応援が来る。一分もかからないんじゃないかな」


 警報が鳴れば、セキュリティ事業部の専門職として飼っている傭兵がやってくる。最寄りの拠点の浜松町から、概算三十人はすぐに駆けつけるはずだ。


「だったらあんた道連れにするわ」


 ハッタリではないだろう。警官にあるまじき殺意を剥き出しにしたその目を見れば、すぐに分かる。


「うちは別に良いよ。十四の時に一度死んだんだ。今さら恐くもなんともない」


 この刑事は自分と同じ手合いだ。目を見れば相手の感情が読める、そういう厄介な人間だ。


「天童会の事件と張の事件、それにこの襲撃は繋がってる。うちの組織を狙った犯行だ。うちは今回に限っては被害者だよ。見たら分かるでしょ」


「だとしても、あんたらと馴れ合う理由はこっちにゃないんだよ」


「利用すれば良い。それだけの割り切った関係でいよう。それがお互いのためだからね」


 銃口はまだ下りない。フロアの向こうから車が停車する音と一緒に、青のパトランプの明滅がうっすらと見える。応援が到着したらしい。


「うちと組んでくれたら、祝黒蜂(ジュ・ヘイフォン)に会わせてあげるよ」


「なに……?」


 願ってもない提案だろう。ここまで強情な人間相手なら、仕方ない。


「あの人に顔売っとけば、取引のあるヤクザ連中の情報が簡単に手に入る。あんたの本業も捗るでしょ」


 女刑事は誘惑を前にして揺れている。目を見れば分かる。


 根本が歪んだ正義の持ち主は、その遂行のために手段を選ばない。この提案は女刑事にとって、とてつもなく魅力的なはずだ。


 自動ドアが開いて、大人数の足音が駆け込んでくる。


「約束は守れよ?」


「守るよ。絶対に会わせてあげるから、一時休戦といこう」


 M4を捨てる白炭。やがて突入してきた傭兵が視界に入ると、麗羽は傭兵に広東語で命じた。


「この人は味方だよ。上の階を見てきて」

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