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第3話 凶兆を告げる狂犬

「警視庁の白炭と申します」


 昼過ぎに訪ねてきた刑事は、麗羽を招き入れた二階の応接用会議室で手帳を見せて名乗った。


「こちらにお勤めだった張賢達さんの件で、お話を伺わせてもらってます。少しで構いませんので、ご協力ください」


「はあ……」


 麗羽は促されるまま、女刑事の向かいに座る。女刑事はメモ帳を開き、ボールペンを走らせる。


「お名前は古賀さんでよろしかったですね?」


「はい」


「張さんの部下だったんですよね?」


「はい」


「事件当日……つまり昨日ですね。張さんに何か変わった点はありましたか?」


「変わった点……特になかったかと」


「張さんの件は会社で知りましたか?」


「ニュースで知りました。まぁその前に連絡網で回ってきてたんですが、見落としてしまって」


 視線を落として、両手を握り込む。


「犯行現場には、張さんのご遺体に犯人が残したと思われるメモがありました。写真はお見せできませんが、内容をかいつまんで説明すると、『お前達を許さない』という旨の中国語です」


「張課長が誰かに恨まれてたってことですか?」


「その可能性も否めません」


 女刑事は茶色い瞳でまっすぐに見据えてきた。麗羽は目線を伏せて、静かに目を閉じる。


「ところで、あなた方セキュリティ事業部では、銃を取り扱っていますよね」


 質問に顔を上げる麗羽。返事を待たず、女刑事は続けた。


「ロシアのアルクティカ・ファイアーアームズの製品は、あなた方が独占販売しているとか」


「そうですが……」


「その銃が先日、とある事件に使われました」


 ようやく本題に切り込んできた。麗羽は戸惑いを顔に張りつけて、俯く。


「APSー10という機種です。10ミリオート弾を20発装填可能で、発射方式はセミオートと高速二点バースト。スライドストックが付属し、オプションでMーLOKとKeyModに対応可能。それで価格は5万円。この手の銃では格安です」


「それが何か?」


「その銃が現場に残され、国内で唯一取り扱っている会社の課長が殺害された。どうにもでき過ぎた話だとは思いませんか?」


「そう、かもしれませんね……」


 小さく何度か頷いて、


「でも、私は何も知りません。課長のことも、何も」


「何も知らない……」


 女刑事の目が瓶底眼鏡の奥で鋭く輝く。鋭利な刃物のような閃きだ。香港の刑事で、こんな人間を何度か見たことがある。


「分かりました。ご協力ありがとうございます」


 人当たりの良い笑顔で女刑事は締めくくった。


 フロアに戻ると、事業部の空気はざわついたままだった。課長が殺人事件に巻き込まれて、警察がやってきたのだから無理もない。


 自宅のマンションのゴミ捨て場に放置されていたという張の遺体は、ニュースでは激しい暴行の痕があったと報じられていた。規制の強いメディアでその表現なのだから、相当惨たらしく殺されたのだろう。


「古賀、大丈夫だったか?」


 自席に戻ると、綾辻が声をかけてきた。麗羽より先にあの刑事から事情聴取を受けて、たっぷり冷や汗をかかされたからか、ネクタイを緩めてボタンも外している。


「うん。さすがにビビったけどね」


「だよな。俺職質されたことあるけど、雰囲気全然違ったわ」


 どうせ接待で飲み過ぎた時の話だろう。酔っ払い相手と殺人事件の聴取では、勝手が違って当然だ。


「部長から、俺らはもう帰って良いってさ。星野のやつも便乗して帰った。お前、どうする?」


 フロアの奥に座る部長の方に目をやると、ウェブ会議に参加している様子だった。声を抑えながら話しているらしいから、相手は香港の本社だろう。


「訪問予定があるから、そっち行ったら帰るよ。張課長が開拓したとこだし、先方も知ってるはずだから、行かなきゃ」


「そうか。あまり無理するなよ」


「分かってるよ」

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