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貴方の望み通りに・・・

作者: kana

もう無理なのね


どんなに貴方を望んでも


どんなに貴方を見つめても


どんなに貴方を思っても


だから、


もう貴方を望まない


もう貴方を見つめない


もう貴方のことは忘れる



一度も笑顔を見せてくれなかった貴方



さようなら





10年前、王宮に歳の近い子供たちが集められた。

まだ、6歳になったばかりの私はいつもよりも綺麗なドレスに、普段付けない装飾品に飾られ少し大人になった気がして浮かれてたように思う。

お城に行ったら絵本の王子様に会えると本気で信じていた。


お父様とお母様に連れられて初めて見るお城は絵本なんかよりもずっと綺麗で大きくて圧倒されたのを覚えている。


会場に行くとキラキラしたドレスを身にまとい歳の近い子供たちが沢山いて、まだ友達のいない私にはどうすればいいのか分からなくてお母様のドレスの裾に隠れるしか出来なかった。


お父様とお母様に他の大人が挨拶に来られる時だけ、横で一緒に挨拶をしたら、また後ろに隠れるのを繰り返していた。


席に着いても周りを見る余裕もなく早く帰りたかったのを覚えている。


そんな時会場がザワついた。


視線をあげると、綺麗な女性と薄い金色の髪に端正な顔立ちの男の子がいた。


綺麗な女性はこの国の王妃様だと小さい声でお母様が教えてくれた。

隣にいるのが第1王子様だとも。


王妃様が「今日は気軽に楽しんで行ってくださいね」と簡単な挨拶を終えると、お父様とお母様に連れられて王妃様と王子様に挨拶に行った。


我が家はこの国に4つある公爵家の1つで1番目の挨拶だった。

幼い頃から礼儀作法やマナーを叩き込まれた私は緊張しながらもカーテシーで挨拶をした。

お父様が一言二言話すと元の席に戻った。

緊張のあまり、王子様のお顔は見れなかったけれど、自分自身の挨拶に満足できて緊張は解けた。


それでも両親の側からは離れられずお父様もお母様も困った顔をしていたけれど、目の前の色とりどりのお菓子を黙々と食べていた。


一通り他の貴族の方たちの挨拶が終わると子供たちも自由行動になり、女の子達は王子様を囲んでいた。


お母様が「レティシアは行かないの?王子様よ」って聞かれても、あんなに囲まれていては近づくことも出来ないからいいと断った。

王子様が最後に挨拶をした時、一瞬目が合った気がした。

ちょっと嬉しくて笑顔になってしまった。


まだこの時は何も思わなかった。



1週間後、私が婚約者に決まったとお父様に伝えられた。







さらに1ヶ月後、王家からお茶会の招待状が届いた。


その日は朝から私の専属侍女のアンに起こされ「とびっきり可愛くしましょうね。最初が肝心ですから!」と気合いが入っていた。


浴室に連れ込まれ他のメイド3人で痛いぐらいに磨かれピカピカになったが既に疲れて抵抗もできず、されるがままドレスを着せられ、薄い化粧をし、髪もサイドを編み込みドレスと同じ緑のリボンをつけてくれた。


アンもメイド達もやりきった感で満足気に頷いていた。


お父様は茶色がかった金髪に青の瞳。

お母様は銀髪にピンクがかった紫の瞳。

私はお母様と髪も瞳の色も同じ。

顔もお母様そっくりだとお父様は私を溺愛してくれている。


お父様とお母様の待つエントランスに行くとお父様は「うちの天使が・・」と涙目で抱きしめてきた。

お母様は「まあ!可愛いわ。さすがわたくしの娘ね」なんてそっくりな顔で褒めてくれた。


3人で馬車に乗り込みお城に向かう途中にもお父様は「何で家の娘なんだ」と頭を抱えていた。そんなお父様の背中をお母様は優しく撫でながら困った顔をしてた。



応接間に通され、中には以前会った王妃様と王子様、そして初めて会う男の人この方が国王様だと雰囲気でわかった。


お父様に続いてお母様と一緒にカーテシーで挨拶をすると、国王様も王妃様も笑顔で返してくれた。


王子様は無表情で私を見て視線を外された。


何も話さない王子様と私に「デューク庭園に案内してあげなさい」と王妃様に言われ嫌そうな顔で「では、こちらにどうぞ」と言ったあとは背を向けられた。

急いで席を立って挨拶をしてから慌てて追いかけた。

扉が閉まる前に「デュークったらダメね」と王妃様の声が微かに聞こえた。


王子様は待ってもくれず振り向くこともせず先を歩いていた。

小走りで追いかけても気にもかけてくれなかった。

その時いい香りがすることに気づいた私は追いかけることをやめた。

だって、そこには綺麗に手入れされた花々が幻想的に目の前に広がっていたから。


王子様のことはその時には忘れていた。


しゃがんで花を見つめていると「おい、おい!聞こえないのか!」と後ろから声が聞こえた。

振り向くと王子様が汗だくで怒った顔で立っていた。


すっかり王子様のことを忘れていた。


すぐに立ち上がって「申し訳ございません」と言ったが「帰るぞ」と言うとまた背を向け歩き出した。今度は置いていかれないように私も必死で追いかけた。


ようやく応接間に戻った時、なぜだかお父様以外はみんな笑顔だった。

そのままお別れの挨拶をして馬車に乗り込んだ。


馬車が動き出すなり「2人で話してどうだった?」とお母様はワクワクしながら聞いてきた。応接間から出てから帰ってきたところまでを正直に話すと、お父様の顔は憤怒の表情に、お母様の顔は困ったような表情になった。


まだ、この時も王子様に対して何も思っていなかった。






それからは王太子妃教育の為、1週間の内3日王城に通うようになった。


王城の廊下で王子様とすれ違うこともあったが「第1王子殿下、御機嫌よう」と挨拶をしても無表情で「ああ」の一言だけで、会話の無いまま4年が経った。


その頃には私はこれが政略結婚だと、貴族の義務だと理解していた。


我が家はこの国エンタイト王国の筆頭公爵家だ。年齢が近ければ婚約者に選ばれても不思議ではない。



はっきりいって、王太子妃教育では何度も心が折れかけた。邸宅に戻って部屋で泣き疲れて寝たことも何度もある。

それでも励ましの言葉もない。



嫌われている。

やっと鈍い私でも気づいた。


気づいてからはお父様にもお母様にも何度も「婚約解消したい」と訴え続けたが、困った顔をして「大丈夫」と言って聞いてもらえなかった。


それでも王宮の侍女や教師の方も良くしてくれた。

王妃様も優しく声をかけてくれた。

両親だって、邸の使用人たちだってわたくしを大事に可愛がってくれていた。



これだけ嫌われていたらそのうち第1王子殿下の方から婚約破棄してくれるだろう。と思うようなっていた。



それから2年後、12歳になった頃第1王子殿下の笑顔を見てしまった。

6歳の第2王子殿下を抱き上げて声を出して笑っているのを見てしまった。


元々、鋭い目付きではあるが、正端な顔立ちで、女性からは凄い人気があったが笑わない王子と言われていた。


心臓が痛いくらいにドキドキしてる。

こんなの初めてだった。

わたくしはその時恋に落ちた。


時が止まったかのように見つめてしまった。


視線に気づいて振り向いた第1王子殿下は、わたくしと目が合った瞬間にいつもの無表情になってしまった。

何故か泣きたくなった。

わたくしは咄嗟に踵を返して挨拶もせずにその場から逃げ出していた。


何なの、笑えるんじゃない!



今は嫌われていても、いつかわたくしにも笑顔を見せてくれることを信じてそれからは完璧な王太子妃に!横に並んでも彼が恥をかかないように努力した。





婚約してからは、婚約者としての義務は果たしてくれていた。

行事ごとにプレゼントも欠かさすことなく贈ってくれた。お礼を言っても「ああ」だけ、それでも婚姻を結べば距離も近くなり笑顔を見る機会も増えると信じていた。



15歳になり王立学園に入学をした。

2つ年上の殿下は今年卒業後、すぐ立太子する。

そして、わたくしが卒業後に婚姻となる。



もう婚約して9年が経つ。


結局、わたくし達の関係は変わらなかった。







学園では周りから遠巻きに見られ、挨拶はするものの友達は出来なかった。


でも、1人ではなかった。


隣国メリーサ帝国からの留学生であるラフィーネがいた。

彼女はお母様のお姉様が嫁いだ隣国公爵家の令嬢だ。わたくしとは従姉妹にあたる。


我が家から通っている為、登下校も一緒だった。

同い年なのに、しっかり者で明るい彼女といると、学園でのことも気にならなかった。



今日も教室の窓から殿下を見つめる。

いつも目は合うがすぐにそらされる。

出会った時から変わらない。


いつ見ても女性に囲まれている。

あいかわらず無表情だけど、会話はしているようだ。


「もうやめたら?」横からラフィーネが言ってきた。

「彼はレティシアを見ないわ」

「このまま婚約を続けても何も変わらないわよ」

「・・・そうね、殿下が卒業するまでにこの関係のままならもう諦めるわ」


もう、ギリギリだった。


人の悪意は怖い。

靴を隠されたことも一度や二度ではない。

教科書だって何度も破られた。

他にも数えたらキリがない。


ワザと聞こえるように「お飾りの婚約者」「相手にもされない婚約者」「血筋だけで選ばれた婚約者」そう噂されているのは知っている。



わざわざ殿下は否定も肯定もしないと教えてくれる令嬢もいる。



ラフィーネから学園でのことが伝わっているようでお父様は「大丈夫か?このままの状態なら婚約解消も視野に入れよう」と言ってくれるようになった。

お母様は難しい顔をして何も言わない。


そういえば、わたくしも殿下の前では笑ったことがなかったかもしれない。


だって挨拶しかしたことがないもの。



わたくしは笑わない訳じゃない。

どちらかというとよく笑う方だ。


我が公爵家では優しい両親にわたくしに甘い使用人たちに囲まれて育った。


4年前には弟のロイが生まれて、邸のみんなで溺愛している。

可愛くて可愛くて仕方ない。

きっとあの時の殿下もそうだったのだろう。





殿下の卒業まで後1ヶ月程になった頃見てしまった。

相手の姿は見えなかったけれど、学園の庭園をラフィーネと散歩している時、植木で死角になるところで殿下があの時の笑顔を誰かに向けている所を。


10年よ!10年間も婚約していたのにわたくしには見せてくれなかった。

一度も!


もう無理だと思った。


もう殿下のことを考えるのも思うのも嫌になった。



帰ってすぐにお父様に「お願いします。婚約解消をして下さい!お願いします。お願いします」と泣きながら訴えた。

痛々しそうにわたくしの涙を拭いながら「わかった」と言ってくれた。


あとのことは、お父様に任せた。


殿下の卒業式の前日に婚約の解消が成立した。







卒業式当日、卒業生代表で挨拶をした殿下を見てから帰路に就いた。


夕方からの卒業パーティーには参加しない。


着替えが終わり次第、ラフィーネと一緒に隣国に2年間留学する。


結局10年も婚約していても殿下とは挨拶するだけの知り合い程度の関係しか築けなかった。


もう忘れよう。


きっと隣国ではラフィーネもいるし、わたくしの事を誰も知らない学園では今よりも楽しい学園生活が送れるはず。


お父様なんて「嫌だ~行かないでくれ~」とわたくしに縋りついてお母様に怒られていた。

そんなお母様も涙目で抱きしめてくれた。


まだ幼いロイが「ねえたま行かないで」と大泣きするのには、わたくしも抱きしめて泣いてしまった。


それでも、このままこの国にいることは出来ない。



「次、帰ってきた時にはきっと強いわたくしになっているからね」と馬車に乗り込んだ。




殿下には卒業パーティーの翌日、つまり明日立太子の儀が終わってから、婚約解消の報告がされるらしい。


その時に手紙を渡してもらえるようにお願いしている。





さようなら 殿下。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今日から隣国メリーサ帝国の学園に2学年から編入する。


もちろんラフィーネも一緒に。


帝国のリスナート公爵家に嫁いだお母様のお姉様、つまり伯母様とは何度かお会いしている。

お母様をおっとり系だとすると、伯母様は優しい顔立ちだがさっぱり系で人によってはキツく感じる人もいるだろう。

ラフィーネは顔は伯父様似で、性格は伯母様似。

公爵家にはラフィーネの4歳年上のテオドールお兄様と4人家族でテオ兄様と呼ばせてもらっている。

テオ兄様は伯母様似で優しい顔立ちの美男子だ。


6歳で婚約するまでは、母国と隣国を行ったり来たりしながら交流を持っていた。

その頃兄妹のいないわたくしは優しいテオ兄様の後を追いかけては構ってもらっていた。


みんなに見送られラフィーネと馬車に乗り込む。

母国では出来なかった友達を帝国で作ることが第1の目標だ。


「緊張しないで大丈夫よ。レティシアなら友達なんてすぐにできるわよ。自慢の従姉妹なんだから!」

「そうだといいけれど・・・」自信がない。

「大丈夫!見た目だってこんなに可愛いのよ!性格だって控えめで守ってあげたくなるわ!」

「前の学園では誰もそんなこと言ってくれなかったわ」

「大丈夫だって!ここは帝国よ!レティシアのことを色眼鏡で見る人はいないわ!」

「そうかな?」

なんて励まされているうちに編入する学園に着いた。


馬車からラフィーネが先に降りて、続いてわたくしが降りると一斉に注目を浴びた。


一瞬体が強ばったがラフィーネが手を引いてくれたことで余計な力が抜けた。


「ラフィーネじゃない!」「帰ってきたの?」前から2人の令嬢が歩いてくる。

「あら?もしかしてレティなの?」


え?


「はい、レティシアと申します。」

「やっぱり!覚えてない?昔リスナート公爵家でよく遊んだでしょ?」


「もしかしてリットにアリス?」

「そうよ!」「覚えてるじゃない!」


リットとアリスは双子の姉妹で帝国に来た時にはよく遊んだ。というか面倒を見てもらっていた。

2人は双子だけあって見た目はそっくり。

性格もそっくり。

親も間違えると聞いていたけれど、わたくしは間違えたことがなかった。


「あとでゆっくり話しましょう」「同じクラスになれるといいわね」と別れてわたくしとラフィーネは職員室に向かった。


職員室で担任となるアルフィ先生を紹介された。

縦にも横にも大きい貫禄のある先生だ。


わたくしとラフィーネは同じ2年A組だ。

各学年AクラスからEクラスまでの5クラスあり、1クラス20人から30人くらいで成績順に振り分けられているそうだ。

そこには貴族、平民関係なく実力でクラスが決まるらしい。



校舎はA棟B棟・・・とクラス毎に棟が違う。

だから、1年、2年、3年のA組はA棟となる。


A棟の2階にわたくし達2年A組の教室があった。

先に先生が入り、続いてラフィーネとわたくしの順に入室する。


一斉に注目され、緊張が高まる。


先にラフィーネから自己紹介された。


「みんなも知っていると思うけど、ラフィーネ・リスラートよ!横にいるのがわたくしの自慢の従姉妹!可愛いでしょ?隣国エンタイト王国からの留学生よ仲良くしてあげてね」


もう!自己紹介ぐらい自分でできるわ!


「レティシア・ラモーネと申します。よろしくお願い致します」


緊張で涙目になってしまった。


目線を上げるとリットとアリスがニヤニヤしながら顔の横で手を振っていた。


気が抜けてふにゃっと笑ってしまった。

と、同時にクラスメイト達がザワつきだした。


一番後ろの並んで空いている席がわたくし達の席だった。

前にはリットとアリス!

最っ高のポジションだわ!


今日はホームルームだけで授業は明日からだ。


ホームルームが終わると一斉に囲まれた。


「学園を案内するよ」

「分からないことは何でも聞いて」

「これからよろしくね」


緊張するわたくしに気を使ってくれている。

嬉しくって、「ありがとうございます」と笑顔になる。


一瞬で静まり返る。


え?どうしたの?わたくし何か間違えた?

焦って、不安になってしまう。


「はーい!今日はここまで!」

「続きは明日ね」

「初日だし疲れているからね」

ラフィーネ、リット、アリスが助け舟を出してくれた。


ホッとして、「明日からよろしくお願いします」と挨拶して、4人で教室から出た。


はぁ緊張した。

だけど前の学園とは全然違う。

きっと楽しい学園生活になる!

そんな予感がする。


「さ!街に繰り出すわよ!」

「美味しいケーキのあるカフェがあるの!」

「いいわね」

決定済みなのね。

「喜んで!」





その頃教室では


「すっげー美少女だったな」

「見た?涙目からのふにゃって笑顔」

「守ってあげたい」

「あれは私たち女から見ても庇護欲が唆られるわ」

「学園に慣れるまでは見守ってあげようぜ」

なんて、会話があったことなんてもちろん知らない。





レティシアがいなくなった。


婚約も解消されていた。


原因が俺だって分かっている。


10年間も最低な態度を取っていた。


何度でも、何度でも、謝るから。


もうあんな態度を二度と取らないから。


次は絶対に大事にするから。


お願いだ。


許してくれ。






レティシアに贈った卒業パーティー用のドレスは俺の知らない間に返ってきていた。

開封もされていない。

俺の独占欲丸出しのドレス。


エスコートをする為に会場の入口で待っていたが、挨拶の時間になり仕方なく会場に入った。


パーティーの最中もずっと入口を気にかけていたが、結局最後までレティシアが現れることはなかった。


エスコートをする約束はしていなかった。

俺が勝手にするつもりでいただけだ。


イベント毎に何日も悩みプレゼントを贈ったが、何を書いていいのか分からず、一度もカードを付けることすらしなかった。



立太子の儀にも参加していなかった。



王太子になった次の日、婚約解消を伝えられた。

父上は厳しい顔で、レティシアを気に入っていた母上は「大事にしなさい!と何度も言ったでしょう!」と泣いていた。


足もとから崩れ落ちる感覚と目の前が真っ暗になった。


どうやって自室に帰ってきたかも分からない。



謝りに行こうとしても止められた。


そりゃあそうだよな。


もうこの国にはいないのだから。


渡された手紙には「お慕いしておりました。さようなら」と書かれていた。


涙が出た。





初めて会ったのは王宮でのお茶会。


挨拶の時も俺に見向きもせず、さっさと席に着いた後は黙々とお菓子を頬張っていた。

食べるお菓子が替わるたびに大きな目をさらに大きくして笑顔になる。

ドキドキした。


俺が令嬢たちに囲まれていてもレティシアは俺を見ない。

まだお菓子に夢中だった。

結局一言も話すことなくお茶会は終了した。


最後に目が合ったレティシアが俺に笑顔をくれた。

それが決定打だった。


すぐに母上に婚約をお願いした。


1ヶ月後、庭園を案内することになったが何を話していいか分からず、恥ずかしくて1人でどんどん歩いてしまった。まだ6歳のレティシアを置いてけぼりにしてしまった。

気づいた時にはレティシアは後ろにいなかった。

慌てて急いで来た道を戻ると、レティシアは花を見て優しい顔で微笑んでいた。

俺のことを忘れていると思った。

だから、キツい態度を取ってしまった。


最初から間違っていた。


謝りたくても、なんて切り出せばいいか分からなくて、目も合わせられなくなった。


優しくしたかった。


もっと話もしたかった。


笑顔が見たかった。


レティシアだけが大好きだったんだ。


愛してるんだ。


令嬢たちに囲まれても指1本触れたことはない。

何故、彼女たちをもっと拒絶しなかったのか、レティシアに対する令嬢たちの嫌がらせや、嫌味も俺の耳には入ってきていたのに、守ってあげることすらしなかった。



18歳で婚約者のいなくなった俺に群がる令嬢やその親達を冷めた目で見てしまう。



レティシア以外を選ぶことはない。




ごめんレティシア。


もう一度会えたら今度は絶対間違えない。


だから俺を嫌いにならないで。


もう一度チャンスをくれないか?










留学してきてもうすぐ2年が経つ。

あっという間だった。


毎日が充実しているし、友人もたくさん増えた。


勉学も頑張った。

試験前はみんなで教えあって、わたくしが在籍した2年間は1人もクラスメイトの入れ替わりはなかった。


卒業後、ラフィーネは「結婚は向かないから外交官になって世界中を飛び回るわ」と言い出し、嫁に出したくない伯父様は大喜びし、伯母様は怒り狂っていた。


リットとアリスは卒業と同時に結婚することが決まっている。

面白いことに、相手も双子でリットは嫁ぎ、アリスがお婿さんを取る。


どんな子供たちが生まれるのか今から楽しみだ。


わたくしだって、お付き合いしたいと手紙もたくさん貰ったし、直接告白もされたりした。



ただ彼ほど惹かれる人がいなかっただけ。





この2年間、一度も国には帰っていない。


両親とは手紙のやり取りを欠かさず続けている。

可愛い弟も大きくなっていることだろう。



殿下が婚約しただとか、婚姻が決まっただとかそんな情報は入ってきていない。


あれだけ魅力的な人だから、すぐに相手が見つかると思っていた。

わたくしが知らないだけでそんな人が既にいるのかもしれない。


忘れると決めて留学までしたのに、結局忘れることが出来なかった。

きっとあの笑顔を見ることが出来なかったことが未練になっているのだと思う。

それとも時間が忘れさせてくれるのか・・・



明日は卒業式だ。


わたくしは次席での卒業だ。



リットとアリスの合同結婚式が終わるまでは帝国に残る。





感動した。

リットもアリスも飛び切り綺麗な新婦さんだった。


双子の新郎の方が号泣するから、わたくしまでつられて泣いてしまった。

ラフィーネは爆笑していた。


明日には帝国を出発予定だ。


今晩はラフィーネと2人語り明かすつもり。

母国の学園でも、帝国の学園でもラフィーネがいたから頑張れた。

大好きで自慢の従姉妹だ。






帰ったらすぐにデビュタントがある。

ドレスは伯母様とラフィーネがデザインしてくれた。

装飾品は伯父様とテオ兄様からのプレゼントだ。

最後までお世話になりっぱなしのまま今日出発する。







王都の公爵邸に着くと、お父様が駆け寄ってくるなり抱きしめられた。

「もう何処にも行かないでくれ~」とオイオイ泣かれた。


お母様は「毎日慰めるのが大変だったわ」と笑っていた。


大きくなったロイは後ろからギュッと抱きついている。


楽しかった学園生活の話は尽きることなく仲良くなった友人達のこと、楽しかったイベントのこと、リットとアリスのこと、お世話になったラフィーネ家族のこと、話し出したらキリがなかった。そんな長話を喜んで聞いてくれた。



帰ってきてからはお母様とお茶をしたり、ロイの勉強を見たり、お父様と庭園を散歩したり楽しい日々を過ごしている間にデビュタント当日になった。



早朝、専属侍女のアンに起こされ朝から磨きに磨かれ、ラフィーネと伯母様からプレゼントされたドレスを着て、伯父様とテオ兄様からいただいたイヤリング、ネックレス、髪留めを着けた。

鏡の中のわたくしは少し大人になっていた。


エントランスで待っていたお父様は「僕の小さな天使が女神になっている~」とまた泣き出した。

お母様もヤレヤレとお父様を見たあと「綺麗になったわね」と褒めてくれた。

ロイも「姉様可愛い!凄く可愛い」と目をキラキラさせて褒めてくれた。


デビュタントは王城で開かれる。


エスコートはお父様だ。


到着が早過ぎて、緊張で落ち着かないわたくしは外の空気が吸いたくて庭園に出た。

目を惹かれる花々を見つめていると、後ろから音がした。振り向くと2年前よりも凛々しくなった殿下が目を見開いて立っていた。

慌てて「王太子殿下、御機嫌よう」と挨拶をすると「ああ」と・・・

「失礼します」と礼をしてその場を離れる。


びっくりした!びっくりした!

心の準備なんて出来ていなかった。


でも・・・何も変わらない。


「違う」突然殿下がわたくしの手首を掴んで振り向かせると抱きしめてきた。


何が起こっているのか訳が分からず身体が固まった。


「ごめん!レティシアごめん!本当は出会ったあの日からずっと、ずっと好きだったんだ!」


初めて名前を呼ばれた。


何を言っているの?


わたくしは夢を見ているの?


「本当は優しくしたかった。話もしたかった。周りの悪意からも守ってあげたかった。レティシアを大切にしたかったんだ」


これは本当に殿下なの?


「もう二度とあんな態度は取らない」


やっぱり夢なの?


「レティシアがいなくなって謝ることもできず、ずっと後悔していた。毎日、毎日後悔していた。今更だって分かっている。だけどお願いだ俺を許してくれ」


こんなに必死な殿下を見たことがない。


「愛しているんだ」


わたくしを抱きしめる腕が強くなった。


「レティシアだけを愛しているんだ」


殿下が震えている。


「本・・当・・・に?」


わたくしの肩に顔を埋めて「本当だ信じてくれレティシア」


もう、涙が止まらなかった。


「本当に本当?夢じゃないの?」


「信じてくれ。お願いだ何でもする、何でも聞くだから、俺を嫌いにならないで」



「!!嫌いになんかなれない・・・貴方を忘れようとしても忘れられなかったの・・・貴方以外の人を好きになれなかったの」






「・・・今も殿下を愛しているの」


ビクッと殿下が固まったと思ったらさらにキツく抱きしめられた。


わたくしもそっと殿下の背中に腕をまわした。

もう離れたくなかった。


「これからは何でも話す」

「はい」

「大事にする」

「はい」

「許してくれるのか?」

「はい」



そっと離れて見上げると、殿下はとても嬉しそうな顔で笑顔を見せてくれた。


目が離せなかった。


わたくしに向けられるその顔がずっと見たかったの。




その時会場から音楽が流れてきた。




デビュタント!

お父様を待たせている!


パッと同時に離れた。


急いで戻らないと!慌てるわたくしの手を取って「最初からこうすれば良かったんだな」と言いながら優しい目で笑ってくれた。


お父様の待つ控え室に入ると、わたくしと殿下を見てお父様は「やっぱりな」と、また泣き出してしまった。


お母様には「良かったわね。でもお化粧直しが先よ」と王宮の侍女を呼んでくれた。


一番最後に入場するわたくしのエスコートは殿下が譲らず、お父様から殿下に変更になった。


2人で陛下と王妃様へ挨拶に行くと、陛下からは「おめでとう」と、王妃様は泣き出してしまった。


もちろんファーストダンスは2人で踊った。

殿下が顔を近づけて「これからはデュークと呼んでくれ」と言ってくれたので、遠慮なく「デューク様」と呼ぶとわたくしがずっと見たかった笑顔になった。


それだけで会場中が騒然とした。





~数年後~



相変わらず笑わない王太子だが、レティシアの前だけでは蕩けるような笑みを見せるようになったとか・・・


2人が庭園を手を繋いで歩く姿もよく見られる光景だとか・・・


結婚して二男三女に恵まれても仲睦まじい2人の散歩の様子は変わらなかったとか・・・















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