②情報収集
その頃、ISDCの英国支部では、長官たちがそれぞれの諜報機関のエージェントと職員にISDCの現在の状況を伝えていた。それから、情報収集もしていた。
NMSPのエージェントたちも、他の諜報機関のエージェントなどと一緒にパソコンに向かい、情報を集めている。紀ノ松の隣には、SSB時代の仲間でもあり、同じ年の友達でもあるエージェントAの相川 宇野が座っていた。しかし、あと1つだけ詳しい情報がまだ手に入っていない。
「元エージェントKの5。まさか、本当にこんな日が来たなんて。信じられない」
「僕たちNMSPが悪い。罠だと早く気付いていたら、こんなことにはならなかった」
「NMSPのせいではないよ、エージェント5。元気出そうよ」
「ありがとう、エージェントA。今の所わかっている情報は、ISDCに属する全ての諜報機関の人々を首輪と薬で支配下に置いて、再び世界一の諜報機関に育て上げること。それから、ISDCの本部を日本支部に変えることだけだ。僕たちが罠にかかった時、ジェイムズがそう言っていたよ」
「でも、ずっと調べているが、いつAIIBSOがISDCの本部を自分たちの日本支部に変えるための式典を行うのかが分からないよ。式典の情報が、なにひとつ手に入っていない」
「確かに」
紀ノ松以外のエージェント4人もやはり情報は得られていないようだった。
「やっぱりだめだ」
「エージェント1はどうだった?」
「こっちもだめだった、エージェント3」
「全然見つからない」
しかし、その数分後。紀ノ松は、英語でAIIBSOの表の顔のことばかりしか書いてない極秘公式ウェブサイトを見つけた。その中で、『当構成員専用ページ』と書かれたボタンを押してみる。すると、ユーザー名とパスワードを入力する画面が表示された。
「待てよ? 怪しげな所を見つけたけど、パスワードとユーザー名を入力しないと入れない」
「何か心当たりありそうな物は無い? エージェント5」
ヨインターが言った。
「とりあえず色々入力してみよう」
紀ノ松は手当たり次第に入力してみるが、何度やってもエラーが出てしまう。
『IDとパスワードが正しくありません』と英語で出て来るばかりだった。
「ダメだな。何度やっても同じだ。こんなに情報を探しても、パスワードやユーザー名を入力しても侵入できないということは、きっとAIIBSOの人以外にはよっぽど知られたくない情報が記されているに違いない」
「それでは、一体どうすれば?」
「今一瞬、思い浮かんだけど。このページはAIIBSOの構成員専用ページだから、構成員のユーザー名とパスワードを入力すればいいのかもしれない」
「でもそんなもの無いよ、手元に」
「いや、それらしい物があるよ。僕のスーツケースの中に今、奇跡的に入っている。そもそも僕だけではなく、エージェント1~4も持っているはずだ」
「どうして、それが言い切れる?」
「僕たちは、今までAIIBSOの構成員に変装する際、彼らを倒して所持品を奪い取ってから変装してきたんだ。彼らの所持品の中には、必ず構成員証明書のカードがあった」
「言われてみれば、確かに。それなら持っている」
横田も納得したように頷く。紀ノ松は、自分の諜報活動用のスーツケースからあるものを取り出す。フランス武器密売組織Q&Gの潜入時に奪い取ったエミール・ブラウンというISDC情報収集部の新人構成員の構成員証明書だ。
「これの誕生日がパスワードで、構成員番号がユーザー名だ。でも、僕があの時レーザー光線銃で倒したから、アダソン兄弟はもうこの構成員のデータを消したかも。消してないといいんだけどな」
紀ノ松は心配しながらも、入力する。そうしたら、まだ消されていなかったらしい。
英語で『ようこそ、エミール・ブラウンさん』と書かれていて、その下には構成員証明書と同じく、構成員の顔写真とプロフィールが英語で記載されていた。さらにその下には、今月の予定、お知らせ、メールなどのメニューボタンもある。
紀ノ松は、今月の予定ボタンを押してみた。すると、今月の予定が出てきて、いつ式典開催日なのかがやっと判明する。
「これでやっとわかったぞ。しかもやばい!」
「どうして?」
「まさか……」
「そう。そのまさかだ! エージェント2。もう残された時間は少ない。日本時間の明日、午前10時ちょうどから開始予定だ!」
「もしその式典で、ISDCの本部の入り口広場にある旗のポールに星条旗と日の丸国旗とAIIBSOのロゴの旗全てが揚がったら……」
「そうだ、エージェント4の言う通りだ! 3つの旗が全て登り切った瞬間、ISDCの本部は完全に無くなり、AIIBSOの日本支部として乗っ取られ、取り返しの付かないことになってしまう。明日の式典のいつ全ての旗が揚がり切るのかは、ここには書いていない! つまり、いつ上がり切ってもおかしくないという意味だ。だから、一刻も早く何とかしないといけない。式典が始まる前に何とかしないと!」
「式典を中止させればいいはずだ」
「つまり、そういうことだ。そのためには、アダソン兄弟の野望を止めないといけない!特に僕にとってもだけど、ジェイムズだ! 今度こそ僕が本当の最終決着を付けてやる!」
「もしかして先輩エージェントIの事で、NMSPに行ってもまだジェイムズを憎んでいたの?」
相川が問いかける。
「そうだ。エージェントA」
その後、エージェントたちは、この支部にいる人全員にそれを伝えた。