①ありがたく感じているアダソン兄弟
一方、日本はすっかり日も落ちて、時刻は6時半であった。AIIBSOの支配下に置かれたISDCの本部では、暗くなってもなお、明日のAIIBSO日本支部の式典に向けて準備をしていた。ISDCと複数の諜報機関の職員とエージェントは支配され、無理やり準備の手伝いをさせられていたのである。また、工事音も聞こえた。
もう薬を注入され、操られている人もいる。その中でも、NMSP・ミナト フィックス スパイ(MFSP)の職員・MFSPのエージェントは、AIIBSOのエージェント構成員2人に見張られていた。ISDCの日本支部から連れられて来てから、ISDCのメインビル34階のオフィススペース広場にずっと立たされていた。
NMSPのエージェントたちがどうなったのかは、まだ知らされていない。NMSPの長官である坂本 美春とMFSP長官の斎藤 美由紀は、一番前に立たされていた。
「一体、いつまで立たせるつもりだ?」
「エージェントたちは、まさかもう……」
「何を企んでいる?」
ぶつぶつ言っていると、アダソン兄弟が来た。
「2人とも、見張りありがとう。端にいてくれ」
「どういたしまして」
「弟。私から見て左側にいるのは、前に私と手を組んでいた元MFSPの奴らだ。右側にいるのは、元NMSPの奴ら」
「奴らがそうなのですね、兄。私は奴らと会うのは初めてです」
「私も元NMSPの奴らを見るのは、今日が初めてだ」
アダソン兄弟がそう言っていると、アダソン兄弟を見たNMSPとMFSPの職員やエージェントが次々に叫びだした。
「首輪を外してくれ!」
「解放しろ! このアダソン兄弟め!」
「何を企んでいる?」
「何時間もここに立たせっぱなしで」
「一体どうするつもりなのですか?」
「うるさい! 落ち着け! 黙れ! 兄からの命令だ」
マックがそう言うと、みんな静まり返った。
その次にジェイムズがMFSPと齋藤長官の方を向きながら、次のように言った。
「私達兄弟は、君たちにお礼とこれからの役割を伝えに来た。まずは、元MFSPのお前らからだ。久しぶりだな。副長官の斎藤 美由紀新長官。MFSPはとっくに壊滅したかと思っていたが、存続していたんだな。その努力は褒めてあげよう」
「そんなのは、誉め言葉ではない! それより、なぜお前はあの時、笹原前長を殺したんだ!」
「そんなの考えてみれば簡単だ。あいつは、ずっと私にとって荷物でしかなかった。手を組んで利用した後に、君たちには死んでもらおうと考えていたんだ。だが、『NMSPの邪魔者のあの5人』によって、失敗した」
「一体それは何のために?」
「さては、騙したな!」
などと、MFSPのエージェントたちが言う。
「我々は、ISDCに属する諜報機関の人たちを調べていたんだ。しかし、当時はあまり情報が手に入らなかった。だが、君たちと手を組んでから、君たちの行動により情報を知ることができたよ。またNMSPのあの5人のおかげでもある」
「そんなお礼して欲しくない」
「赤い首輪を外せ!」
「おっと。いいのかな? それ以上逆らうと、感電させて薬を注入するぞ。嫌なら、おとなしくするがいい。弟、これから元NMSPの人たちにお礼を伝える。その前に『あいつ』を呼んで、ここに連れてきてくれ」
「わかりました、兄」
マックはそう言って、『誰か』を呼びにどこかへ行った。
その間、NMSPの方ではマックが連れてくる人物を予想していた。
「誰……?」
「さあ?」
「まさかね」
数分後、マックは『誰か』を連れて戻ってきた。
『誰か』を見た瞬間、NMSP全員に衝撃が走り、言葉を失ってしまう。マックは何と、ISDCの中で唯一存在が認められている情報部の部長である岡部 秋富を連れてきたのだ。岡部部長もまた、AIIBSOのユニホームTシャツを着せられている。しかも、岡部部長はすでに薬が注入されていた。
「岡部部長がどうして?」
「まさか……?」
「岡部部長、どうしましたか?」
最後に坂本長官が言った。だが、岡部部長は何も返事をしない。
アダソン兄弟と岡部部長が、坂本長官の目の前に来た。
「エージェント5人に何をしたのでしょうか?」
「お前が、NMSPの長官だな。お前のことは知っていたけど、初めての対面だな。こいつは実験台として、最初に薬を注入した。私たちは、こいつを利用したんだ。つまり君たちは、こいつの口車に乗せられて、まんまと我々が仕掛けた罠にかかったんだよ。おかげで、邪魔者だったあの5人を始末することができた」
「そんな……。自分のせいだ」
「死んだなんて……」
「そんな」
MFSPたちは、揃って自分をせめる。
「何! 死んだだと!? よくも俺の友達のエージェント4を殺したな。許さないぞ! この兄弟め! 倒してやる」
始末されたのは、新板と同じ年で友達であるMFSPエージェントNO.4の新妻 光星だった。
新妻は首輪により感電してしまい、気絶してしまう。MFSPもNMSPも、彼を助けることができなかった。
「兄。こいつはもう3回逆らったため、薬を注入です」
「そうだな。あいつに注入してくれ」
「わかりました」
岡部部長は、エージェント構成員の横に置いてあったジュラルミンケースを探る。大量に入っている注射器の中から1本だけ取り出す。そして、気絶した新妻に注入してしまったのだ。
「ありがとう。明日になれば、こいつも操り人形になる。君たちには、明日の式典準備をしてもらう」
「ぐずぐずするな! 素早く動け!」