5話
そこまで書いたところでiPadの電源を切る。
思い返して、文に起こすだけで心がギュッと締め付けられるような感覚に襲われる。
「はぁ……」
辛い気持ちのまま席を立ち、冷蔵庫を開ける。
ラップを剥がして、鶏胸肉を取り出しまな板の上に置く。
一センチ幅で包丁を入れ始める。
「ガチャ」
と玄関の扉が開く音が聞こえた。
父が帰ってきたようだった。
「ただいま」
「おかえり」
ここ最近父の帰りが遅かったので、こんな挨拶も久々に感じる。
風呂に入ってくる。と言い、父はシャワーを浴び始めた。
その間に俺は、父と自分の分の料理を作って机に並べておく。
料理に関しては数年やっているからか、手際も味も良い方だと勝手に思っている。
風呂から出てきた父と、久しぶりに机を囲む。
「「いただきます」」
「最近、学校は?」
「まぁ、普通かな」
「そうか」
父がなんとなくよそよそしく感じる。
会話するのが久しぶりだからだろうか。
沈黙が続く。
「……話があってな」
「うん、なに?」
いつになく深刻そうな顔で、話し始める。
「その、もし俺が再婚するとしたら、許してくれるか?」
「え……え!? 再婚、再婚か。いつも頑張ってくれてるし全然いいけど、いつそんな相手見つけたんだよ」
再婚はないだろうと思っていた矢先に再婚の話。
驚いて素っ頓狂な声をあげてしまうが、再婚については反対ではない。
家事が苦という訳ではないが、いままでより自分の時間が取れるかもしれないと考えると、嬉しいものだ。
「最近帰りが遅かった日が続いたろ……?」
「まさか……! 残業し続けてないか心配してた俺をよそにイチャイチャしてたとか、言わないよね……?」
「うっ……」
帰りが遅かったのは残業でもなんでもなかったらしい。
相手の女性の話を色々されて、その話が一段落ついた頃。
父は部屋に戻る、と食器を片付けリビングを出ようと扉に手をかける。
最後に、「あ、一応お相手の女性、明日家に来るから」そう一言残して去っていった。
俺が再婚ダメって言ったらどうするつもりだったんだよ……!
まぁ、父らしいか。
自分も部屋に帰り、学校の宿題を終わらせる。
父が帰るまで失恋の小説を書いていたからか、父の楽しいお相手との話を思い出すとなんか急に腹が立ってきた。
俺も、彼女欲しいな……。
東雲さんの笑顔が脳裏をチラつく。
一時期避けていたくせに、急にあんな距離詰められたら勘違いするっつぅの……。
これはなるべく早く席を変える必要がありそうだ。と、もやもやする気持ちを抑えて、そう思った。




