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黒い感情


 私の問いかけに角馬男が反応いたしました。


「プククク……面白いこと言う奴だなぁお前!

強いて言うなら俺はユニコーン怪人、コイツはフェニックス怪人ってところか!?

タハーッ傑作だぁコリャァ……ダメだ完全にツボに入っちまったわ。しばらく思い出し笑いしそう」


 終始ゲラゲラと下品な笑い声を上げたまま答えられます。見ているだけで腹が立ってきますが、これで一つ判明いたしましたの。


 なるほどユニコーンにフェニックスとは……随分と神聖生物モチーフな方々なんですのね。一方は純潔と暴力の象徴で、もう一方は不死と再生の象徴だとは。

 怪人風情が贅沢の極みですの。もはや野菜やフルーツとは格が違います。野菜の王様(モロヘイヤ)果物の王様(ドリアン)も共に泣いて逃げ出すレベルですの……!


 舐めてかからないほうがよさそうです。



「くふふ、ユニコーン、そんなに笑われては失礼ですよ、しかしながら……」


 鳥頭もそう(たしな)めはなさいますが、角馬頭と同じように肩を震わせて笑っていらっしゃいます。薄情で性格の悪そうな笑い方です。


 冷たい声色で彼が続けます。


「いやはや、無知ほど怖いものはないですねぇ。度が過ぎればそれは罪と成り得ます。くふふふ……少々お灸を据えて差し上げても問題はないかと。まぁ予定通りのことですが」


「さっきから何を訳の分からないことを……!」


 私には彼らの会話が一ミリたりとも理解できません。終始上から目線で、人を小馬鹿にしたような態度を取って。おまけにメイドさんも傷付けて。まさに悪人のそれですの。


 彼らは私の、そしてメイドさんの敵です。それだけ分かれば充分戦う理由になります。けれど、まだそのときではありません。



「ゴチャゴチャ言う前にメイドさんをご解放なさいまし! このままではメイドさんがッ! せめてこの拘束だけでも!」


 焦る気持ちを抑えつけて必死に訴えます。メイドさん、さっきから血が流れ続けているのです! 傷口も全然塞がりませんの! せめて……せめて応急処置をさせてくださいまし。

 


「その女が気になって、満足に我々の相手も出来そうにないと?」


「当たり前ですのッ! ふざけないでくださいましッ!」


 アナタ方のお相手と、メイドさんの治療のどっちが大切か、天秤にかけることさえおかしいのです。



「……ふむ。やはり甘い娘ですねぇ。ですがまぁよろしいでしょう」


 そう言うと、フェニックス怪人がパチっと指を鳴らしました。



「うぐぁああアアアッ!?」


「メイドさん!? どうなさいまして!?」


 その直後、突然メイドさんが苦しみ悶え始めました。何事かと見てみれば、拘束用のワイヤーが青い炎を発しながら燃え上がっているのです。

 ワイヤーが焼き切れるだけならまだしも、それに触れているメイドさんの肌までもが一緒に焼かれてしまっておりますの。



「なんて……(むご)いことを……」


 ……炎自体はほんの数秒で収まりました。けれど、直に拘束されていた部分は真っ赤に焼け爛れてしまっておりますの。痛々しくて見ていられません。



「ポヨ! なんかないんですの!? 浄化の光で傷を癒したりだとか! 私の体力を分け与えて差し上げたりだとか!」


 切り傷といい火傷といい、痕に残ってしまったらどうするんですの!? 

 悔しいですが、今の私では苦しそうに呻く彼女を衝撃を加えないように優しく横たわらせて差し上げることしかできません。


「…………申し訳ないポヨが、そんな都合のいい力はないポヨ。魔法少女の力は、その本人だけに特化したモノだポヨから……」


 申し訳なさそうに宝石のブローチが点滅なさいます。くぅ、肝心なときに役に立たない能力ですのね! 戦う為だけの力なんて要りませんの! 守るべき時に守れない、そんな力なんて……!


 私の憤りは虚しく宙に消えていってしまいます。




「おい、いいのか? あの女の拘束を解いて」


「別に構いませんよ。どうせ一人で逃げ果せるだけの体力は残っていないでしょう」


 向かい側の怪人らが静かに嘲笑なさいます。


 

――もう、アッタマにきましたの。


 その態度といい、あまりに雑過ぎるやり方といい、お怒り度激烈MAXですの。堪忍袋の緒が細切れですの。地獄の釜も大沸騰してますの。


「アナタ方、絶対に許しませんの……ッ! 覚悟してくださいましッ!」


 先端を尖らせたステッキを両手に生成いたします。彼らにも同じような痛い目を見てもらわなければ気が済みません。


 いつだか感じた黒い感情が、再び私の中を駆け巡るのを感じます。


 思いの力が魔法少女のエネルギーだとすれば、この恨みもこの怒りも、全て力に変換して差し上げますの。こんな仕打ちを目の当たりにしては、きっとポヨも同じ気持ちでございましょう。


 半ば無理矢理に適合率を高めていきます。




 しかし、どんなに強く念じてみても、身体の内側から少しも力が湧き上がってくる気配がありません。適合率に変化がないように思えて仕方がないのです。


 いえ、この感覚は間違いないでしょう。ポヨが少しも感応してくださらないのです!


「ポヨ! どうしてですの!? ここまでやられて、何で黙っていられますの!?」


「それはっ、その……ポヨ」


 胸の宝石の輝きが少し揺らぎました。動揺を隠せないかのような、そんな不安定なご様子です。


 仕方がありませんわね。本調子になってくださるまで私個人の力で頑張るしかないようですの。噴き出すアドレナリンに身を任せて、今できる最大の力で対応して差し上げますの。


 只今の適合率は91%といったところでしょうか。ちょっと心元ない数値ですが、やるしかありませんわね。



「ホーン……つまんねーな魔法少女プリズムブルー。所詮はその程度か。見ていて欠伸が出るぜ」


「確かにその程度の適合率では、我々が負ける確率など1%もありませんね。まぁせいぜい退屈させないでください。わざわざこんな辺鄙なところまで出向いてきたのですから。貴女から来ないのであればこちらから行かせていただきますが?」


「くっ……今行きますのッ! 首洗って待ってなさいまし」



 この戦闘にメイドさんを巻き込むわけにはいきません。今この状況で彼女を部屋の端まで移動させる余裕はございませんから、せめて、彼女から離れた場所で戦うようにいたしませんと。


 多大な不安を胸に抱えつつも、横たわる彼女の前に立ち塞がるようにして身構えます。これ以上後ろに攻撃を受け流すわけにはいきません。


 ステッキを逆手に持ち、一気に駆け出してフェニックス怪人の胴元へと突き刺しにかかります。

 

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