んぐぅ……まだ、まだぁ……ッ!
そこから先は防戦一方でした。
多角度からほぼ同時に放たれるラッシュ攻撃に、全くと言っていいほど対処が間に合いません。マトモに防ごうとすれば勢いで体ごと持っていかれてしまいますし、かといって避けようにも相手が速すぎます。
旬の季節かつ怪人二人の力を取り込んだカボチャ怪人は、今の私にはあまりに強すぎるのです。
直撃や致命傷はなんとか回避しつつも、段々と被弾が増えていきます。終いには身に纏った衣装はボロボロになってしまいました。肩口から胸元にかけて布地が大きく裂け、トレードマークの背中のリボンも半分取れかかってしまっております。
その内側に隠された肌には数多の打撲痕が……あまり意識しないほうがよさそうですわね。
圧倒的なピンチですが、まだ諦めるわけにはいきません。私には極限開放という切り札が残ってますの。
「んぐぅ……まだ、まだぁ……ッ!」
ポヨからの合図を信じて、カボチャ頭からの痛烈な一撃一撃を必死に耐え忍びます。一方的にやられるだけでは癪ですの。とにかく小さな隙を見つけては蹴りや拳を繰り出します。大半は防がれてしまいますが、何もやり返さないよりは幾倍もマシですわ。
とうに腕も足も鉛のように重くなっておりますが、まだ終わるわけにはいきません。この体が動く限り、私は戦い続けますの。
「この程度ですかプリズムブルー。少々拍子抜けしてしまいました、ねぇッ!」
「うっ……くぅぁ……ッ!?」
彼からのパンチを両腕でガードいたしましたが、疲れからか構えが甘くなってしまい、体ごと弾き飛ばされてしまいました。
受け身を取ることもできずに固いアスファルトの地面に放り出されてしまいます。二、三回バウンドして、ようやく壁にぶつかって停止いたしました。ザラザラとしたアスファルト面が容赦なく私の肌を削り、両手両足とも血だらけになってしまってしまいます。
「っ痛ツツ……ッ!」
少し動かすだけでも傷口に血が滲み、フリルスカートが赤く染まってしまいます。もはや立ち上がることさえ困難になってしまいました。
まさか、発動する前に負けてしまうだなんて、そんなことは……。
心に不安がよぎった、まさにそのタイミングでした。
「美麗、すまんポヨ! 待たせたポヨ!」
うなだれる私にも分かるよう、ポヨがチカチカと点滅して教えてくださいます。よかった! 間に合ったんですのね!?
「もう! ホントに遅かったですの!」
ボロボロの中でも、胸の内からパワーが溢れ出してくるのを感じます。ようやく反撃の時間ですの!
痛む足で無理矢理立ち上がり、ぎゅっと拳を握り締めます。
程なくして私の体表を淡い青い光が包んでいきます。足元から風が吹くかのように、独りでにスカートやリボンが揺れ靡きます。
所々破れていた箇所が再縫合されていき、傷付く前の綺麗な状態に戻っていくのです。同じく私の肌でも、血の滲んでいた傷口が少しずつ塞がっていきました。
体に溜まった疲労までは回復してくださいませんが、それでも十分なのです。先ほどまでは鈍重に感じていた体も、今は嘘のように軽くなっております。そのまま空も飛べそうなくらいですの。
光の収束と共に私の手の中に野球のバットのような大きめのステッキが生成されます。こちらを両手でしっかりと握り締めます。
「まさか……こんな、嘘ポヨ……!?」
「どうしましたの?」
ステッキの振り具合を確かめておりますと、胸元のポヨがやたらとテンション高めに騒ぎ始めました。
「適合率、脅威の94%ポヨ!」
「うそ、それって、茜さんと同じ……!?」
ついに、ついにここまでやってきたんですのね。戦闘開始直後からこの数字を叩き出せれば苦労しなかったのでしょうが、ようやく私も文字通りの意味で茜さんに〝並び立つ〟魔法少女になれたということでしょうか。
熟練のホームランバッターのようにステッキを掲げ、改めてカボチャ怪人に対峙いたします。
「お待たせいたしましたわね」
「ほう。まだそんな奥の手を残しておりましたか」
ケタケタと笑うカボチャ頭も今はもう怖くありません。
「今度は私の番ですの!」
大地を蹴り出し、彼に向かって思いの限りステッキを振り抜きます。指パッチンで移動される前に、その首、全力で貰い受けますの!
「……遅いですね。その程度ですか」
しかし、私の渾身の一撃は虚しく空を切りました。
瞬間移動を使うまでもなく、容易く私の背後に回り込んで攻撃をかわしたのです。
続いて放たれたのは目で追えないほどの速さの裏拳でした。大振りしてしまったせいか、一瞬、反応が遅れてしまいます。
咄嗟に片腕でガードいたしましたが、やはり桁外れの威力です。受けきれずに吹き飛ばされてしまいます。空中では体を支えられるものは何一つありません。どこかに引っ掛かろうにも地面も壁も遠過ぎて難しいです。
極限開放したというのにまだ力が足りないんですの?
それとも蓄積した疲労で動けていないんですの?
はたまた発動のタイミングが遅過ぎたのか、私の運が、日頃の行いが、心構えが、悪かったから?
飛ばされる最中、様々な思いが走馬灯のように頭を過ぎります。極限開放しても、それでもカボチャ怪人には遠く及ばないのでしょうか。
勢いのままに体の向かう先は……待ってくださいまし、嘘ですの。ピーマン頭とトウモロコシ頭が横たわる瓦礫の上側です。コンクリ片から飛び出した剥き出しの鉄骨がちょうどこちらを向いてしまっております。
尖った鉄片が私の体をザクリと貫き、背中から腹まで一直線に貫通する最悪のビジョンが脳裏によぎります。ステッキをぶつけようにも、とても間に合いそうにありません。
このままでは、私っ……!
恐怖のあまり、思わず目を閉じてしまいました。
まさか、こんなところで、終わりなんですの……?
「――諦めるのはまだ早いよ、美麗ちゃん」