抉りこむように打つべし、ですの!
スパコーン! という子気味いい音が足先から聞こえました。周囲のコンクリート壁に反射して山彦のように何度も反響いたします。
間違いなくピーマン頭にカカト落としがヒットいたしましたの。
靴裏に受けた衝撃の反動で飛び上がり、後方宙返りを二回ほど決めたのちにすたっと静かに着地いたします。
「魔法少女プリズムブルー、優雅に華麗に参上ですの。ご覚悟はよろしくて?」
乱れたスカートを平手で直し、背筋を伸ばして決めポーズいたします。
想定外だったのは、彼の脳天が意外に固くてヘタ部分ごと内側にめり込ませてしまったことですわね。見てみれば顔の形が見事に凹の形に変形しております。やはり頭の中身はスカスカだったのでしょうか。やった本人が言うのもアレですが、なんとも不恰好で気の毒ですの。
「グギギ……覚悟の前に不意打ちとは……卑怯ナリ……!」
膝を付きながらもグググと拳を握り締めて、早くもピーマン頭はお怒りのご様子です。あら、意外にタフですわね。そのまま脳震盪を起こしてお倒れいただいたほうが、この後痛い思いをしないで済みましたのに。
まぁいいですの。元より一撃で屠れればラッキー程度に考えておりましたので。あと二、三撃重めの蹴りを入れて差し上げてそのまま即ノックアウトですの。
改めて正面で向き合い直します。
「おやおや……今日は赤い魔法少女さんは居らっしゃらないのですか? お二人同時に叩きのめして差し上げようかと思っておりましたが」
心底余裕そうなニヤついた表情で、カボチャ頭が挑発の言葉を発します。
どいつもこいつも口を開けば茜さんのことばかり……私では力不足って言いたいんですの? この間から結構頭に来てるんですの。
「アナタ方なんか私一人で充分ですの!
さぁ、どなたからでもかかってきなさいな。全員指先一つでダウンさせてあげますの!」
売り言葉に買い言葉、というわけではございませんが、こちらも挑発には挑発でご返答いたします。
「フヒヒヒ……相変わらずお口だけはご達者のようで。その生意気さ、必ず後悔させて差し上げましょう」
カボチャ怪人が指を鳴らします。
「トリックオアトリート。せいぜい翻弄なさってくださいね……フヒ、ヒヒヒヒ……」
怪人方それぞれが瞬間移動いたしまして、私の周囲三方を取り囲みます。その能力、本当に厄介ですわね。ど真ん中でタコ殴りされるわけにはいきません。ここはヒットアンドアウェイ戦法が最適解でしょう。
やや大振り気味の回し蹴りで牽制を入れつつ、杖を地面に突き付けて、そのまま独楽のように回転いたします。固い靴裏による防御壁ですわ。やり過ぎると目が回ってしまうのが難点ですが。
彼らの一瞬の動揺を見逃しません。勢いを殺すことなく杖をグイと押し込んで、その反発で棒高跳びのごとく宙に飛び上がります。向かう先はトウモロコシ頭の顔面です。
遠心力によって何倍にも増幅された飛び蹴りですの。重い一撃にたまらずトウモロコシ怪人はその腕でガードなさいますが、関係ありません。
「ン……グゥ……ッ!?」
体ごと回転することによって、その腕のガードを捻り弾き飛ばします。そのまま靴裏をドリルのようにして顔面に食い込ませます。顔面の粒々を綺麗に擦りおろしてコーンポタージュの粉末にして差し上げますの。
「トリックオアトリート」
「ほえぁっ!?」
突如として声が聞こえたかと思うと、トウモロコシ怪人の姿が消え失せてしまいました。力の逃げ先が無くなって、腰から地面に落下してしまいます。
「……痛つつ……ちょっと! いきなりの回避は反則でしてよ! 打ちどころが悪くてぎっくり腰になったらどう責任取ってくれますの!?」
「あのまま蹴りで体を貫かれるよりは何倍もマシでしょうね」
「ぐぬぬぬ……正論ですの」
カボチャ怪人がケラケラと乾いた笑いをなさいます。トウモロコシ怪人は真後ろに出現なさいました。鼻先にあたる部分を押さえていらっしゃいます。少なからずダメージは与えられたようですの。
やはりあの能力を封じねば色々と面倒ですわね。ダメージを加える前に回避されては、いくらこっちのスタミナがあろうと無駄になってしまいます。もう少し頭を捻って考えませんと。
手に持つステッキを握り締め、気を取り直して立ち上がります。
「ねぇポヨ、私にもなんかこう、もっと分身攻撃ーとか、ミラクルステッキブレード! とか見た目も効果も派手目な大技、ないんですの!?」
「あったらとっくの昔に伝授してるポヨ!」
「くぅ、それもそうですわね」
つくづく肉体派の魔法少女ですの。このまま地道に打撃で削りきるしかありませんか。せめてこちらにも飛び道具と言いますか、牽制攻撃ができればいいのですが……。
あ、そういえば以前茜さんがやってましたわね。真似してみましょうか。
「食らいなさいまし!」
大きく振りかぶって、手に持つ杖を放り投げます。ブーメランのように横回転するそれは、カボチャ頭に向かって一直線に飛んでいきます。
「何をまた猪口才な。この程度の投撃、かわすまでもありませんよ」
「隙アリですの!」
本命は当てることではありません。あくまで私自身から気を逸らすことです。彼が杖を避けている間に、瞬時に姿勢を低くしてピーマン頭に忍び寄ります。
ようは瞬間移動されてしまう前に一撃当ててしまえばよろしいのです。駆け寄る勢いを殺さずに、渾身の足払いを放ちます。
狙いは脛の一点、弁慶の泣き所ですの。ここを蹴られればたとえ怪人さんであっても相応に痛いはずですの。幸い変身後の衣装の靴は踵がかなり固めです。こちら側にはダメージはありません。
頭にも脛にも靴を押し当ててしまい大変忍びないですが、勝負の世界は非情なんですの。
ゴギリ、という固いものが砕けたような音が耳に届きます。またもピーマン頭が膝から崩れ落ちました。
「大丈夫か!?」
「あら、余所見をしている余裕がございまして!?」
瞬時に小さめのステッキを三つ生成して、駆け寄るトウモロコシ頭に投げ付けます。高さ的に目潰しになれば幸いですが、こちらもあくまで牽制の投了です。
私の本命は、肘を左わきの下から離さない心構えで、やや内角を狙い定めて……!
「抉りこむように打つべし、ですの!」
渾身の左パンチをぶち込んで差し上げますの!
勢いよく飛んでいくトウモロコシ頭の姿を片目で追いながら、額の汗を袖口で拭います。
大丈夫ですの。三対一でも何とかなってますの。この調子でガンガン攻めますのよ!
残ったカボチャ頭に挑発的な笑みを向けて差し上げます。