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うふふふふふ、ふふ、うふふふ


 怪人のことを気にしてしまって授業に身が入らない、というのは学生として本末転倒となってしまいます。それだけは避けねばなりません。なんとか目の前の勉学に集中しようと頭の意識をあえて狭めて日々頑張ろうとしているのです。


 幸いなことに本日の日中の出動要請はお昼休みの一件だけでした。こちらは先に気付いた茜さんが早急に対処してくださったようで、大きな被害は出ておりません。さすがは燃える赤き魂、正義の魔法少女プリズムレッドさんです。手際の良さに惚れ惚れいたしますわ。私も頑張りませんと。


 これくらい毎日順調なら有難いんですけどね。そうも言っていられないのが現実なのですから、今日もまたパトロールへ赴く必要が出てくるのです。




 さて。時は流れまして放課後になりました。


 クラスメイトの皆様は既に部活に向かわれたようで、教室の中に残るのは私と茜さんの二人だけとなっております。


「それじゃ今日も行こっか」


「ええ。……ですが茜さん、毎日毎日ほぼフルタイムの出動で、さすがにお疲れではござませんの? 今日だってお昼に一度出られてますのに」


 早く現場に向かいたい気持ちは分からないでもないですが、私たちは体が資本の魔法少女なんですの。ただでさえ最近はあまり休めていないのですし、もう少しくらいゆっくりしても誰も怒らないと思いますの。


 それにほら、いざというときに動けなくてはチャンスもピンチに変わってしまいますし。


「ううん大丈夫。私は全然平気だよ。なんたって元気だけが取り柄のやる気っ子だからね! それに、変身時はプニちゃんからも力分けて貰ってるしっ」


「まぁ、それは確かにそうプニね」


 赤色饅頭が鞄の端から顔を覗かせて、頷くように返答していらっしゃいました。それならいいんですけど……。いつものような自信満々さは感じられませんでしたが、彼がそう仰るのなら私も信じましょう。



「にしても、ついに恐れていた秋が来てしまいましたわね。最初に私がお会いしたカボチャ怪人の、旬となる季節ですの」


「そだね。んでも私も美麗ちゃんもっ、あの頃とは比べ物にならないくらい成長してるんだから、きっと大丈夫だよ」


「そう信じたいですわね」


「お前ら自信を持つプニ。茜も美麗も、今ではもう二人とも立派な一人前の魔法少女プニよ」


 人目が無いのいいことに、赤色マシュマロはぴょぴょんこと机の上に飛び移られました。ずっと窮屈な鞄の中に居たせいか、もにゅもにゅと背筋を伸ばしていらっしゃいます。おそらく背筋に当たる部位はございませんでしょうが、きっとそういう感じなのでございます。



 ってちょっと待ってくださいまし。今何と仰いましたか? 茜さんを褒めるのは分かります。けれど、今……!


「ほわぁっ……嘘ですの、夢でも見てるんですの!? 今、プニが私のことを一人前と!?」


 まさかこれ、今朝の時計のくだりも、お昼に食べた給食のプリンも、全部が全部夢の中のお話なんですの!? 須く儚く消えていく一夜の夢物語に過ぎなかったんですの!?



 思わず自らの頬っぺたを抓ってみましたが普通に痛いです。絶賛じりじりとした鈍い痛みが走っております。ということはつまり。


「ついにプニがデレましたの……陥落ですの……これは嵐の予感がいたしますわ」


 近いうちに一雨降りそうですわね。大荒れとなるお天気模様ですの。ちょうどお外は曇り空のようですし。


「美麗。さすがに怒るプニよ?」


「うう。悪ふざけが過ぎましたわ。この通りですの。反省してますの」


 嬉しさのあまりついリアクションが大きくなってしまっただけですの。決してあなたのことを甘んじているわけではないですから許してくださいまし。


 どうやら私の誠意が伝わったのか、プニはまた先程のモチモチ体操に戻ってくださいました。



「……フン。ついでのついでだから言ってやるプニが、ド素人だったお前が今日この日まで生き残っているということ、それ自体がそもそもの奇跡なんだプニ。その奇跡を手繰り寄せたのはお前自身に他ならんプニ。だからもっと自信を持つプニ。これでもお前のことは多少は認めてるプニよ」


「うふふふふふ、ふふ、うふふふ」


「うわっ、キッモい笑い方プニね……ドン引きプニ」


 正直笑いが止まりませんわ。いつの日かこの赤色マカロンをギャフンと言わせて差し上げたいとは思っておりましたが、まさかこんなに早くその日が訪れるだなんて。ああ、魔法少女をやっててよかったですの。修行に明け暮れた日々が報われますの。


 今すぐにでも感涙に咽び泣けそうです。もはやお目々がうるうるで前が見えません。




「あー、なんか邪魔しちゃ悪そうだから、私たち先に行ってるね。行こっ、プニちゃん」


「ほい来たプニ」


「あ、待ってくださいましー。冗談ですのー。こんなことじゃ泣かないですのー。私も一緒に出たいですのー」


 空気を察してくださったのはありがたいですが、今のは完全な嘘泣きですの。騙してごめんなさいですの。私はこの通り平常運転のままなのです。

 さぁさぁ気を取り直して一緒にパトロール行きましょう。貴女の相方、一人前の魔法少女プリズムブルーがその役割を見事全うして差し上げますわ。


 ルンルン気分で鞄を手に取ります。


 どうやら私の鞄側でも端から青色ポヨが顔を覗かせていたようですが、こちらは終始無言のまま何も喋ろうとせず、むしろムスッと黙りこくったまま虚空を見つめていらっしゃいました。



「どうしましたの? 何か気になることでもございました? いつもなら小言の一つや二つ、チクチク刺して来るところですのに」


 ほら、今日は私、貴方からはお褒めのお言葉も罵詈雑言も、何一つとしていただいておりませんのよ。全く会話に混ざらないだなんて珍しいじゃありませんの。



 私の疑問に気付いてくださったのか、ここでようやくポヨと目が合いました。


「……ああ。すまんポヨ。ちょっと考え事をしてたのポヨ」


「考え事ですの?」


 復唱して質問を投げかけます。


 比較的聡い貴方に限っては物思いや考え事はそう珍しいわけでもございませんが、会話に入ってこないほどの思考とはよっぽどのことなんでしょう。


「茜のことポヨ。元気だけが取り柄って本人は言ってたポヨが、変身時に僕らから分け与えられるのはあくまで身体能力の補強に過ぎないポヨ。簡単に、そして劇的に変わるほど顕著な代物ではないのポヨ」


「ふむふむ。ふぅむ?」


 適度に相槌を打ちますと、流れに乗ったポヨが言葉を続けてくださいます。


「疲れ知らずの体は元より、無尽蔵のスタミナとか永久機関とか、そんな便利な理想パワーは夢のまた夢ポヨ。力は上げられても溜まった疲労は軽減できないのポヨ。

……いくら茜が魔法少女の天才だとは言え、あのちっぽけな体のどこにそんなエネルギーが詰まっているのか……それが疑問なんだポヨ」


「それは確かに、ですの」


 見た感じ彼女はそこまで筋肉ムキムキなわけではないですし、むしろその逆に小柄で華奢な幼児体型をしていらっしゃるくらいです。

 持久力には自信があると仰るとは言え、まとまった回復もままならない状況だというのに、果たしてそんなに長期間の戦いを続けられるものなのでしょうか。



「やっぱり、ご無理をしていらっしゃるのでしょうか」


「うーむ。こればっかりは本人でないと分からんポヨ」


「そう、ですわよね」


 例えそうであったとしても、一人前の魔法少女同士、互いがお互いを上手く支え合って、一緒に困難を乗り越えていけばいいんですの。

 今の私たちにはそれが出来るのですから、何も恐れる必要はないはずです。



「では、私たちも行きますわよ」


「ああ。そうポヨね」


 私は私の役割を全うするだけです。茜さんの後を追いましょう。きっと玄関か校門辺りで待ってくださっているはずですの。

 

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