なかなかやるポヨ
公園に到着いたしました。
ふっと息を整え、辺りを見渡します。
幸か不幸か遊具で遊ぶお子様方の姿は見えません。しかし誰も居ないというわけでもございません。先程の校庭とは異なり、中央にどなたかが一人佇んでいらっしゃるのです。状況的に考えて、十中八九あの人が怪人さんですわよね。
少し近付いてみれば何の怪人かは一瞬で分かりました。きっとあれはタケノコですの。茶色の三角柱が首の上に乗っかっているのです。ダイコン頭を見た直後だからでしょうか、少し小顔に見えてしまいます。
「貴様が魔法少女か」
彼もまた私の姿を捉えたのか、低い声で静かに話しかけられました。
「ええ。お初にお目にかかりますの。魔法少女プリズムブルーと申します」
わざわざ自己紹介する必要はございませんが、出来る限り礼節に尽くすのが私の性です。深々と一礼をお返しいたします。
顔を上げて数秒待ってみましたが先方の自己紹介はないようです。相も変わらず終始だんまりなままですの。
まぁ狡猾そうな方や極端に好戦的な方でないだけ安心いたしましたわ。欲を言えばもっとお話が通じる方だったらやりやすいのですが、そこまで求めてはバチが当たってしまいますわね。
改めて彼の正面に対峙いたします。
なるほどタケノコですか。少なくとも今は夏真っ盛りですから旬ではございませんわね。今までの事例から言えば驚異的な力は出せないはずですの。それなら私にも十分にチャンスがあるというものです。
っていうよりそもそものお話、タケノコは野菜に含めていいんですの……?
「貴方がお野菜怪人方のお仲間さん?」
「いかにも」
よかったです。少々不安でしたから聞いてみて正解でしたわ。
「それでは、私の敵ということでよろしいんですわよね」
「ああ」
「ここにいる以上そりゃそうですわよね」
「ああ」
「…………ですわよね」
正直あまり会話が続きません。いや、敵さんと会話を弾ませる方がおかしいのですが、その、何と言いますかアレですの。
なーんか調子が狂ってしまいますのっ! いつもならもっと会話続いてますのよ!? もしかして私、意外に無口な方が苦手なんですの!?
一人勝手に盛り上がってしまった感は否めませんが、これでも私、結構動揺してますの。
「話は終わりか?」
「え、ええ、色々物申したいことはございますが、これ以降は拳で語ることにいたしましょう? その方が貴方も気が楽なはず」
「……配慮、感謝する」
ほへぇ、つい流れで言ってしまいましたが、怪人さんからお礼をいただいたのは初めてですわ。口振りから察するに少し照れていらっしゃるようにも見えますの。きっと根本的なところで口下手さんなんでしょうね。そう思えば少しだけ優位に立てたような気もいたしますわ。
こほんと一つ、落ち着く為に咳払いをいたします。そしてむっと口を結んで身構えます。向こうも同じ様子で、両手を前に突き出すような異形なポーズをお構えになります。特殊な拳法使いとお見受けいたしますの。
この戦いに勝負開始のホイッスルなどはございません。一触即発です。どちらか一方が動いた時、それが始まりの合図になるのでございます。
ではお先をいただきますわね。先手必勝ですの。
地面を強く蹴り出し、懐に潜り込みます。
ほぼゼロ距離で放つパンチはあまりダメージは稼げませんが、その分数を放ちやすく、自分のペースに持っていきやすいのです。攻撃は最大の防御、とはよく言ったものですの。短期決戦にも持ち込める好手です。
「効かんな」
しかし対するタケノコさんは至極余裕そうなご様子でした。数撃に一度はボディにヒットさせておりますが、大した後退りも起こせません。
「やはり軽技では厳しそうですわね」
「次はこちらの番だ」
「どうぞお好きに」
「ほう……?」
すぐさま攻守交代ですの。今度はタケノコ怪人さんによるラッシュ攻撃です。手数こそ私とさほど変わりませんが、あちらの方が一発一発の威力が大きく、いくつかは捌ききれずに被弾してしまいます。受けた箇所がジンジンと鈍い痛みを放ちますの。
しかし、これでよいのです。
別に好きで痛みを享受しているわけではございません。あんまりにもダメージを受けすぎると動けなくなってしまいますし、あくまで致命的かそうでないかのギリギリを攻めるのです。何より私には少しばかり秘策があるのです。
「ポヨ、まだですの!?」
襲い来る強撃を手刀でいなしながら、私は胸の青宝石に向かって話しかけます。
「まだ全然ポヨ。全く足りんポヨ」
「まったく……この辺は考えものですわね」
「何を余所見している?」
「うっぐっ」
一瞬の隙を突かれ、割と重めなボディブローを食らってしまいました。肺の中にあった空気が逆流し、思わず咳むせてしまいます。さすがに嘔吐までは至りませんが涙目にはなってしまいます。
「これでもまだなんですのぉ……?」
「今のはだいぶいい感じポヨ。その調子ポヨ」
「うぅぅ……もう少しの辛抱ですの」
「どういうことだ?」
「そのうち、分かりますの」
何度も言いますが、私にはとっておきの必殺技があるのです。その発動条件が少しばかり特殊なのですわ。
どうやら私の虎の子はこの身に受けた被弾の具合よって発動できるようになるらしいのです。これはレッドとの修行の賜物と言いますか、彼女に負け続けた結果、偶然会得してしまった産物と言いますか。
どうせなら攻撃をヒットさせたり、大ダメージを与えた際に使えるようになってほしいのですが、どうもそれとは体内の歯車が噛み合わないようです。
先ほどから度重なる攻撃を受け、腕も手の平も足もお腹も、それぞれに等しくダメージが蓄積してきた頃合いです。正直押され気味です。本来であればピンチで勝ち目なんてないはずですの。それでもよいのです。
「準備万端ポヨ! いつでもおっけーポヨ!」
「おっそいですの! いきますわよ!」
私はこの状況を待ち望んでいたのです。耐えて、耐えて、耐え抜いたその先に見える景色。それがとっておき発動のタイミングですの。今こそ反撃のお時間ですの!
サッと後退してタケノコ怪人から距離をとります。
「さぁ解放ですの!」
私がぎゅっと拳を握ると、程なくして私の体表を淡い青い光が包んでいきます。まるで足元から風が吹いてくるかのように独りでに髪やスカートが揺れ靡きます。
白いステッキが自動生成されました。この手でしっかりと握り締めます。普段の小さなものではございません。レッドが出すのと同じサイズです。
「適合率86%、なかなかやるポヨ」
どうやら私、ギリギリまでダメージを負いますと、その状況に応じてポヨとの適合率を飛躍させることができるようですの。適合率が上がるとはつまり、身体能力も上がることを意味します。
パワーもスピードも段違いになれるのです!