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浄化の光


 最初にレッドが飛び掛かります。勢いを殺すことなく上段に横殴り、中段に回し蹴り、最後に下段に足払いの計三連撃を繰り出します。ダイコン頭は器用に両腕でガードなさいましたが、衝撃までは受け止められないのか、じりじりと後退していきました。


 うふふ。その隙を突くのが私の役目なのです。後ろがガラ空きでしてよ。膝カックンする余裕さえございますの。もちろんいたしませんが。

 肘鉄からの裏拳からの、後頭部にスーパーキックをお見舞いいたします。全てクリーンヒットですの。


 言い方はよろしくありませんが、いわゆるタコ殴り状態というものです。そもそも二対一なのですから仕方がありませんでしょう。弱いモノいじめと批判されるかもしれませんが、こちらも必死なのでございます。



 こうした攻戦を繰り返しておりますとついにダイコン頭が膝を付かれました。ゼェゼェと息吐き、心なしか頭の葉っぱ部分も萎れていらっしゃいます。

 思ったよりもあっけなかったですわね。少なくともトマトの時のような圧倒的な強者感はありません。単に彼が弱かったのか、それとも私たちが成長したのか。



「……やはり、旬の季節でない以上……この僕が君たちに勝てる見込みはないようだ。ここは一旦引かせて」


「そうはさせないよ。ここで逃したらまた君たち悪さするでしょう」


「今度は私も居ますの。この二人から逃げ果せると思って?」


「くっ」


 撃退だけが魔法少女の仕事ではありません。討滅までがワンセットなのです。変身するのは身体能力の向上の他、その討滅の力を得るためでもあります。



 レッドが胸に付いた赤い宝石を握りしめます。するとその手の中から真紅の光が満ち溢れていきます。

 十分に溜めた後、手を突き出してその光をダイコン怪人に向けて照射いたします。直径10cmほどの赤く眩い光線です。暗闇で見たときのスポットライトのような感じでしょうか。


 この光を一定時間浴びせ続けられた怪人は、やがて皆等しく光と化してこの世から消え失せてしまうのです。この魔法に正式な名前はございません。便宜上、私たちは〝浄化の光〟と呼ぶようにしております。


 やはり格闘戦だけでは魔法少女とは呼びにくいですからね。最低一つは魔法的な要素がありませんと。それがこの浄化光線なんですの。


 ちなみに私も浄化の光を放つことは出来ますが、二人分の照射は必要ありません。むしろ最後の力を振り絞って抵抗されないよう、もう一方は見張りに徹した方が安全です。



「はぁ……これも運命(さだめ)か……」


 どうやら観念したようですわね。首を垂れて肩を落としていらっしゃいます。ええ、貴方の仰る通りです。既に万事を休しておりますの。チェックメイトですの。もう匙を投げる他にございませんの。


 やがてダイコン頭の怪人はその体を赤く発光させ始めました。ここまで来たらもう安心です。消滅の時は近いですの。これで今日はゆっくり休めそうですの。


 あ、後で人質だった子たちの様子を見に行きませんとね。いつまでも怯えていらしたら気の毒ですから。




「……まぁいい。最低限の役割は果たしたからね。時間稼ぎにはなったはずだ……」


「時間稼ぎ? 貴方何を仰って……?」


「ふん……直に分かる……さ」



 消え失せる直前、何やら不穏な事を言い出しましたが、最後まで言い切る前に彼はその体を光の粒に変えて霧散消滅してしまいました。


 光の粒子が天に昇って消えていきます。



「お疲れ様ポヨ。怪人の反応が消えたポヨ」


 胸のポヨが気を抜くように言葉を紡ぎます。


「ええ、それはよいのですが……」


 時間稼ぎ、という言葉が引っかかります。これでは気持ちよく終われませんの。帰ってお昼寝でもしようかと思ってましたのに。


「うん。最後なんか言ってたね」


 レッドも首を傾げております。

 しかしものの数秒後にはパァっとしたいつもの明るい笑顔に切り替わりました。


「まぁでもっ、野菜怪人を一人倒せたのはいい収穫になったんじゃないかな。この調子なら何が来たって乗り越えられるはずだよ」


「ええ。私たちなら、ですわね」


 弱いままの自分にはオサラバしましたの。私は高貴で優雅な魔法少女プリズムブルー、そして貴女は可憐で強壮な魔法少女プリズムレッドなのです。二人の魔法少女の力を掛け合わせれば、その力は何倍にだって膨れ上がりますの!


「うむうむ、その意気プニ」


 先ほどまで赤い光を放っていた宝石プニも、今は落ち着いてカラカラとその身を震わせておりました。


 それでは人質だった方々に軽く挨拶と報告をして、また束の間の日常生活に戻ることにいたしましょう。



「いや、二人ともちょっと待つポヨ……ッ!

まさか……ッ!?」


 ふぅむ? どうしましたの?

 ちょうど今変身を解こうとしておりましたのに。


 胸元の青宝石のポヨはピコンピコンと細かい発光を繰り返しております。少し焦ったような様子にも見てとれます。



「これはッ! 怪人の反応ポヨッ! 

それも二ヶ所ほぼ同時の出現ポヨ!」


「なんですって!?」


 一日に二件目というだけでも相当珍しいんですのに!? 同時に二ヶ所ですの!?



「確かにプニ、こんなの初めてプニね……」


 プニもまた赤い点滅をしていらっしゃいます。怪人の反応を察知したようです。


「つべこべ言ってないで現場に向かおう!

プニちゃん、どっちの方向!?」


「一つはこの前トマトと戦った廃工場、もう一つは美麗の家の近くの公園プニ!」


「おーけー。それじゃ私は廃工場の方行くから、ブルーは公園の方をお願い! そんで先に終わった方からもう一方に合流ねっ!」


「了解ですの!」


 

 変身は解かずにこのままの姿で散開いたします。一足先にレッドが大きな跳躍をして去っていきました。移動速度の速いレッドの方が遠い場所、という采配なんでしょう。状況を考えた最善の対応だと思いますの。


 なるほど、時間稼ぎというのはこのことなんでしょうか。他の仲間たちの活動をさせる為に、ご自分は犠牲になったと……。

 字面だけを追えばカッコいいものですが、実態は怪人たちの不当で野蛮な活動の手助けですの。どれも等しく野放しにはできませんわ。


 それに今は戦える魔法少女が二人いるのです。さっさと片付けて、今度こそお昼寝いたしましょう。


 校庭を駆け抜け、坂を下り、地を滑るように道を駆け抜けます。レッドよりも遅いとはいえ、それでもチーターもビックリなスピードです。学校からなら駆け付けるのに5分と掛かりません。犠牲者が出る前に急ぎましょう。それは全て私たちの手に掛かっているのです。

 

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