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駆け出した背中

 

「単刀直入に聞く。野菜の連中と戦ったのはいつ頃だ」


「詳しく答える義理はないプニよ」


 ちょっと、やっと落ち着けましたのにこれ以上挑発するのはやめてくださいまし。このままでは命がいくつあっても足りませんのよ! 


 融通の効かないプニに代わって、この私が答えて差し上げますの。


「ええと、わりと最近の話です。全部ここ二ヶ月くらいの出来事ですわね。はじめにカボチャ頭さんで、その後がトマト頭さんでしたか。どちらもトンデモなくお強い怪人さんでしたの」


「ほほーんなるほどナァ。奴ら、ついにこんなところにまで手を伸ばしてきたか」


「ふぅむ? その言い方、貴方は彼らとはお仲間さんではありませんの?」


 ほら、だいたいの怪人さんは弱めの戦闘員さんとかと束になって襲いかかって来るものですから。私てっきりそういう悪い人たちの集まりがあるのかと思っておりましたわ。


 私の問いかけにカメレオン怪人さんはタハーとまたまた大きなため息を吐かれます。


「残念ながら所属組織が違ぇんだなぁコレが。奴らはまったくの新興勢力だ。んでところ構わずこの辺り一帯に侵略を繰り返してる。

俺ら古参の怪人組織にとっちゃナワバリ内を勝手に荒らされて困ってんだが、かといって怪人同士で表立ってやり合うわけにもいかネェ」


「ほへー。やっぱり怪人さんにも所属組織とかしがらみとか、そういうのはあるんですのね」


「そりゃあるに決まってんだろ。つかそんなのはお前らだって同じだろう? ヒーロー連合っつったって完全な一枚岩になってるわけじゃあるメェに。方針や目的なんかは支部ごとに分かれてるはずだ」


「あらそうなんですの?」


 肩元のポヨに問いかけてみます。私、魔法少女についてはそこそこ聞きましたが、その大元のヒーロー連合に関してはほとんど何も聞かされておりませんでしてよ。


「…………ノーコメントポヨ」


 だいぶ濁した回答をなさいますのね。この場に怪人さんが居るから話したくないのか、そもそも私には話せない内容なのか、どちらの意図かは分かりません。



「ま、そんなわけで俺らとしちゃあお前らみたいな自称正義連中にもっとガッツリ頑張って欲しいとこなんだが……その為にゃ、も少し強くなってもらわんとナァ」


「くっ」


 ニヤついた彼の言い方に茜さんが歯を鳴らします。見上げてみれば、下唇を噛んで顔を顰めていらっしゃいました。先程何も反応できなかったことがよほど悔しかったのでしょう。


 それは私だって同じですの。今だって二人とも無傷なのは、あくまでカメレオン怪人さんに戦う意思が無かったからなのです。もしも目の前に居らっしゃったのが敵意ある怪人さんだったのなら、私たちに待っていたのは冷たい死ただ一つのはずです。


 今思えば大事な局面は全て運だけで乗り越えてきた感じですわね。己の力だけで乗り越えてきた、とは絶対に言えませんの。いつも茜さんに助けられたり、偶然の時の運が味方してくれたりと、ただ単に私の運が良かったに過ぎないんですの。


 ……今のままで満足してはいけません。



「……カボチャ頭の怪人も、また秋頃にお会いしましょう、とか何とか仰っておりましたわ」


「ほーん。だったらお前ら、これからは更に忙しくなるぜ。あんまりボヤボヤしてる暇はネェ。奴らの侵略はもうとっくに始まってんだ」


 今でさえ十分忙しいんですのに、これ以上となったら後は何を削ればよろしいのでしょうか。お勉強の方は最悪前の学校の進捗分がありますから何とかなるかもしれませんが、それでもどこまで延引できるかは分かりません。大分頭を抱えるべき案件ですの。



 ここで唐突にカメレオン怪人さんが立ち上がりました。まるで腕時計を見るかの所作をしていらっしゃいます。


「おっと。ワリィが総統閣下からのお呼び出しだ。俺はここらでおさらばさせてもらう」


「あ、ちょっと待ってくださいましっ」


「まぁとりあえず先に言っとくが、俺たちは実害さえ出なけりゃ特にお前らを邪魔するつもりもネェからよ。今はナ。そいじゃ」


 怪人さんが片手を上げると、彼の体から青白い光が吹き出し始めます。


「あの、俺たちって……まだあなた方の話は何も聞いておりませんのよ!?」


「ケケケ。そのうち嫌でも分かってくるサ」


 私の思いも虚しくヒラリとかわされてしまいました。

 彼を包む青白い光が徐々に強くなっていきます。先程の風景同化とは異なって、本当に体が透けていっておりますの。ものの一分と経たないうちに、カメレオン怪人さんの姿は跡形もなく綺麗さっぱりと消え失せてしまいました。



「……反応も消えたポヨ」


「…………うん。そうだね」


「……何だったのでしょう」



 嵐のように言いたいことだけを言って去ってしまわれました。

 この会話で分かったのは、遅い来る脅威に立ち向かうには今よりずっと高い戦闘力を身に付けなければならないということ、そしてこれからもっと戦闘が激化していくということだけですの。


 正直、この心にある不安は拭えそうにありません。





「私たち、このままじゃダメだよ。こんなことじゃ到底この街を守りきれっこないよ。……もっと、もっともっと、強くならなきゃ」


「ええ、その通りですの」


 せめて自分の身くらいは自分の手で守れるようになりませんと。でなければ茜さんを守るだなんて夢のまた夢の話なのです。



「ねぇ美麗ちゃん。お休みの日に悪いんだけどさ、この後、もう少し修行に付き合ってもらっていいかな?」


「それはもちろん構いませんけど……」


 茜さん、連日の鍛練と戦闘とでお身体の方は本当に大丈夫なんですの? 私なんかよりずっと肉体的にハードな毎日を過ごされておりますでしょう?

 今日だって朝から町内フルマラソンしていらっしゃったではありませんか。


「……えへへっそんな顔しないで。心配ないよっ。タフさと丈夫さだけが取り柄のっ、私はスーパー魔法少女茜ちゃんだから!」


 私の表情を読み取られたのか、にししと元気よく笑いになられました。腕に手を当ててガッツポーズなさいます。何とも頼もしいお姿です。


「でしたらよろしいのですが……ただ休憩はしっかりと挟ませていただきますからね! 私が保ちませんので」


 悔しいですがスタミナ差はあるのです。



「美麗はもう少し体力を付けた方がいいプニ」


「ホント無駄なとこだけが成長してるのポヨ」


「ちょっとそれどういう意味ですの!?」


「「茜、逃げるプニ(ポヨ)!」」


 私の肩からポヨが大ジャンプしますと、手際よく茜さんがキャッチなさいました。そのまま踵を返して走り出しなさいます。


「校舎裏の空き地まで競争っ!」


「いきなりズルいですのっ!」


 立ち上がる必要がある分、こちらの方が不利ではございませんか。足の早さだって私の方が遅いですのに! 

 うっ……更には正座していたせいで足が痺れておりますの。そもそもこの競争に勝ち目なんてないですの!




「……まったくもう」


 くすっと微笑みが溢れてしまいましたが、仕方ありませんわね。私も本気で走らせていただきましょう。


「こらーっ! お待ちなさーい!」


 茜さんの駆け出した背中を追いかけます。

 

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