魔法少女プリズムブルー、ここに爆誕ですの【挿し絵有り】
ポヨが肩から腕を伝って手の平へ移動なさいます。
「蒼井美麗。気休めかもしれないけど心して聞いて欲しいポヨ。魔法少女の力とは言わば〝思いの力〟ポヨ。強く願えば願うほど、きっとお前の中に眠る魔法少女の力が呼応してくれるはずポヨ」
「分かりましたわ」
魔法少女の力は〝思いの力〟ですか。
それでしたら私の思いはただ一つ。
目の前の彼女を助けたいだけですの。
「それでは始めるポヨ。
やり方は前に見せたから知ってるポヨね?」
「ええ」
瞳を閉じれば、すぐにでも先日の小暮さんの変身シーンが瞼の裏に浮かんできます。
ポヨをゆっくりと握りしめます。ふんわりとした感触が、私の心を優しく包み込んでくれるような、決して一人で立ち向かっているわけではないのだと思わせてくれるような、そんな淡い温かさを感じさせてくださいますの。
今一度大きく深呼吸をいたします。そして。
「着装 - make up - !」
目を開け勢いよく決め台詞を解き放ちました。
胸にポヨを当て、すぐさま腕を突き出し、その勢いを殺さずにガッツポーズいたします。私の手から眩い光が溢れ出してきました。ポヨ自体が金色の光を放っているようです。
「さぁ願うポヨ! お前の願いは何だポヨ!」
ポヨからの問いかけに、目を見開いて答えます。
「私は……私は! 小暮さんを助けたいんですのッ!」
徐々に感じる光が強くなっていきます。
もう眩しくて目を開けていられません。
なんとか薄目を開いて確認してみると、ポヨから放たれた光が今まさに私の腕を包み込もうとしているところでした。
いい感じだと思いますの。
このまま上手くいけば、やがてこの光が全身まで広がっていって、今着ている服だってきっと……!
「いいぞプニ! ここまでは順調だプニ。そもそも適性がなければポヨも呼応しないプニ。適合率……2%、4%……今6%を超えたプニ」
「それじゃあっ……!」
プニと小暮さんの会話が耳に届きます。
「だが安心するにはまだ早いプニよ。あくまで平均を超えたってだけの話プニ。変身にはまだ全然足らんプニ。少なくとも70%は超えてもらわなきゃ変身なんて夢のまた夢プニ。
おい小娘! もっともっと強く願うプニ!」
「分かっておりますのッ!」
集中するのです私。彼らの声を気が散るモノだなんて邪険に扱ってはいけません。むしろ応援していただいているのです。
プニからの指示も小暮さんからの願いも、全て私の思いに加えさせていただきたいくらいですの。
より一層強くポヨを握り締めます。
ちょっと痛いかもしれませんが我慢してくださいまし。
「良い調子プニ! まだ止まってないプニ!
10%、14%、16%……22%……27%……まだまだ上がるプニよ!」
「蒼井さん……っ!」
脳裏に浮かんでくるのは先ほどまでのボロボロなお姿の小暮さんです。
今ここで私が失敗しては次また痛め付けられるのは彼女になってしまいます。あんな様子ではこれ以上のダメージには耐えられないでしょう。
ならばこそ! 私がやらねば誰がやりますの!
「40%……50%……60%……62%、止まったプニ! 安心ラインにはちょっと足りてないプニが、これなら……!」
「今だポヨ! 僕を開放するポヨ!」
「ええ!」
ポヨからの掛け声に私はパッと手を離しました。
――すると。
瞼の向こう側で一際強い閃光が走ります。その後すぐに温かな光が私の全身を包み込んでいくのを感じます。
やがてこの身に纏う学生服の感触が無くなっていきました。それだけではありません。下着も靴も、まるで何もかも身に付けていない素肌のままのようです。
続いて、何も見えていないはずの視界がぐらりと揺れました。まるで宙に浮くような感覚です。
しかしながら不思議と酔いや心地の悪さはございません。
まるで大海のゆりかごに直接揺さぶられているかのような、心から安心できそうな感覚です。
最後に感じたのは、満開の花畑のベッドに横たわっているかのような、サワサワとむず痒い感触でした。腕、足、背中、そして腰回りとその感触が直にハッキリとしてきます。
分かりましたの。これは衣装の感覚です。
太腿に触れているのはきっとフリフリな短めドレススカートの生地に違いありません。
次第に瞼に感じる眩さも和らいでいきます。
体感にしてほんの十数秒くらいだったでしょうか。
いつの間にか地に足の付く感触も戻ってまいりました。
スタリ、と。大地に降り立ちます。
「……蒼井美麗。目を開いて、そして自分の姿をしっかりと見てみるんだポヨ」
先ほどまでは横から聞こえていたはずのポヨの声が、今は首のすぐ下から聞こえてまいります。透明感のあるとても優しげで頼り甲斐のある声質です。
その声に従って、私はゆっくりと目を開きました。
「…………っ!」
まず視界に入ってきたのは美しい衣装でした。
お洒落でフリフリな膝上丈のドレススカート。
袖口に見える大きなリボンの装飾。
胸に取り付けられた群青色の宝石ブローチ。
ええ、間違いなさそうですわね。
目の前に居らっしゃる小暮さんと同じ格好ですの。
唯一違う点とすれば、テーマカラーが青なこと、そして白い杖が手元にないことくらいでしょう。
でもそんな些細なことは一向に構いませんの。
「蒼井さん、その姿……っ!」
「ええ、どうやら成功したみたいですの」
「…………奇跡だプニ」
ぱーっと顔を明るくした小暮さんに、私は優しく微笑みを向けて差し上げます。
そして優雅に、華麗に一礼いたしますの。
「魔法少女プリズムブルー、ここに爆誕ですのッ!
この後は私が引き受けます。貴女は下がっていてくださいまし」
数十万に一人の適正をこの身に受けることができたのです。 私にも変身することが出来たのです。
プニの仰る通りでしたの。
これを奇跡と呼ばずして他に何と呼べばよろしいのでしょうか。
本当なら今すぐ手を取り合って喜び合いたいところなのですが、本来の目的を忘れてはなりません。
気持ちを切り替えて目の前のトマト怪人へと向き直ります。
恐怖は既にありません。
あるのは胸に滾るこの熱い想いだけ。
さぁ、面でも胴でも突きでも小手でもッ!
全部受け止めますのでかかっていらっしゃいましッ!