キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァ!!ですの
「あそうだ。私から話すよりこの子らに直接説明してもらった方が早いのかも」
「この子ら?」
「うん。ってわけでプニ、ポヨ。出ておいで」
小暮さんがそう言うと、脇に置かれた鞄が勝手にガサゴソと震え出しました。
やがて鞄中からふわふわふわ〜っと、大福とマカロンを足して二で割って、水饅頭を掛けたような奇妙な物体がひとりでに浮き上がってまいります。
その数は二つ。
片方は薄い赤桃色、そしてもう片方は淡い青色をしておりますの。
「……ん、呼んだかプニ?」
「怪人の反応はないポヨ。どうしたポヨ?」
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァ!! ですのッ!?」
え、いや、なんですのコレ。
よく見たらそれぞれにくりくりっとした目が二つずつ付いております。生き物……してはパーツが色々と足りておりませんが、
もしや巷で噂のゆるキャラ的な存在でしょうか。
宙に浮いたまま跳ねているというのも不可解です。
私の顔の前でしばらく対空しておりましたので、思い切って青色い方を掴み取ってみます。
ほほーん。見た目どおりのモチモチむにむにっとした感触ですの。この手触り、いつまでもニギニギしていられます。
本当にこれが喋ってるんですの?
むにむに、むにむに、びよーん。うふふふ。
「止めるポヨ……くすぐったいポヨ……ってお前誰だポヨ!? 知らない顔ポヨ!」
握っている最中、目と目が合いました。目元しか分からないはずなのに、どうしてだか焦っている様子がビシビシと伝わってきますの。
私の手を振り払いたいかのようにぷるぷると身震いまでしているのです。
……なんだか可哀想なので手を離して差し上げましょうか。
解放すると、一目散に逃げるようにして私から離れ、その代わりに小暮さんの肩にちょこんと乗られました。
「……えっと、何なんですの、ソレ」
見た目だけならこの前メイドさんがやたら白熱していた某ゲームの四つ繋がったら消えるあのキャラクターみたいですわよね。
「変身装置だよ。この子たちから力を分けてもらって、それで魔法少女に変身できるの」
小暮さんの口から聞き慣れない横文字が発せられました。
「変身、装置?」
「正確には自立AI搭載型の最新式怪人撃退用個人変身装置だプニ。そんでプニの方が1号機で、ポヨの方が2号機だプニ」
宙に浮いたままの赤色水饅頭から声が聞こえます。
プニ? ポヨ? 自立型? んんんん?
おそらくは補足の説明なのでしょうが、更に聞き馴染みのない単語を聞いたせいで既に私の頭の中はいくつかのはてなマークがぐるぐるとタンゴを踊っておりますの。
自然と眉間にもシワが寄ってしまいます。
全く理解が追いついてくださいません。
「えと、それじゃとりあえず実際に見せてあげるね。プニ、スタンバイおっけー?」
「状況がよく分からんプニが……変身プニね。別に構わんプニよ。いつでも来いプニ」
「よーしっ」
徐ろに小暮さんが立ち上がりました。
空中浮遊していた赤桃色を優しく掴み取りなさいます。
そして。
「着装 -make up -!」
右手で装置を握ってから胸の前に掲げまして。
すぐさま腕を突き出して、その後にガッツポーズ……!?
惚れ惚れするくらい無駄のない洗練された動きです。
すると、どうでしょう。
手の中の装置と呼ばれたプニプニから眩い光が溢れ出しました。直視できないくらいに眩しいのです。
まるで太陽を直接見たときのように目に焼き付いてきます。私強い光は苦手なんですの……!
手の平の隙間からなんとか眺めて見ておりますと、その光は彼女の四肢から全身まで隈なく包み込んでいきました。
そうして初めは手、お次に足先、最後に背中から胸と順番にそれぞれの光が弾けていきます。
やがて全身の光が収まってくると、さっきまで制服だった彼女の姿は、先程商店街の裏通りで見たあのフリフリな衣装姿に切り替わっていたのでございますッ!
「は、はえー…………」
「どう? 変身装置の意味、分かってもらえた?」
衣装を見せるかのようにくるりと一周されます。
「ええ、それは、確かに分かりましたけれども……」
さっきのカボチャ頭も信じられませんでしたが、こっちのトンデモ技術の方も信じられませんの。
卓越した特技とかそういう類のモノではないのです。
確かにこれは魔法と呼ぶしかありません。
「ちなみにプニはここにいるプニ!」
さっきの赤桃色大福マカロン水饅頭もどきから聞こえていた声が、今度は胸に付いた赤い宝石から聞こえてまいります。
いやー、あんなに柔らかかったモチモチがそんなカチコチの宝石になってしまったというんでしょうか。
やはり私の中の知識だけでは理解できそうにありませんの。
「ちなみに戻る時は一瞬だからね」
そう仰ると、再び小暮さんの体から再度光が溢れ出します。
そしてパヒィーンという何かが弾けた音と共に、辺りにより一層眩い光を放ちましたの。
思わず目を瞑ってしまったその刹那、次に目を開けた時には小暮さんの姿は元の制服姿へと戻っていらっしゃいました。
「ほえぇー…………」
「まぁそういう反応しちゃうのも無理はないよねー。最初は私もおんなじ感じだったし」
「これって誰にでも出来るものなんですの?
私も変身しちゃったり試してみちゃったり?」
こういったフリフリ衣装というモノは、いわゆる女の子の憧れというものなんですの。
「バカを言うなプニ。茜は1000万人に1人の逸材中の逸材なんだプニ。その適合率はなんと驚異の94%! プニらの力をほぼほぼ引き出せるのは彼女だけなんだプニ!」
桃色大福が間髪入れずに割り込んできました。ドヤドヤと自信満々な目付きで私の顔の前を浮遊なさいます。
なんだかこの赤色モチモチ、無性に鼻につきますの。
「……えっと、それってどのくらい凄いことなんですの?」
「その辺の一般人でもよくて5%ほどだプニ。たとえ変身出来たとしてもせいぜい片方の靴下程度だプニ」
ふむふむ。それならその自信顔も納得できますね。
「残念ですの……私も早着替えしてみたかったですのに」
「早着替えじゃなくて〝変身〟だプニ。これだから無知の一般凡人は……」
むむむ。正しい表現をしなかった私にも非はありますが、その人を見下したような態度、あんまり人前では出さない方がよろしくってよ。
小暮さんが苦笑いしていらっしゃいますので実際に口を出すつもりはありませんが……。
赤桃色餅饅頭は挑発的に私の周りを二、三周回ったのち、再びに小暮さんの右肩へと戻っていきました。
「でもなんだかポヨはコイツにも同じような波動を感じるポヨよ?」
お、反対側の青色の方は乙女心が分かる口ですのね。
この子らに口は付いておりませんけど。
「ふん。絶対に気のせいだプニ」
……こっちの赤福は当分好きになれそうにありませんの。
まぁ私のほうがヘソを曲げても話は進みませんので、とりあえず悪態は抑えてお三方……いえ、一人と二体にお話を続けていただきましょうか。




