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もしかして、小暮さんですの?

 

 彼は肩を手で押さえながら魔法少女の方に体を向けます。やはり負傷していらっしゃるようですの。先程まであった余裕感は少しも感じられません。



「ぐっ……確かに噂に聞いた通りの強さですね……。その辺の雑魚とはケタが違う。やはりこんな季節では本来の力の半分も出せませんか……」


「うわ、やっぱりハロウィン野郎なんじゃん。季節外れなんじゃん。場違い甚だしいヤツなんじゃん。負け惜しみタラタラの陰気猫背ヒョロガリドテカボチャぼっちなんじゃん」


「ぐぬぬぬぬぬ……」


 何もそこまで言わなくても、と同情してしまったことは私だけの秘密です。

 少女側から向けられた挑発に、カボチャ怪人は肩をわなわなと震わせてお怒りのご様子です。


 でもイイ気味ですの。女子供を狙う卑劣な輩なんてそう言われてしまって当然なんですの。逆上して襲いかかってくるかとも思いましたが、そんな様子はございません。むしろ一歩後退りをして距離を取っております。



「……まぁいいでしょう。さすがに分が悪い。ここは退かせていただきます。また秋頃にお会いいたしましょう」


「あ、待て逃げるな!」


「さらばっ!」


 パチッという指鳴りの音と共に、カボチャ頭の姿が消えました。同時に先程まで感じていた空気の重苦しさや不安感が少しずつ消えて無くなっていきます。確証はありませんが、本当に居なくなったような気がしますの。


 建物の影から少しずつ体を出してみますが……ええ、やっぱり危険な雰囲気はいたしません。大丈夫そうです。


「はぁー。まーた逃しちゃったか。ああいうヤツ放っておくと後が大変なんだよねぇ」


 どうやらそれは目の前の魔法少女さんも同じようで、既に肩の力を抜いていらっしゃるようです。やれやれと腕をふりふりさせて残念がっております。


 表に出てきた私に気付いたのか、彼女はふわりとスカートを翻しながら、踵を返してこちらに駆け寄ってきました。


「あ、それよりホントに大丈夫だった? ケガとかない? 変なこともされてない?」


 再度気遣いの言葉を向けてくださいます。心底心配そうな顔を見て、本当に心からお優しい方なのだと実感いたしました。


 こちらも笑顔でお応えいたしま……あれ?




 この感じ、この顔。そしてこの声色。




「もしかして、小暮さんですの?」


「あっ……………………えっと」


 私の問いかけにたらぁーっと冷や汗を流していらっしゃいます。おまけに目を泳がせてわたわたと慌てております。間違いなくビンゴですの。


 愛らしいお顔に、炎のような輝き目立つ赤髪。おまけにちょっと成長の足りないお身体を間近で見ては、もう見紛うわけにもいきません。


「あなた小暮さんですわよね。私と同じクラスの。私のお隣の席の。私とお友達の」


「え、あ、その………………………………うん。

あははは、奇遇だね、こんな人気のない場所で」


 長い沈黙の後でした。さすがに観念したのかこめかみの辺りをポリポリと掻いて気まずそうにはにかみ笑います。まるで悪戯がバレてしまったお子さまのようです。


「ええ、こちらこそ奇遇ですわね……って、そんなわけないじゃないですのーっ!!」


 待つのです。こういうときこそ落ち着くんですの、蒼井美麗。

 確かに心の中では、どどどどどういうことなんですの!? なんで小暮さんがそんな衣装を身に纏って、物凄い力を使って、変質者を撃退しているんですの!? などなど聞きたいことが山ほど有りすぎてパンクしそうです。


 しかし、大事な時だからこそ言葉を選びませんと。



「小暮さん。貴女にも沢山の事情が有ると思いますの。色々と詳しいお話を伺いたいのですが、こんな場所ではなんですので。よかったら、私のお家にいらっしゃいませんか?」


「…………うん。そだね。そうしよっか」



 うふふ、ひとまず逃げないようにお持ち帰りですの。




――――――

――――


――


 



 時は少し進みまして夜でございます。

 我が家、更に言えばここは私の自室です。



「えっと、何から話せばいい感じなのかな?

結構込み入った話になっちゃうんだけど……」


「何からでも構いませんの。今日私が体験したこととか、そこを糸口にしていただくのはいかがでしょう」


「うーん……」



 二人して床に座り、うんうんと唸り込んでおります。ちなみに私の正面で小さく体育座りする彼女は、既にいつもの制服姿に戻っていらっしゃいます。私が見ていない間に着替えたのでしょうか。

 まぁあの衣装のままでは道行く人に目立ってしまいますし、かといってあの暗い裏道で何時間も話し込むわけにもいきません。


 そんなこんなで思いきって小暮さんを我が家に招待してみたのです。ただ、来ていただいたのはよろしいのですが、話の進み具合があまりよろしくありません。



 と言いますのも。


「ああっ! あのコミュ症のお嬢様が、こんなにも早くお友達をお家に連れてきてくださるなんて私……! およよよよ、お嬢様のお付きのメイドになって早10余年、こんなにめでたい日は」


「ちょっと! 今大事なお話をしているんです! 勝手に話に入って来ないでくださいまし!」

 

 何故だかメイドさんまで部屋の中に入り込もうとしてくるんですの。何度も止めてって言ってますのに。今回ばかりは部屋の隅でもダメですの、廊下に正座でもダメですの。私は静かに二人だけで話したいのです。貴女が居らしてはちっとも話が進みませんの。


 しっしとジェスチャーで退室を促します。まったく困ったものです。そんなに私がお友達を連れてくるのがおかしいんでしょうか。ちょっと心外です。



 私の熱意にようやく折れてくださったのか、メイドさんはやれやれといった顔で立ち上がられました。そのまま笑顔で口をお開きになられます。


「うふふ、分かりましたよ。失礼いたしました。お邪魔虫の私めは退散させていただきます。……コホン。

小暮様。親御様には既に連絡を入れておりますので、どうぞ時間を気にせず、ここを自分の家だと思って存分にお寛ぎくださいませ。お帰りの際は私にお声がけください。送迎車をご用意いたしますので」


「あ、ありがとうございます……」


 ふぅ。やっとお仕事モードに戻ってくださいましたか。お気遣いありがとうございますの。そういう陰ながら色々手を回してくれるところはいつも感謝しておりますわ。


 あ、そのうち防犯ブザーを壊してしまったことを謝らないといけませんわね。ついでに次はもう少し丈夫なモノを用意してくださるよう言っておきませんと。


 部屋の扉を静かに閉め、メイドさんが退室なさいました。これでようやく二人っきりです。内緒話もできますの。



「えっと、今の誰? お母さん……じゃ、なさそうだけど」


 彼女の退室を見届けてから、対面の床に座る小暮さんは私の耳に口元を寄せてひそひそ声で質問を向けてきました。


「? 誰って我が家のメイドですの」


「メイドさんいるの!?」


 普通おりますでしょう。


「小暮さんのお家にはいないんですの?」


「いないよ……てかウチだけじゃなくて世の中大多数のお家にメイドさんなんかいるわけないじゃない……」


「あらそうなんですの」


 以前にメイドさんが仰っていた事は本当なんですのね。やっぱり一般のご家庭事情は分かりませんですの。世間知らずに思われないよう少しずつ生活様式について理解を深めねばなりませんわね。新聞やテレビを見る習慣を付けましょうかしら。けれども朝早いのはご勘弁願いたいですの。



「前々から思ってたんだけど……こうやって実際この目で見ちゃうとさ。口調も振る舞いもやたら丁寧だし、立派な庭はあるし、黒塗りの高級車は停まってるし、更にはおっきなおっきな一軒家にメイドさんも居るし……で、もしかして蒼井さんって結構なお嬢様なの?

あー、んでも、にしてはもっと豪邸とか専用プールとか、おっきなワンちゃんとか黒服のSPたちとか……もっと色々あってもよさそうなんだけど」


「それは実家にならありますわね」


「……え、あ……うん。……うん?」


「ここは私の為の、いわば別荘的なお家ですもの。必要最低限のモノしか持ってきていないみたいですの。言えば取り寄せられると思いますけれども」


「………………あっちゃー本物だったかー……」



 ふぅむ? ワクワクしたりお顔を真っ青にしたり頭を抱えたり、表情の豊かなお人ですのね。


 って今大事なのは私のお家事情ではございませんの。それよりも今日の貴女のことなのです!



「そんなことより!」


「そんなことで済ませられる内容では無いと思うんだけど、うん。大丈夫。分かったよ。分かってるよ。私の話だもんね。

私自身、今後もこの秘密を守り抜けるとは思ってなかったし。えーっと、何から話せばっ、いいのかなー……あはははーっ」



 やけに気が動転してらっしゃるようですの。

 ホントに大丈夫かしら。


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