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圧倒的、圧倒的なんですの……!

 


 その声に続いて耳に届いたのはドガッという重めの打撃音でした。


「ぐぶぉばッ!?」


 間髪入れずにカボチャ頭の鈍い唸り声も聞こえてきます。痛々しい声に思わず私も身構えてしまいましたが、特に被害を被るような様子はございません。



「……な、何が起きたんですの……?」


 恐る恐る目を開けてみますと、私の視界からはさっきまで目の前に居たはずのカボチャ頭が消えておりました。

 目を凝らして辺りを見てみれば、彼は数メートル離れた塀に背を預けながら腹を抱えてうずくまっているのです。


 しばらく頭の理解が追いつきませんでしたが、どうやら私とカボチャ頭の間に誰かが割り込んできて、そのまま彼に強烈な一撃を食らわせたようなんですの。


 えっと……あ、居ました。


 カボチャ男の頭上、塀の上に腕を組んで佇んでおります。建物の間から差し込んできた西日によってお体が明るく照らされております。

 私に対して背を向けているためにお顔までは分かりませんが、背格好からして女性のようです。



「ふっ。私が来たからにはもう安心だよ」


 ほえー。最近の女性は背中で語るものなんですのね。カッコいいですの。

 まるでスポットライトに当てられているかのように光り輝いて見えます。


 この人もまた特徴的な衣装を見に纏っていらっしゃいます。

 端的に言ってテーマカラーは赤でしょうか。幼い頃にテレビで見たアイドルアニメのキャラクターのように、お洒落でフリフリな膝上丈のドレススカートを華麗に着こなしております。


 どこかカジュアルめにテイストされたその服はとっても動きやすそうで洗練されています。背中や袖口には大きなリボンが装飾されていて、どうやら胸には赤い宝石のブローチを付けていらして、とってもポップでキュートな感じです。オーダーメイドであれば是非デザイナーを紹介していただきたいですわね。


 そして何よりも目立っているのはその手に持つステッキでしょうか。傘の取っ手みたいな形状で、長さはおよそ40センチ程。全体的に白く光り輝いており、先端には胸のブローチと同じような宝石が光を反射させております。



 ふと私の頭の中にはどこかで聞いた変身ヒロインというワードが浮かび上がっておりました。ふりふりのドレススカートにステッキとは、これではまるで……。


「魔法少女さん……のコスプレイヤーさん?」


「んー惜しいっ。一応本物のソレなんだけどなぁ。やっぱ世間的にはそう見えちゃうよねぇーって今はそんなことどーでもいいんだった!」


 少々不思議な自問自答をされておりましたが、ようやくそのスカートを翻してこちらを向いてくださいました。残念ながら差し込む西日の影響でそのお顔は拝見できません。


「ねぇ君大丈夫? アイツに変なことされなかっ……って嘘、なんでこんな所に蒼井さんが……あ、いや何でもない、何でもないよっ!」


「? なんですの? よく聞こえませんでしたわ」


 何やら小さな声でぶつぶつ仰っておりましたが、言葉を言い終わるか否かのタイミングでまたすぐさま背を向けてしまいました。

 横幅の狭い塀の上でしたので少しバランスを崩されております。なんだかお茶目な方ですのね。


 でも、どこかで聞いたことのある声ですの。



「えっと、君は安全なところに隠れてて!

大丈夫。アイツは私がやっつけるから!」


 そういうと、物凄い跳躍力で塀からムーンサルトな前面ジャンプをし、私とカボチャ頭との間に着地されました。


「あっ、ありがとうございますの……」


 頼もしい背中です。なんだかやってくださりそうな気がいたしますの。彼女の言う通りに私はすぐさま建物の影に移動して、首だけを出して様子を伺います。


 目の前に立った彼女をしかと見てみれば結構身長の小さい方のようです。私よりも小さいくらいです。まさに魔法〝少女〟と呼ぶべき子供っぽさを感じますの。



 ここでようやくカボチャ頭の大男が動きました。背中を摩りながらぬるりとした動きで立ち上がります。


「ぐっ……。このワタシとしたことが油断してしまいましたね。おやおやおやおや。誰かと思えば噂に名高い貴女でしたか。これはラッキーでしたね。先程の少女と合わせてたっぷりトリートしていただきましょう」


 ゆらりと不気味に佇んでおります。



「へっへーんだ。返り討ちにしてあげるもんねー! お前なんかに捕まるほど私はヤワじゃないもーんだ」


 こちらもビシッと指差し反論いたします。



「クヒヒ。女子たるモノ威勢がいいのはいいことです。ですがその口、すぐに閉じさせてあげましょう。トリックオア」


「気を付けてくださいまし! その変態、指パッチンしたらいつのまにか手に持ってたモノを奪い取ってるんですの」


「もう遅いです。トリックオアトリート(悪戯かご奉仕か)


 私の言葉に間髪入れずパチッと指の鳴る音が聞こえます。


「フフヒヒヒ。貴女の大事そうなモノ、さっそく奪わせていただきました」


 既にカボチャ頭の手には杖が握られております。見ていた限り素早く近づいて抜き取っただとか、そういう類のモノではありません。

 本当に瞬間移動しているとしか思えないほど、一瞬でモノが移動しているのです。


 カボチャ頭の大男は至極余裕そうな様子で杖の先端を指で摘んで、ブラブラと揺らしております。挑発のつもりなのでしょうか。



 対する少女は空いてしまった手の平を眺めつつ、何やらふむふむと頷いております。


「ふーん。中々便利そうな魔法だね」


 ですが大して気にされてはいないような口振りです。



「おやおや。強がりをおっしゃる。さっそくピンチ到来なのではないのですか? こんな可愛らしい武器を奪われてしまっては」


「あー、えーと、うんそうだね。かもしれないね。でもね……別に構わないんだよ!」


「おや?」


 シュン、と彼女の姿が消えました。あまりに一瞬のことで、彼女の居た位置に残像が見えてしまったくらいです。


 何やら風を切るような音だけが聞こえてきます。


 と、次の瞬間。


「げぼぇッ!」


 カボチャ頭の体がくの字に曲がって吹っ飛びました。もう一度背中から塀に激突します。辺りから砂埃をあがってしまうほどの衝撃です。か弱い私なら(あばら)の二、三本は持っていかれてしまったでしょう。


 見惚れてしまっていると、消えていた彼女が再び姿を現しました。体の輪郭がブレるほどの残像を纏って、さっきと同じ場所に仁王立ちなさっております。


 まさか目が追いつかないほどのスピードで移動して、そのまま蹴りか何かを食らわせて、また同じ立ち位置に戻ってきたということでしょうか。

 もはや見ている世界が信じられませんの。


「私にもできるもん。コレは返してもらったよ。まっ、私にしたらこんなのただの飾りなんだけどっ!」


 その手にはしっかりと杖が握られております。一撃を喰らわせる間のあの一瞬に杖まで取り返していたようなのです。


 圧倒的、圧倒的なんですの……ッ!


 ですが、え、あ? ふむむむ?

 少々頭がこんがらがってまいりました。


 指パッチンで杖が移動して?

 今度は少女さんが消えて?

 そしたらカボチャ頭が吹っ飛んで?

 元の位置に少女さんが戻ってきて?

 杖もまた戻ってきていて?


 一瞬ってこんなに長かったでしたっけ?



 カボチャ頭が土煙を上げながらよろよろと起き上がります。相当なダメージを受けているのでしょう。

 だって二度も塀に叩きつけられているのです。私が彼なら早くお家に帰って休みたくなりますわ。

 


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