表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

397/399

野生の勘的なアレかしら

 

 上層へと続くエレベーターに向かう最中、見慣れた後ろ姿がこの瞳にド真ん中に映り込んできましたの。


 一人の女の子が前方を歩いていらっしゃいます。


 私と同い年ながら、途中で成長を止めてしまったかのようにこじんまりとした背格好に、特徴的な燃えるような赤い髪――


 御多分に洩れずに私の現役時代の元相棒、魔法少女プリズムレッドの中の人こと茜ですの。


 やけにおぼつかない足取りで、それこそ通路の右へ左へとふらついていらっしゃるのです。


 一見では酔拳か、はたまた度重なる刺激(・・・・・・)によって足腰が砕けてしまわれたのか。


 ……あの後ろ姿はどう見ても真夜中のお顔の(ビーストモード)の茜なんですのよね。


 だって、今まさに濃いめのヨーグルトを足元に滴り落としながら進んでいらっしゃるんですもの。


 おまけにお身体から異様な熱気を発しているような幻覚さえ見えてしまいます。


 ふぅむ。なんだかとっても久しぶりな気がいたしますわね。


 いや、こうして話題に上げないだけで、実際のところはほぼ毎日のように見ているんですけれども。


 こうして冷静な頭のまま、つまりは魔装娼女としてバトルに向かおうとしている真っ最中にお会いしたのがレアなだけかもしれません。


 それで、えっとどうしましょう。


 ここでお会いしたのも何かの縁として……。

 一応は挨拶しておいたほうがよろしくて?


 正直、(トロ)け眼の茜と絡むと相応に時間を食ってしまうんですのよね。


 ただでさえあのモードの茜は、思わず口の中が甘ったるく感じてしまうほどのまったりな空気感を醸し出しなさいますし。


 であればココは一つ、ヌメる足元に気を付けながら、あえて颯爽とその横を駆け抜けておいて差し上げるべきですわよね。


 今はそっとしておく、というのが最善手だと思いましたの。


 決意の意を込めて改めてこくりと頷かせていただきました。


 それに呼応するかのように、肩上のポヨがぷるるんっとその身をお震わせなさいます。



「……あらかじめ言っておくポヨが、ポヨはあくまでノーコメントを貫かせてもらうポヨよ。ポヨたち変身装置は、お前らの私生活には干渉しすぎないと決めているのポヨ」


「ええ、ご配慮痛み入りますの。どうかこれからも適度な無関心を貫いておいてくださいまし。

正直に言えば、私もそうしていただけると気が楽なんですのよね。己の乱れた姿を見せるのは、さすがに……」


「はぁ。皆まで言わんでもいいポヨよ」


 興奮(・・)しちゃいますの。


 ……まで言わせてくださいまし。


 こ、こっほん。とにかくビジネスはビジネス、プライベートはプライベート、きちんと場を分けたほうが何事も上手くいくのです。


 お互いの領域に踏み込みすぎないよう、配慮と節度を持って今後とも仲良くしてまいりましょう。


 貴方の仰る通り、過度な干渉は毒なのです。


 それが原因で私たちは一度仲違いしてしまっているのですし。もうあんな辛い思いはしたくないですの。



 ……というわけですのでっ!


 今回はビジネスモードの私として急いでいるという大義名分もございますし、申し訳ありませんが茜へのお声掛けは無しにさせていただきましょうか。


 下手に絡まれて私のソッチのスイッチが刺激されてしまっても悔しいですし。そうなってしまえば、殊更に己の欲求を制御しきれるか不安が残っ――



「あ〜。美麗ちゃんだぁ。おっはよー……っ」


「おうふ。一歩駆け出すのが遅かったですの」


「うん〜? 何か言ったぁ?」


「いえ何でもございません。ごきげんよう、茜」


 茜ったら唐突に振り向きなさいましたの。

 目と目が合った瞬間に冷や汗が出てしまいました。


 この子ったらつい数秒前まで俊敏な動きなどを見せるそぶりも垣間見せておりませんでしたのに。


 ビーストモードゆえの野生の勘的なアレかしら。



「えっへへぇ。一昨日からオークくんとの夜通し耐久訓練中なんだぁ〜。ただ今はほんのちょっぴりのお散歩休憩タイム中……んぅっ」


「へぇ。それはたっぷり精が出ますわね」


「出すのは私の方じゃ……ないよぉっ?」


「ンなこと分かってますのッ! 今まさに垂れ流しながら仰らないでくださいましっ」


 まったくもう。

 組織内の美化清掃班のお仕事をお増やしなさいまして。


 ……普段の私も人のこと言えませんけれども。


 上層のプレイルームと、今から向かう転移室辺りがその被害場所筆頭に挙げられましょう。


 もちろん垂らすのは白いほうだけじゃないですの。

 後者は転移酔いのおゲロのせいですので悪しからず。



「あ、そうだぁ。美麗ちゃんも混ざってみる? なぁんて言ってみたけどぉ、なんだか急いでそうだよね。外のほうで、何かあったり……っ……?」


「ええ。ちょっとばかり実家関係でご用事が」


「ありゃりゃ、そりゃあ大変だぁっ……。行ってらっしゃい。戻ってきてから合流しても、イイんだからねぇ……んふぁっ……」


「おっけですの。前向きに考えておきますの。貴女もたまにはご自愛くださいまし。魔法少女の身体補強が効いているとはいえ、あくまで私たちの身体は繊細なモノなのですから」


 慰安要員は特に身体が資本なのでございます。


 じゅるり。でも、たまにはイイですわよね。

 怪人さんの共同味見というのも。そう、たまには。


 問題を片付けてくる楽しみが増えましたの〜。


 これでより一層頑張れそうな気がしております。



 やっぱり少しばかり名残惜しいですが、今は心に喝を入れて茜に手を振って、会釈を重ねた後にその脇を颯爽と通り抜けてまいります。


 今から向かう曲がり角の先に、エレベーターホールがございますの。


 上層に到着したら、最短ルートである一般戦闘員さん方の居住エリアを通り抜けさせていただいてっ!


 そしたら転移室が待っておりますのっ!

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ