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ははーん、嘘仰いまし

 

 首を横に傾けた私と同じように、カメレオンさんもまた首をカクンと倒しなさいましたの。


 ハタから見たら異様な光景かと思います。


 頭ボサボサの寝起きガールと、何やら口をへの字に結んだ怪人さんがほぼ同時に変な儀式を行い始めたのですから。



「……ふぅむ?」


 やっぱり事態を飲み込めず、ついつい疑問符が口から出てしまった私を誰が責められましょうか。


 と思ったのも束の間のことでしたの。


 すぐに彼が首を顔を傾けた理由が分かったのです。


 彼の肩に、私の変身時の相棒――青色水饅頭のポヨが乗っていらしたのでございます。


 ちょうど目と目が合ってしまいましたの。


 パチクリとまばたきを繰り返しつつも、あくまでキョトンとした表情を続けたまま、ポヨとカメレオンさんのお顔を交互に見比べて差し上げます。



「えっと……なかなかに珍しい組み合わせですわね。怪人さんと変身装置が一緒に行動をなさっているだなんて。

まさかカメレオンさんも、実は魔法少女への変身願望をお持ちであったり? 試しにmake up してみまして?」


「バーカ。寝言は寝てから言えッてンだ。ったく」


 あくまで真面目を装いながら質問を向けて差し上げましたところ、即座に舌打ちをされてしまいましたの。


 うふふふ。そんなに悪態を吐かないでくださいまし。

 もちろん一から百まですべてが冗談でしてよ。


 でも、もし彼がホントに魔法少女になられたとしたら、いったい何色をご担当されるんでしょうね。


 昨今は男の子でも女児向けヒーローになれる寛容な世の中になりましたし。カメレオンさんではイケない理由もないと思いますの。


 体色変化の達人さんなのですからあえての虹色か、もしくは逆に無色透明なのかもしれませんわね。


 妄想はこの辺に留めておいて、てへぺろりと茶目っ気全開に反省の意を示して差し上げます。


 彼は心底不愉快そうなご表情を続けながらも、その後のお言葉を話してくださいました。



「俺ァあくまでコイツに勝手に乗られただけだ。人をタクシー代わりに使いやがって。図々しい装置だゼ」


「移動のご協力感謝するポヨ。そちらとしても、ポヨが美麗と合流するのはそう悪い話ではないんだろポヨ?」


「………………まぁ、ナ」


「ふぅむ? むむむむ?」


 一緒にいらした理由自体は分かりましたが、その目的においてはいつまで経ってもよく分かりませんの。


 こんな朝っぱら……じゃないですわね、昼過ぎにわざわざ私の元を訪ねてくるだなんて、一体全体どんなイベントが起きてしまったというのです?


 とりあえずカメレオンさんの不機嫌度を下げるためにポヨを受け取って差し上げましょうか。


 手のひらで掬うようにして架け橋を作ります。


 行動の意に気付きなさったのか、ポヨがぷにりんっという水っぽい音を立てて乗り移ってくださいました。


 自然な動作で私の肩に乗せて差し上げます。



 一連の動作を見届けて、カメレオンさんが首を元の位置にお戻しなさいました。


 肩の辺りを抑えてコキコキと関節的な音を鳴らしていらっしゃいますの。なかなかにお疲れのご様子ですわね。



「あーっと、オメェの複製体(いもうと)――ありゃスペキュラーブルーっつったか。最近、またちょこちょこ表舞台に現れるようになってよォ。

あのクソ忌々しい光を使わなくなったのはいいんだが、それとは別に、ちょっと問題がナ」


「あら、未来ちゃんがどうかなさいましたの?」


 私が実家と和解してから、もうそろそろ一ヶ月が経とうとしております。


 色々なほとぼりが冷めるには充分な頃合いです。


 最高最強の魔法少女のご活動だってそろそろ再会なされてもおかしくはないタイミングだと言えるでしょう。


 そもそもあの子の本業が魔法少女なのですし、多少の善行活動くらいは目を瞑って差し上げてくださいまし。


 そもそも悪いコトをしているのは私たち側なのです。

 多少の妨害くらいは気にせずにご暗躍して差し上げませんと、悪の秘密結社の名が笑われてしまいましてよ。


 さぁ堂々と胸を張って真っ黒に手を汚すのですっ……!



 とまぁ脇道はこの辺にしておきましょうか。


 消滅の光は使われていないということは、彼女も私との約束をキチンと守ってくださっているってことですからね。


 いやはや感心感心、なのでございます。


 今度実家でお会いしたときにベッタベタに褒めて差し上げましょうか。


 ちなみに私としては、一ヶ月程度はまだ近況報告に伺うには時期尚早と思っておりましたゆえに、地下の奥底から穏やかに見守っているつもりでしたけれども。


 私が出ないと埒が明かないほどに、あの子に手こずってしまっているっていう戦況なんですの?


 まったく甲斐性のない殿方さんたちですことっ。

 


「といいますか、カメレオンさんほどの実力があれば、たとえ本気を出した魔法少女スペキュラーブルーであっても片手で軽ぅく完封できてしまうのではありませんこと?」


「無理だとは言わネェが、このままヤツがあの光を封印し続けるとも限らネェしナ。俺ァ勝てネェ博打は打たネェ主義だ」


 ははーん、嘘仰いまし。競馬が大好きなくせに。


 ついこの前も新聞をビリビリに引き裂きなさっていたのをしかと目にしておりましてよ。


 じとーっとした瞳で見つめ返して差し上げます。



(アレ)を使ってくれなきゃウチとしては死ぬほど楽なンだが……最近はどうもそうは言ってられないらしくてナ。

っつーのも、あちらさんから何度か伝言を預かってるンだよ。逃げ帰ってきた一般戦闘員共が皆口を揃えて報告してきやがるわけでナ」


「ご伝言ですか……どうぞお話しくださいまし」


「おう。オメェの複製体が言うにはこうだ。

〝飽きた。最近全然楽しくない。お姉ちゃん出てきて。早くしないとコイツ(戦闘員)ら全員消し飛ばしちゃうからね〟だってよ。

どうやら直々にご指名受けてるみテェだぞ、青ガキ」


「はぇぇ、あっちゃーですの」


 あの子の気難しさも困ったものですわね。


 まぁでもしゃーないですの。


 その人それぞれの心と身体のケアをして差し上げるのがプロの慰安要員たる私の、そしてまた、手の掛かる妹の相手をして差し上げるのが姉たる私の務めだと認知しておりますの。


 この一ヶ月の間に多少のシェイプアップをいたしましたし、魔装娼女の黒泥も対魔法少女用に更にバージョンアップを施していただきましたし……!


 ここは一つ、私自らが一肌脱いで差し上げる他に手っ取り早い解決策はなさそうですわね。



「おっけですの。状況は分かりましたの。であればちょっと様子を見てきますの。というわけで行きますわよ、ポヨ」


「もちろん最初からそのつもりだポヨッ!」


 カメレオンさんに一礼したのち、スタコラサッサと自室を後にいたします。


 目指すは上層の転移室ですのっ!


 道すがら聞き込みでもして、最近の出現場所でも伺っておきましょうか。


 そうして地上で出会ったその場が決戦のバトルフィールドになりましてよっ!


 曲がり角に気を付けながら通路を颯爽と駆け抜けてまいりますっ!


 

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