現にほら、下腹部のほうにはまだ
「……ふぁ……ぁふん……ねむぅ……まぶぅ」
廊下から漏れ入ってきた灯りによって、ついつい目を覚ましてしまいました。
おはようございます、で合っておりますでしょうか。
ぼんやりとした思考と視界では何も考えられません。
とりあえずキングサイズのベッドの上で、半身を捻るようにして身体を起こしてみます。
緩やかなウェーブの掛かった髪が若干ボンバー気味になってしまって、尚更に視界を遮ってしまっているようですが、そちらは少しも気にいたしません。
とにかく目元を擦りながら辺りを見渡します。
ふわぁ、あふ。ここは私の自室、ですわね。
一見では牢屋のような劣悪な環境ですが、別に慰安要員として生活する上で不必要なアイテムが置かれていないだけですの。住めば都の典型例です。
ぽりぽりとだらしなくお腹を掻きながら、もう片方の手で枕元に転がった青いハート型の目覚まし時計を掴んで、その盤面を確認してみます。
どうやら、ただ今の時刻、四時ちょい過ぎらしく。
まさかこの自堕落を極めた私が早朝になんて起きられるはずもございませんから、まず間違いなくコレはお昼過ぎのほうでしょう。
夜の帳の端っこが見え始めているのではないかという夕暮れ時もいいトコですの。
にしてもおっかしいですわねぇ。昨晩の記憶が残っているのは日付が変わった直後くらいですしぃー……。
おおよそ換算でも十二時間強。
かなり熟睡してしまったようなのです。
きっとアレですの。久しぶりに総統さんから直接のご寵愛をいただけたからに違いありません。
現にほら、下腹部のほうにはまだ甘ったるい感覚が残っております。むふ、むふふふふ。
いつもながらに激しいことこの上なかったのですが、その分だけ満足感も凄まじいのでございます。
思い出すだけでうっとりとしてしまいます。
おかげさまでお肌も心もツヤッツヤですの。
叶うなら毎日のように致したいものですわね。
むふ、むふふ、むふふふふん。
「……いやはや、今日も素晴らしい一日ですのー」
一日の大半を寝て過ごしてしまいましたけれとも。
後悔することなど一ミクロンも有りはしないのです。
全て、私が選んだ未来なのですから。
自堕落こそが至上、怠惰こそが極上ですの〜。
というわけで皆さま、ごきげん麗しゅう。
寝起きの頭ながら、早くも気分るんるんな蒼井美麗です。
今日も私はこの国のどこかの地下深く、悪の秘密結社のアジトにてしっぽり健気に生を享受しております。
さぁて本日は何を楽しみましょうかねぇ。
ぐいと背中と腕を伸ばして身体を起こします。
まずは社員食堂にて腹ごしらえ?
それとも大浴場にて身を清めさせていただきまして?
何をしたって私の自由なんですもの。
となれば、散々眠り呆けたというのに、もう一度このベッドに身を転がして、惰眠を貪り直すというのももちろんおっけーなわけでして〜っ。
意外に名案かもしれませんわね。
昨夜の甘い痺れも残っていることですし。
善は急げと、ぱたころりん、と。
背中から大の字になってベッドに倒れ込みます。
上質なシルクシーツが私の身体をふんわりと包み込んでくださいました。
「んっはーっ。ホーントに何にも縛られない毎日って最高ですのーっ。あくせく働くのが馬鹿らしくーっ。
けれどもさすがに暇すぎて指先からトロけてしまいそうですわね。
……正直手持ち無沙汰の極みでぇすのぉおおっ」
むふふと声を漏らしつつ、そのまま縦横に転がります。天蓋柱にぶつかろうとも、また黄金の回転に枕を巻き込もうとも一切気にいたしません。
そのうちに息が切れて、はぁはぁと肩を揺らして。
そうしたらまた枕をぎゅっと抱きしめて。
もう一度だけふふふんっと鼻を鳴らします。
毎日気持ちイイことをして、好きなだけ眠り呆けて、たまーに起きて、食べて、そしてまた寝る。
それ以外に何を求めろというのでしょう。
この繰り返しこそが真の自由なんですの。
どこのどなたにも邪魔立てはさせませ――
コンコン、と。
――させませんのと意気揚々と宣言して差し上げようと思っていたのですけれども。
ちょうどそのときでございましたの。
お部屋のドアがノックされてしまったのでございます。
お生憎、私の自室にはプライバシーを守る鍵などは設けられておりませんから、どなたでもウェルカムな状態になっておりますの。
まして私、来客を拒んだことなど一度もございません。
飢餓状態な殿方の乱入クエスト、いつでも大歓迎でしてよ。
ソレだといいますのに、わざわざドア前でのワンクッション確認を挟んでくださるとは……いったいどのような紳士な方が訪れなさったのでございましょう?
急いで身体を起こしてベッドから降りて、自ら迎えに行って差し上げます。髪も手櫛で梳かしておきますの。
「はーいー? 御多分に洩れず開いておりましてよー。お好きに入ってくださればよろしいのに。ええっと、どなたですのー?」
ドアをがちゃり。
経年劣化のためか若干軋んでいるようです。
扉を開けたその先には。
「よう。オレだ青ガキ。よかった起きてやがったか」
「あらぁカメレオンさん!? 珍しいですわね」
ドアの向こう側にいらしたのは、クールでツンデレで有名な、爬虫類型怪人のカメレオンさんでしたの。
腕組み眉をひそめ、出会い頭に何やらとっても不機嫌そうなお顔になっていらっしゃいます。
はて? もしや私、また何かをやらかしまして?
まったく記憶に思い当たりませんけれども。
とりあえず小首を傾げて、彼に疑問符を投げかけて差し上げます。