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私はきっと、世界で一番の幸せ者ですわね

 




 お次に目を覚まして視界に入ってきたのは、とにかく駄々っ広くて真っ白けっけな空間でございました。


 足元には青色の光がじんわりと揺らいでおります。


 それがやたらと眩しく感じるのは私の明順応がまだキチンと機能していないからでしょうか。


 さっきまで明るいところにいたはずですのに。まったく律儀で正直な身体ですこと。


 目を閉じて耐えていた最中に、光を見失ってしまったのでございましょう。


 目元を擦りつつ、隣にいらっしゃるメイドさんにお声掛けいたします。



「……無事に、帰ってこれたみたいですわね」


「ええ。転移の副作用で目眩がいたしますが、今回はそこまで酷くはなりませんでしょう。

とにもかくにもお疲れ様でございました。お嬢様」


「ふぅむぅ。やぁっとひと段落つけそうですのー……」


 メイドさんも今日はご苦労様でしたわね。


 その身動きのとりづらいご格好での山登り、さぞかし大変だったことでしょう。


 よろしければ今日はもう上がってくださいまし。


 それか私と一緒に大浴場にでも行って、ゆったりと汗を流して身体を休めておきませんこと?


 このまま放っておいたら翌日に酷い筋肉痛に苛まれること間違いなしなのでございます。


 総統さんからいただいた〝お手付き首輪〟を身に付けておけば、他の利用者様からもちょっかいは出されませんでしょうしっ。



 少しお話しておりますと、ようやく目が慣れてまいりましたの。改めて周囲を見渡します。


 ココは私の今の住まい、悪の秘密結社のアジト上層にある転移室ですの。


 施設内特有の生温かい空気が私の身体を優しく包み込んでくださっております。


 ああ、何だか妙にホッといたしますわね。

 やっぱりこの空気感こそが私の居場所なのです。


 これなら強制転移特有の吐き気と気怠さに苛まれても、先ほどまでと同様に晴れやかな気分のままでいられますの。


 そう、あくまでほっこりとした心地のまま――



「……ゔぁ、ちょっと待っでくださいまじ。やっぱりダメそうでずのっ。ゔっぷ。カッコ付けて立ったまま帰るんじゃなかっだでずのー……ッ!」


 前言撤回させていただきます。


 遅れて襲いかかってきた吐き気とめまいのせいで、今すぐにでもリバースしてしまいそうです。


 やっぱり私、明順応と三半規管についてはトコトン弱っちいようですの。人並み以下にもほどがありますの。


 胃の奥底から今にも朝食の成れの果てが迫り上がってこようとしております。


 うぶぁぁあ……尊厳保全のバケツはぁ……転移室に常備されているはずの金物バケツはどこに消えてしまっておりまして……ッ?


 早く見つからないとっ、真っ白で清潔な空間を黄色いドロドロで汚し尽くしてしまいましてよ……!?


 ゔっ。あっともう本気でダメそうですの。


 強制転移はとにかく身体への負荷が激しいのです。

 吐き気のピークに至るまでも早いんですの。


 もはやッ……これまで……ッ!?


 せめてもとお口に手を当てて、最後の抵抗を試みようとした、まさにその瞬間でございました。



「お帰り美麗ちゃん。どうだった?」


「ゔぁ、茜……ッ!?」


「とりあえずハイこれ。さっきから探してそうなバケツね。さすがに可哀想だから背中さすってあげるよ」


 突如として茜が現れて、私の顔の前におゲロ受け止め用のバケツを差し出してくださいました。


 貴女ってば天使かもしくは救世主ですのっ!?


 眩しすぎる世界のせいで気が付いておりませんでしたが、どうやら部屋の隅のほうに待機していてくださったようです。


 もしかして、わりとそこそこの時間、私たちの帰還を待っていてくださったのでしょうか。


 確かに今日の私たちは言い換えてみれば敵地双身のみでに乗り込んでいったようなものなのですし。


 今思えばこの子に不必要な心配をさせてしまったかもしれませんわね。


 けれどもほら、ご安心くださいまし。

 こうして五体満足で帰って来れましたから。


 長年の宿題も解消することが叶いましたの。


 晴れて私は、そして貴女も含めた私たちは、本当の意味で自由になることができたのです。


 もう何からも脅かされることはありませんでしてよ。

 安心して慰安任務に励んでまいりましょう。

 


 って、そんなことは今はどうでもよろしいのです!


 とにかく死に物狂いでバケツを受け取って、すぐさまにその中に顔を突っ込みます。



 そして。



「うっ……おぶぅえええぇぁぁあ……」


「あっはは。美麗ちゃんはホント変わらないねぇ。すぐに酔っちゃうし吐いちゃうし。けらけらけら」


「まっだぐ……笑い事ではありまぜんのぉ……」



 うぇぇえ……口の中が苦酸っぱいですの。


 慣れのせいか鼻のほうには流れてきておりませんけれども。


 後味はもう最悪、ブレスをケアする錠剤をカリリとキメ込みたい気分です。


 ケホケホとむせる私を見たのか、茜が何も言わずに透明のペットボトルを手渡してくださいました。


 ご配慮に甘えて、即座に蓋を開けてお口に流し込んで濯がせていただきました。


 ぺっぺと何度か繰り返してリフレッシュさせていただきます。



 ……ふぅ。やっと落ち着きましたの。


 毎度毎度これではしんどみが酷いですわね。

 本格的に身体の中を弄っていただきましょうかしら。


 まぁでも、今後はそこまで頻繁におでかけをすることもなくなりますでしょうし。


 まして基本的に出不精な箱入り娘に結構なお手間を掛けていただくのも野暮でしょうし。



 やっぱり。なんだかんだ案を申しましても。

 現状維持というのが最善なんでしょうね。


 そのまま(・・・・)である良さに気が付いてしまいましたの。



「……変わらないというのは本当のコトですの。過去の私も、今の私も、全部が全部蒼井美麗であって……! そしてこれからも、私は己を変わるつもりはありませんのっ!」


「その感じだと、お父さんとお話できたみたいだね。あとで聞いちゃってもいいやつ? 私のほうにも活かせるかもしれないし」


「もっちのロンのすけでしてよっ!!! 沢山話したいことがありますのっ! 三日三晩語り尽くして差し上げますのっ!」


 手に持った汚物バケツはそのままに、茜に満面の笑みを見せて差し上げます。


 この子にはもちろん、敬愛する総統さんにも、日頃お世話になっている怪人の皆さま方にも、是非とも聞いていただきたいですのっ!


 これからも私のワガママを貫き続けるために!


 毎日飽きの来ない、この素敵な日々をっ。


 いつまでもいつまでも続けられますように!



「……私はきっと、世界で一番の幸せ者ですわね」


「あはは。ゲロ吐いた直後の台詞とは思えないけど」


「それはそれ、コレはコレでしてよ。うっぷ」



 吐き気の第二波がやってまいりましたの。

 自室に戻るのはもう少しだけ後にいたしましょうか。


 時間はたっぷりあるのでございます。


 これから、ゆっくり、じっくり……。


 私の怠惰な日常に、多種多様な色を塗ってまいりましょう。


 正直、楽しみで仕方ありません。

 


 ……ただし、汚れた黄色を塗るのは最後にいたしましょうか。つい増えがちになってしまうピンク色もまた然りなのです。


 できる限りポップでキュートな配色を心掛けていきたいものですわね。


 真っ白なキャンバス(私の長い長い人生)は、美しく麗しく、私らしく華やかに彩ってまいりましょう。

 

 これから腕が鳴りますの。それはもうぐわんぐわんと。





【第五章 決戦編 完】



【最終章 エピローグへと続く……】


 

 


 第五章、決戦編。


 お読みいただきましてありがとうございました。

 書きたいこと、コレで全部書き終えたつもりです。

 (*´v`*)忘れてることないよねっ!?


 美麗ちゃんのお父さんとお母さんについて

 いつかは触れたいよなぁ〜なんて思い始めたのが

 第二章過去編の真っ最中でした。


 それからずらーっと200ページほどが経ち……

 つい最近、ようやく叶った感じなんですよね。


 使うならもう、ココしかない、と。

 美味しく使うならコレしかない、と。

 

 それでは、あとちょっとだけ。

 エピローグにお付き合いくださいまし。


 

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