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変わらなくてもよいコトも

  

 花畑の入り口のほうへと踵を返しました。


 来たときの緊張なんてものは既になく、終始リラックスした足取りで戻れましたの。


 私とお父様の並び歩きに対して、メイドさんが笑顔で出迎えてくださいます。



「あらあら。そのご様子ですと、無事にお話できたようですね」


「ええ。まだまだ具体的なトコロには何も触れられておりませんけれどもっ。それでも時間が解決してくださるはずですのっ。私たちに不可能はあり得ませんのっ」


「それは何よりでございます」


 この胸を叩いて自慢して差し上げます。


 私たち親子の間に空いていた溝は、きっとお空のお母様が埋めてくださったのです。


 凍り付いていた時が溶けて、また再びその針を動かし始めました。


 いつでも気兼ねなくというのは無理がありますが、もう恐る恐る呼び鈴を鳴らさなくても良くなるはずです。


 今後はただいまーの一言だけでいいんですの。


 いちいちこのだだっ広い草原を経由する必要だってありません。敷地内に直接転移することだってできるようになりましょう。


 ……ふぅむ? さすがに敷地内にいきなり出現しては驚かせてしまいますかしら。


 もしくは連合側のセキュリティとして、何か特殊なバリアが張られているかもしれません。


 んまっ。いずれも次にお訪ねするときに試してみればよいだけのお話ですのっ。


 

「それでは……今日のところはそろそろお開きとまいりましょうか。ふふっ。名残惜しさを感じてしまう私は、これ以上ないほどの贅沢者なんでしょうね」


「涙で終わるよりずっとよろしいかと存じます。よかったですね、お嬢様」


「ええ。本当に……本当に」


 もう少しくらい欲を言えば、このまま実家に帰ってお茶の一杯でもいただいてから帰ってもバチは当たらないのでは? とも思ってしまいましたけれども。


 ただでさえお父様は多忙な方ですの。業務の合間をぬってお時間を頂戴させていただいたのです。


 付き添いに来てくださった未来ちゃんだって、魔法少女としての見回り警備をしなくちゃならないでしょうし。


 これ以上お邪魔してしまってはそれはそれでご迷惑になってしまうかもしれません。


 また、会えるのでございます。

 これからはいつでも会えるのでございます……っ!


 私だって勤務状況を見ればそう何度も実家に帰れるわけではありませんが、今日のお話を総統さんに詳しくご説明すれば、少しくらいは有給休暇をいただけると思いますの。


 海よりも深いお心に甘えさせていただきましょう。

 総統さんなら許してくださるはずです。


 非正規雇用の身分だとはいえ、私だってレッキとした結社のイチ社員ですものっ。



 改めまして、父様のお隣から、メイドさんのお隣へと移らせていただきます。


 なんだかんだでココがとっても落ち着きますわね。


 長い間、独りぼっちだった私の保護者を努めてくださった方なんですもの。メイドさんは私の姉であり、もう一人の母のような方なのです。


 メイドさんに撫でられていた未来ちゃんは、今度はお父様のほうに駆け寄ってその袖口を掴みなさいましたの。


 かつての人見知りだった頃の私を見ているかのようで、思わず微笑みがこぼれてしまいます。



「幼い頃のお嬢様より、ずっと会話ができる方でしたよ。未来様は大物になられるかもしれませんね」


「ちょ、ちょっとソレどういう意味ですの!?」


「蒼井家の未来は明るいですね、ということです。他意はございませんよ。あくまで従者の呟きにございます」


 むぅ。妙に引っかかる言い方をなさいますわね。


 私たちがそばを離れていた間に、こちらはどんなお話をなさっていらしたんでしょうか。


 気にならないかと問われたらそれは嘘になっちゃいますの。しかしながらデリカシーに欠けますので問いただしたりはいたしません。



 とにもかくにも。


 こうして、お墓側にはお父様と未来ちゃん、広がる草原を背に、メイドさんと私という対の構図になりました。


 あとは私たちが転移で帰るだけですの。


 ふと気が付いてみれば、この小高い丘の頂上からは、敷地入り口の巨大門も蒼井家の豪邸も、どちらも視界に映せることに気が付きました。


 はっはーん。なるほど。そういうことですか。


 お母様は、この場所から、ずっと見守っていてくださるんですのね。


 だからこの場所にお墓を建てたんですのね。


 ふふっ。寂しんぼなお父様ですこと。


 娘の私が少しくらいはその寂しさを紛らせて差し上げましてよ。


 これから、長い時間を掛けて、ですの。

 

 

「ではまた。遊びに伺うときはご一報いたしますわね。念のために釘を刺しておきますけれどもっ。戦場で出会ったときは敵同士ですのっ。呑気なままでは痛い目見ましてよっ」


「それこそこっちのセリフぅ! 次は絶対負けないからねーだっ。魔装娼女(黒いほう)のお姉ちゃんだけじゃなくて、神聖法女(金色のほう)のお姉ちゃんも全部まとめてぶちのめしちゃうんだから!」


「ふっふーん。せいぜいひきづり出してみせなさいましーっ。私、奥の手は最後の最後までとっておきますゆえにっ。

ピンチになったら変身チェンジして差し上げまーすのーっ!」


 何より金色の無垢な輝きは悪の秘密結社っぽくないですからね。私としては魔装娼女としてもっと強くなりたいのでございます。黒泥もより柔軟に使いこなしてみせますの。


 あ、そうですの。研究開発班の皆さまのおんぶに抱っこではなく、次からは私自らが試作と実験に協力して差し上げましょうか。


 新たな怠惰凌ぎになりそうですわねっ。


 ……ふふっ。


 私の人生に退屈なんてモノは一つもなくて。


 飽くなき欲求(わがまま)のその果てに、私の求める愉しさがあるってだけですの。


 このまま私の好きで満ち溢れた人生が、いつまでも続いてくださることを切に願っております。


 変わらなくてもよいコトもあるのでございます!

 



 お父様と未来ちゃんに対して、もう一度ぺこりと頭を下げます。


 今後こそ、しばしのお別れのときですの。


 始まりこそよろしくなかったこの関係ですが、これからは少しずつ良好なモノにしてまいりましょう。


 娘には、そして姉には、その気がありましてよ。



「……亀戸。引き続き、娘を頼んだぞ」


「はい。かしこまりました、旦那様」


 ご自慢のメイド服の裾を掴んで小さくお辞儀をなさいます。


 あちらの主従関係も正式に復活したみたいですわね。


 どうぞお好きに私の近況報告をお送りくださいまし。お望みなら夜のお伽のプレイ状況も感想文の形にしたためて差し上げましてよ。


 ……いや、とんでもない辱めになりそうですわね。

 さすがの私もちょいとビビりますの。



 メイドさんが私の手を優しく掴んで、首元に巻かれたチョーカーにお触れなさいます。



 そして。



「転移。よろしくお願い申し上げます」



 メイドさんが静かにそのお口をお開きなさいます。


 発せられたお言葉に呼応して、次第に柔らかな光が私たち二人を包み込んでいったのでございます……!




 ああっ……久しぶりのこの感覚ぅ……っ。



 視界が、ぐんにゃりとグラつき始めましたの……っ。





――――――

――――


――



 

 

 

ただいま最終盤につき

過去話を見返していたりします(*´v`*)


のんびりとお待ちくださいまし。

俺も、気合を入れてるんだ(*´v`*)

 

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