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姉であり母であり……!?

 

 まさかまさか、メイドさんではなくお父様ご自身が運転なさるおつもりですの!?


 従者ではなくあえてのご自分で!?」



「何をそこまで驚いている。今日はお前が呼び出したのだろう。墓までは遠い。車で行くのが筋というモノだ」


「そっ、それはそうでしょうけれども」


 え、あ、いや、そういう問題ではなく!

 もちろんその通りではあるんですけれども!


 私もまたメイドさんと同じく、貴方が運転席に座っていらしたことに面食らっているんですの。


 まさかのあのお父様が自ら行うとは夢にも思わず。


 そしてまた、メイドさんもメイドさんでご自身のお仕事と役割を全うしないわけにもいかずっ。


 私には聞こえないくらいの声量で、お二人が各々の主張をぶつけ合っていらっしゃいます。メイドさんもお父様も一歩も譲る様子はございません。


 二人も首を横に振るだけのようです。

 私と未来ちゃんは遠目で見守ることしかできませんの。



「なんだかオトナってめんどくさいね」


「ええ。まったくその通りですわね。困ったモノですの」


「あ、終わったみたいだよ」



 しばらくの間押し問答を続けていらっしゃったようですが、メイドさんがこちらに近付いてきましたの。


 珍しく頬を膨らませていらっしゃるのです!

 明らかに納得がいっていないご様子です。


 今見てみたら窓が閉められているみたいですの。ほとんど聞く耳を持たれずに、一方的に会話を終えられてしまったのでしょう。



 ふぅむぅ。お父様もお父様でしてよ。

 頑固すぎるにもほどがありますのー。


 ホント、一度やるって決めたらホントにやり遂げるまで曲げないんですもの。不器用な人ですの。


 っはー。まったくしゃーないですわね。


 こんなだだっ広いばかりの草原でずっと立ち往生しているわけにもまいりませんし、そして何よりお父様が運転してくださると仰っているわけですし。


 従者として譲れないのは分かりますがここはお父様に従っておきませんこと?


 とりあえずメイドさんに目配せを送っておきます。


 すぐに気付かれまして、やれやれと肩をしょげなさいました。


 そのまま後部座席のドアを大きく開け広げてくださいましたので、横にいた未来ちゃん共々中へと乗り込みます。


 入ってすぐに分かる高級感。ふわふわな床材の踏み心地とツルツルな革製のソファの手触りが、私が由緒正しき令嬢だったことを思い出させてくださいました。


 落ち着いて私の着ている服にも意識を向けられましたの。


 普段は真っ裸かネグリジェかの二択しかない私も、今回ばかりはキチンと人目についても問題ない衣装を着てきたのでございます。


 簡素ながら、わりとフォーマルなドレスといえば分かりますでしょうか。目立たないように寒色でまとめております。


 お久しぶりのお墓参りですので地味めなモノを選んでまいりましたの。


 もちろんのこと黒泥製でもありませんから、たとえ浄化の光を照射されてしまったとしても光粒と化す心配はございません。


 そもそも戦うことなんてないと思いますけれどもっ。


 いざというときは未来ちゃんが戦ってくださると思いますので問題ありませんのっ!



 私たちがキチンと座るのを見届けたのち、最後にほんの少しだけムスっとした顔のメイドさんも、音を立てずに乗り込まれましたの。


 あくまでお上品に、けれども少しだけ強めな音を立ててドアをお閉めなさいます。


 態度とご表情から察するに明らかにご納得あいだけていないご様子です。


 こちらは触らぬ神に何とやら、でしょうね。ほとぼりが冷めるまで、お父様にもメイドさんにも話しかけないほうが無難そうです。


 いきなりにして気まずすぎる状況になってしまいました。


 幸か不幸かさっきまで感じていた緊張もあさっての方向に飛んでいってしまったくらいですが、かといってこの淀んだ空気を打破できるほどの鋼のメンタルを持ち合わせているわけでもございません。



「あ、あの、えっと……とりあえず出発いたしませんこと? お母様が痺れを切らして待っていらっしゃいましてよ?」


「ん? もう死んでるのに?」


「……コッホン、未来ちゃん。貴女はもう少し教養とデリカシーというものをお勉強したほうがよろしいと思いますの。

腕っ節一つで生きていけるほど世の中はあまくありませんでしてよ? そうですの。貴女も花嫁修行をしてみましょうよ。きっと楽しいはずですの」


「んー。パス。あんまり興味ないかも」


 ふぅむ。あら残念ですこと。


 たしかに生まれたばかりの貴女に礼儀や空気読みの作法を求めるほうが間違いなのかもしれませんわね。


 ただ、今は知らなくても、これから少しずつ学んでいっていただきたいです。ゆっくりで構いません。


 人生はまだまだ始まったばかりなのですから。



「……あんまり、好きとか嫌いとか考えたことないし。あ、でも。この前までお姉ちゃんのことは嫌いだったかも」


「ぐぐっ……弾丸ストレートなご発言が胃と心に突き刺さりますの」


 素直すぎるというのも罪なモノですの。


 この私がツッコミに回らざるを得ないほどとは。まったく誰に似たのでございましょうね。


 ……未来ちゃんには私と同じ血が流れていらっしゃいますの。つまりはほぼ私ってコトですの。


 私のこの素直さはあの頑固者なお父様から受け継いだものではないでしょうし、となりますともう片方の継承元、つまりはお母様のほうでして……?



「好きを増やしたほうが、楽しくなれますのっ」


「…………ん。分かった。一応、覚えとく」



 ふぅむ。私のお母様ということは、未来ちゃんにとっても母親ということになりますのよね?


 けれどもこの子は私のクローンさんなのですし。


 私との繋がりのほうがずっと色濃いわけですし。


 となりますとお母様はお祖母様的な立ち位置になってしまいまして?


 そうなると私は姉であり母であり……!?


 頭がこんがらがってきましたの。

 あんまり考えたくないポイントですわね。



 独り大きな溜め息を吐いておりますと、ようやく車が動き出し始めてくださいました。


 次第になかなかのスピードになっていきます。


 緑々とした草原をものともせず、道なき道をただひたすらに進んでいっているようです。


 目的地まではどのくらい掛かるのでございましょう。



「幼き頃は道中など気にしたこともありませんでした

からね……ウチの敷地って、こんなにも広大だったんですのね……驚きですの……


「お嬢様は特に人見知りで出不精でしたから。お屋敷から出ていただくのも一苦労でした」


 メイドさんがくすりと微笑みなさいます。


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