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改めて蒼井美麗としてお会いし直すのです

 







――――――

――――


――




 壮絶な意地と意地のぶつかり合いを繰り広げたあの日から、早くも数日が経とうとしております。


 皆様どうもごきげんよう。

 今日もしっぽり生きる蒼井美麗ですの。


 慌ただしかった修行の日々もしばしのお休みを迎えて、そしてまた未来ちゃんとの生命レベルの姉妹喧嘩も終え、最近はもう、自慢だったお腹の隠れシックスパックも元のぷに肌にだいぶ戻りかけてしまっております。


 いやはや、人という生き物は常に目標を胸に抱いて歩み続けておりませんと弛んでしまいますわね。


 この緩みきった精神を脂肪が反映しておりますの。

 別にサボっているわけではありませんけれども。


 慰安要員としての務めを全うするべく、世の中のデスクワークなサラリーマンさん以上には身体を動かしている自覚はございます。


 常に緊張の線を張っていても疲れてしまうだけだとは思いますの。今はしばしの落ち着きタイムってだけなのです。


 何事も適度が一番ということなのでしょうね。


 もちろんのこと夜の運動に勤しむだけの筋力は残っているわけですし、お外で営業なさっている怪人さんからのヘルプ要請を受信したら、魔装娼女として即座に飛んでいけるだけの身軽さは有しているつもりです。


 その合間を縫って真夏のバカンスにでも出かけられたら良い気晴らしにもなったのでしょうが、おあいにく、ヒマを持て余しているわけでもございませんからねぇ。


 近頃は波間にぷかぷかとクラゲが漂い始める時期にもなってしまいましたし……。


 小麦肌の美麗ちゃんを拝めるのはもっとずっと未来のお話ですの。また来年お知り合いの皆さま方をお誘いして行ってみましょうか。


 同僚の永遠ロリ体型な茜も、最近はナース服にばかり袖を通していらっしゃるメイドさんも、エンドレス魔法少女見習いな翠さんも桃香さんも、もちろんのこと妹の未来ちゃんも!


 美少女勢揃いでナンパ待ち祭りと洒落込みましょう。


 引くて数多の殿方よりどりみどり状態ですの。

 むふふふ……今から楽しみですの〜。




 さてさて。それはさておき、です。


 そろそろ本題に移らせていただきましょう。



 対最高最強の魔法少女の戦は終わりましたの。


 しばしの休息の日々を楽しんでおりますが、私だっていつまでも緩んでいられるわけではありません。


 むしろ今日こそ気を引き締め直す必要があるのです。



「すぅぅ……ふぅぅぅ……。ぃよしっ」



 だってだって。

 ようやくやってまいりましたの。


 本日はお父様とお墓参りに行く日なのでございます。


 集合場所はお屋敷だったのですが、とりあえずその手前の蒼井家の敷地の入り口、巨大な障壁門のところにやってきましたの。


 皆さま、覚えていらっしゃいますでしょうか。


 無機質で冷たい印象な白色家屋群を抜けた先、何人たりとも内側を視界に移すことを許さないような、あの城壁と化していた境界門のコトですの。


 門をくぐったその後は、偶然に近くに停めてあったリムジンに乗り込んで、邸宅まで草原の中をひたすらにドライブいたしましたわよね。


 道中でキュウビさんの術を見破って、そのままバトルにも発展したりして、それはもう濃厚すぎる一日を過ごしたかと思います。


 今思い出しても少しドキドキしてしまいますの。

 シンのゾウがバクバク鳴ってしまうのです。


 今日は戦うためにきたわけではないとは、分かっておりますけれども……それでも……ふぅむ……っ。



「あの、お嬢様。今日はお一人で向かわれるのではなかったのですか? 私めの付き添いは不要だと、先日あれだけ豪語なさっていらしたと思うのですが」


「う、ううっ……。わ、私だってたまには不安になるときだってありますのっ。実際、ホントは一人で来るつもりでしたのっ。で、でも……」


 メイドさんが同伴してくださっております。


 実際のところほぼ緊急登板ですの。

 無理矢理引き連れてきたも同然の起用ですの。


 前回は己の意地を突き通すために私自らが指揮を取って意気揚々と乗り込みました。


 悪の秘密結社の一員として己の務めを果たすために奮闘いたしましたもの。

 緊張なんかよりも責任感のほうが圧倒的に優っていたのです。


 けれども今回はその、アレですの。


 お父様とは、改めて蒼井美麗としてお会いし直すのです。


 しかも数年来叶うことのなかった、家族だけでの、形式的でないお墓参りを行うためにはるばる足を運んでいるのでございます……っ。


 恐れることなど何もないはずですが、やっぱり緊張してしまいます。


 おまけにお父様や未来ちゃんとはある程度の和解を済ませた後で、そのうえ双方納得の上でキチンとスケジュール調整も行って、念入りにおめかしもして……っ。


 期待しかないからこそ、逆に不安に苛まれてここ数日は夜も眠れなかったんですのぉ……っ!



「そ、それにほら、私運転免許持ってませんの。メイドさんが居なければ徒歩でお屋敷に向かうしかないですの。あんなだだっぴろいだけのお庭を徒歩で行くのはトホホの所業ですのッ!」


「であればお屋敷に直接転移なさったらよろしかったではありませんか? もしくは変身さえしてしまえば、文字通り飛ぶように走れるのでございましょう?」


「おあいにくポヨはアジトに置いてきましたの。今日は戦うために来たのではないのですッ! 完全に親子水入らずでお話するためですッ!

……あ、もちろんメイドさんは家族同然の間柄ですから、特別に同伴を許可して差し上げているんでしてよッ!」


「は、はぁ……。お気持ちはありがたく頂戴いたします。質問の回答にはなっておりませんが」


 でも、ごもっともだとも思いますの。


 私も屁理屈を捏ねているだけなのですし。



「ふぅむ! といいますかそもそもっ!

メイドさんってば何だか最近妙に冷たくありませんでして!?

アナタ、私専属の付き人役でございましょう!?」


 近頃は全然子供扱いしてくれなくなりましたの。

 世話焼きのセの字も感じられませんの。


 毎食のご飯の用意もしてくださいませんし、お部屋の掃除も身なりの整理も、ぜーんぶおそばでニコニコ眺めていらっしゃるだけで、手も口も出してはくれませんのっ!


 朝だって自分で起きるしかないですのっ!


 三年前から自力で起きておりますけれども!

 すっかり身に付いてしまいましたけれども!


 成人を迎えた今でも優しく起こしてもらいたい欲は一切無くなっておりませんですのにッ!



 頬を膨らませて抗議の意を示しておりますと、メイドさんがわざとらしく咳払いなさいました。


 まるで聖母のような微笑みを浮かべなさいましたの。


 それも束の間のことでございました。

 一転してかなりキツめなお顔になりましたの。


 まるで敏腕な家庭教師さんのようなオーラを放っていらっしゃいます。



「残念ながら今の私めは、旦那様からあまりお嬢様を甘やかしすぎるなと釘を刺されてしまっているのです。

更に明かせば、つい先日の定期報告の返信では、独り立ちを視野に入れてあまり手を出すな、とも。ゆえに日々心を鬼にして見守らせていただくに留めているのでございます」


「なんとっ!? お父様ったらいつの間にぃ……!」


 あの人、メイドさんへの指示を再開なさっていらしたんですのね。この辺にも絶縁状態の回復が見受けられてホッといたしましたの。


 けれどもお話は別ですのっ!


 私の知らないところで、保護者的立ち位置で何を工作なさっていらっしゃいましてっ!?


 まさか私の花嫁修行を後押しなさっているおつもりですの!? わりといい迷惑ですの!


 まだまだ甘いお汁を存分に吸っておきたかったですのに!


 都合の良いときだけお子ちゃまムーブをしていたかったですのにぃ!


 お父様ったら、私からのお手紙を送ったときは、お返事をいっつもお焦らしなさっておりますのにぃ……!


 もしかしたら私も文明の利器を扱ったほうがよろしいのでしょうか。


 でも、苦手なんですのよね、機械弄り。



「お嬢様。そもそものお話、前回と同じように今回も移動用のリムジンが停めてあるとは限らないと思いますが。

もしお車の用意が無ければ、それこそ私めとお嬢様の二人で、あの広い草原をテクテク歩いていく未来が待っているだけなのではございませんか?

その辺りのお話はどう進めていらしたのですか?」


 私の気苦労を知ってか知らずか、とにかくグイグイ来なさいますよ。



「うっ……うぅ……の、ノーコメントを貫かせていただきますの……ここぞとばかりにメイドさんが虐めてきますの……およ、およよよよよ……」


 ノーコメントとはつまりノープランの意味ですの。


 多分、大丈夫ですの。

 私、他所の人より数倍は運は良いほうなのですから。


 おそらく、きっと、願わくば。

 お父様方が合流用のリムジンを用意してくださっていることを、祈るしかないですの。


 むしろ賭けを外したらほぼ詰みですわね。

 とほほのほを体現するしかないのです。


 門に備え付けられた呼び鈴を鳴らすのが……ッ!

 今はとにかく億劫でたまりませんの……ッ!


 

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