まったく誰に似たのでしょうね
私の複製感からは脱却しつつも、蒼井家の人間ではあることを示せるような、そんな絶妙かつ秀逸かつ素敵なお名前……ふぅむ。
いやはや意外に難しいものですわね。
私は自分の名前をとっても気に入っておりますの。
名は体を表すが如く、この名のおかげでこうして美しくて麗しい乙女に成長できたといっても過言ではありません。
名前とは願いの象徴とも言い変えられると思っておりますの。
名付けた人の、つまりは親の願いが込められているのでございます。
この子にはどんなふうに育ってほしいとか。
どんな大人になってもらいたいとか。
私の美麗という二文字も、名付けたお父様と母様が何度も葛藤やら問答やらを繰り返して、ようやく辿り着けた証なのでございましょう。
私もまたこの子に名前を授ける以上はそれ相応に悩み抜いて差し上げなけれなければいけません。
ふぅむぅ……なおのこと責任重大ですわよね。
「貴女はまだ生まれたばかりですの。沢山のことを見て聴いて知って、沢山楽しんでいくのが人生ですの。そう言う私もまだ、四半世紀も生きてはおりませんけれどもっ」
この子には魔法少女としての人生だけでなく、蒼井家のイチご令嬢としても充実した日々を過ごしていただきたいものですわね。
それこそ世を捨てた私の代わりにはなってしまいますが、我が家の余りあるお金に埋もれて贅沢の極みを尽くしに尽くして、蒼井家に生まれたメリットをとことん味わってくださいまし。
でも……いつかはきっと飽きちゃうと思いますの。
やりたいことを探すために悩んでしまう日も訪れてしまうかもしれません。
数多の思考を繰り返すうちに段々と大人になって。
いつの間にか色々なことに分別がつくようにもなって。
そうしてゆくゆくは自分の行いに責任を感じるようになって。
そうやって人は少しずつ大人に近付いていくのです。
むしろそこからが本番なのでございます。
私も本当はまだオトナではありませんから、やっぱり大それたコトは言えませんけれどもっ。
大きくなったらお父様のお手伝いでもして差し上げてくださいまし。
きっとお喜びになると思いますの。
別に私が捨ててしまった天命を今更この子に押し付けたいわけではごさいません。
むしろその逆、私が歩むはずだった栄光のスペシャル御令嬢ロードをお譲りして差し上げたいのでございます。
つまりは貴女が蒼井家の未来になるってコトなのです。
どうか貴女の笑顔で我が家を明るく照らしてくださいまし。
そしてまた、魔法少女以外の分野でも光をお放ちくださいまし。
……あ、そうですの。
お一つ、良さげなのを思い付いてしまいましたの。
「貴女のお名前……〝蒼井未来〟はいかがでしょう?」
「みら、い……?」
ええ。フューチャー的な意味を持つあの未来ですの。
「貴女には輝かしい明日が待っているのです。スペキュラーブルーとしても、そして蒼井家の娘としても。だから私に負かされたくらいでなんですのっ! 貴女は誰よりもお強い子ですの。胸を張りなさいまし、私の妹なのですからっ!」
「い、いもっ!?」
ほら、齢二十にも満たない私の〝娘〟というのも変なお話ですし。
クローンさんゆえに双子設定でも良さそうなものですけれども。ちょっと見た目の歳が離れ過ぎておりますものね。
ゆえに妹くらいがちょうどよいと思うのです。
実際にだいたい中学生くらいの背格好ですし。
精神的には小学生くらいかもしれませんけれども。
全部時間が解決してくださると思います。
いきなり始まってしまう姉妹関係だとしても。
私は、蒼井家の未来を貴女に託しますの。
肩にトンと手を置いて、そのまま頬に触れて。
ゆっくりとその頭を撫でて差し上げます。
ふふっ。まったく誰に似たのでしょうね。
絹のように輝く蒼い御髪をお持ちですの。
ちょっぴり癖っ毛なところもソックリですのっ。
ゆるやかにウェーブの掛かった艶髪が、頭のてっぺん付近でちょこんと跳ねていらっしゃいます。
さっきの戦闘のせいで余計に乱れておりますわね。
王冠の髪留めでキチンと括っておきなさいまし。
放っておくとアホ毛が二束にも三束にも増えてしまいましてよ?
「……こっほん。貴女の光は誰かを傷付けるために使うにはもったいないシロモノです。そのチカラこそ大切な何かを守るときのために大事にとっておきなさいまし。
別に己のプライドを守るために使っても構いませんけれども……それでは人としての程度が知れてしまいましてよ?
人の上に立つ令嬢としてはカッコ悪さの極みですの」
「そういうオリジナルが一番カッコ悪いじゃん……そっちが一番私利私欲のために行動してるんだからさ……」
「うっ。実に耳が痛いご意見ですの。正直反論の余地もございませんの。ですが気にいたしません。もう完全に吹っ切れておりますゆえにっ」
自覚がないわけではないのでございます。
それでも、たとえ世の理に背こうとも私は愛のために生きると誓いましたの。
総統さんをはじめ、敬愛するアジトの皆さま方が私を愛してくださるなら、私はそれに真摯にお応えするだけでしてよ。
コレは誰かに勝手に当て嵌められた枷ではなく。
すでに敷かれていたレールを辿るわけでもなく。
ただ私にしかできない役割を、自らの意志で果たそうと日々努力しているだけなのです。
亀の甲より亀の頭……じゃないですわね。
亀の甲より年の功ですの。ぶーぶー文句を垂れていないで年長者の言うことを素直に聞いておきなさいまし。
まして偉大なる姉のお言葉なんでしてよ?
「というわけでっ。今日から貴女は未来ちゃんを名乗りなさいましっ。お姉ちゃん命令ですのっ。これにて閑話はお終いですのっ」
「……誰が、脱線させたんだか」
「あーあーなーんも聞こえませんのー。この耳は都合の良いことだけしか聞きたくない都合の良い耳ですのー」
ご心配なさらずともちゃんと聞こえてますの。
わざとらしくクスリと微笑んで差し上げます。
名前授与式も滞りなく終了したことですし。
そろそろ本題に戻りましょうか。