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みんなちがってみんな

 

 彼女の前でしゃがみ込んで、その小さなお姿をより近くで拝見いたします。


 私そっくりなお顔が悔し涙に濡れておりましたの。


 魔法少女特有のふわふわな衣装がびちょびちょになるほどに、ズビズビと大人気なく泣いていらっしゃったのでございます。



「あ、あの、複製、さん……?」


 今も唇の端っこを噛んで必死にえづきとしゃくり(・・・・)に耐えようとしていらっしゃるようですけれども……。


 一向に止まる気配がありませんの。

 瞼の堤防が決壊してしまったみたいですの。


 ふぅむぅ。やっぱり近くに寄ってみても、年相応に幼げな少女がただ悔しくて泣いているだけにしか見えませんわね。


 一見ではとてもではありませんが、最高最強の魔法少女のソレには思えません。


 触れたモノ全てを消し去ってしまうほどの光を扱う――そんな絶対強者さんとは思えないお姿なんですの。


 魔法少女の、悔し泣きをするお姿なんて。


 それこそかつての自分を見ているかのようですの。

 鏡面反射な彼女につい過去の私の姿を重ねてしまったのでございます……っ。


 もはや居ても立っても居られませんでしたの。


 警戒は怠らずに、しかしながらできる限り優しく彼女に話しかけて差し上げます。



「自分が絶対的に信頼を置いていたモノをいとも簡単に崩されてしまう恐怖……アレって本当にメンタルにキてしまうんですのよね。私にも経験がありますの」


 別に一言一句キチンと聞いてくださらなくてもいいのです。

 勝手に独り言を続けさせてくださいまし。



「私はかつて、課せられた使命に追い詰められて……身に覚えのない罰を与えられてしまって。そうして挙げ句の果てには大切なモノをこの手で守れなくて、結局はこの思いも全部無造作に踏み躙られて。

やがては同じ光を信じることも出来なくなってしまって、疲れて全てを棄ててしまった過去がありますの」



 私があの日ポヨとサヨナラしてから、今ではもう四年の月日が流れました。


 小娘でしかなかった私も、今ではもうすっかりボンッのキュッのボンに……!


 さすがに自分のお尻を自分で拭けるくらいには成長できましたでしょうか。


 いつまでも総統さんやアジトの皆さまのおんぶに抱っこでは面目が立ちませんものね。


 その点で言えば、この神聖法女ミレイユブルーのチカラは、ある種の必然性をもって生み出されたものなのかもしれません。


 ある意味では己に課せられた責任に真正面から向き合えた結果だとは思いますの。


 だからこそ、自らに泥の鎧を纏って守るイービルブルーのタイプではなく。


 全てを受け入れて、それでもなお全てを抱擁せんとする、全てに感謝と賞賛を振り撒くミレイユブルーのタイプが私の最終系として開花されたのではないかと思うのです。



「その点、アナタはトンデモなく偉いと思いましてよ。どこかの誰かに誓ったわけでもなく、生まれたときに既に課せられていた使命を……少しの弱音も吐かずに、ただ淡々と果たそうとなさっているのです。不言実行の象徴として自慢できちゃいますの」


「…………っ」


「いや、ホントに自慢はいたしませんけれども」


 最高最強の魔法少女として生きるためにこの世に生を受けさせられたなど、もし自分の身に課せられていたと知ったときには、即座にテンパって逃げ出してしまえる自信がありますの。


 素直に受け入れられている複製さんは、とにかく素直でとにかく純真な方なんですのねぇ、と。



 生み出されてから今日に至るまで、一度も負けを経験していないこの子だからこそ、魔法少女として純粋な悔し涙を流せるのかもしれません。


 ちょっとだけ、羨ましくなってしまいますの、


 その涙のほうが消滅の光なんかよらもずっと輝いて見えますの。



「……さてさて。というワケでここまで地味ぃに長ったらしい独り言を呟かせていただきましたけれども。

つかぬこと、お一つお伺いさせてくださいまし。こうやって誰かに誇りを打ち砕かれてしまったのは、もしかして今日が完全にお初のご経験だったり?」


「…………だったら、何、だよ……悪い、かよぉ……。私が、最高、最強の……魔法少女っ……なんだからぁ……」


「ふぅむ。つまりは無理矢理にハジメテを奪われて悲しくなってしまったということですか。ああ、私ったらなんて罪なオンナなのでございましょう」


 やれやれとわざとらしく顔を隠してみましたが、もちろんのことコレはただの冗談です。


 それはそれとして、一安心できたのも事実なんですの。


 複製さんにも揺れるお心があるんですのね。

 年相応のか弱さが垣間見れて、老婆心的な心をくすぐられてしまいます。


 親近感がついついドアップしてしまうのです。


 彼女の横にすっくと腰を下ろして差し上げます。


 別に懐に潜り込んでキツゥいボディーブローを放ちたいわけではありません。


 手に持っていたブーケステッキをその辺にポイっとして、あくまで危害を加えるために近付いたのではないことを暗に示しておきます。



「ねぇ。聞かせてくださいまし。複製さんはどうしてそこまで最高最強にこだわるんでして? 別に一番じゃなくてもよろしいではありませんこと? 今の世の中はナンバーワンよりオンリーワンですの。個を確立してこそのヒトの人生ですの」


 ほら、有名な詩人も唄っていらっしゃるではございませんか。


 みんなちがってみんないい、と。


 私が蒼井美麗として自由奔放に生きようと日々切磋琢磨しているように、アナタもアナタとして、複製さんとして好きに生きたらいいじゃありませんの。


 しかもそれだけ元からお強いのであれば、過去の私とはちがって、プライベートを蔑ろにする必要もなさそうですし。



 ん? あ、いや。

 ちょっと待ってくださいまし。


 複製さんにとっての自由ってそもそも何なんですの?


 あくまで最近生まれたてのこの子は、果たして自由を経験したことがお有りなんでして……?

 

 

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