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複製、さん……?

  

 彼女の手から極太の純白光線が放たれてしまいますッ!

 眩い光のせいで目の前が一瞬だけ真っ白になりましたの。


 ですがこの際、明順応とかどうでもよいのです!

 今私がやるべきことは大切な誰かを守り抜くことだけ!


 私の背後にいる茜を消させはいたしませんのッ!


 それに、お、お父様だって……まだ話さなきゃならないことがたくさんあるんですからッ!



「オリジナルなんか死んじゃえーッ!」


「だからそんな簡単に死んじゃえとか言っちゃダメですのーッ!」


 今回ばかりは攻撃を避けるわけにはいきませんっ!


 私の身動きの取れないこの状況を見越してぶっ放してきたのであれば複製さんはかなりの策士だと思いますけれども……!


 彼女の異様なほどの取り乱し具合から察するに、本当にただの偶然だと思いますの。


 ただ荒ぶってしまった感情に身を任せて、限度と程度を知らない攻撃を打ち放ってしまっただけ……。


 きっと、善悪というものを意識できていないだけですの。

 

 その幼げな見た目に合わせて、心のほうもまだお子ちゃまさんなのだと思います。


 そうですの。事あるごとに大人なフリをしていたい私なんかよりももっと、ずっと、純粋なお子ちゃまさんのままで……。


 ……ふぅむ。もしかしたら、ですけれども。


 この子もまた、本来であればどこかの誰かが守って差し上げなければならない存在だったのかもしれませんわね。


 そうであるならば、おっけですの。分かりましたの。


 彼女が取り返しのつかない過ちを犯してしまう前に、まずはこの私が身を以て止めて差し上げねばなりませんわねッ!



「ええいっ! 今の私にやれないコトなどありませんの!」


 ちなみにこの結論に至るまでッ!

 たったのコンマ1秒も掛かってないですのッ!

 頭フル回転なミレイユブルーだから出来るのですッ!


 ふっふんっご安心なさいましッ! 

 そして同じくお見惚れなさいましッ!


 危機的状況とは無縁な思考を駆け巡らせつつも、手のほうはキチンと絶え間なく動かしておりましてよ!


 金色に輝く花束杖をバトンのように高速回転させて、周囲に浮かぶ光の羽を次々に取り込んでいきますのッ!


 即座に一箇所に集めて、金色の障壁を生成いたしますッ!



「この手で示して差し上げましょう。絶対優勢なチカラなど、この世に一つも存在しないというコトをッ!!!」


 今まさに迫り来る純白光線に対して、金色障壁を真っ正面からブチ当てて差し上げますッ!


 ちなみに決して平たい壁ではございません。


 それはまるで、私自慢の柔らかな双丘のように。


 あくまで優しげに、そして慈愛に満ち溢れさせつつ。

 ふにゅっと包み込むようにして光線を抑え込みますのっ!



 ……互いのチカラが大きくぶつかり合いまして。


 辺りにパキュィィイインという感高い音が鳴り響きました。




――ですが、起こったのはそれだけだったのでございます。


 別に何も消え失せてなどはおりません。

 もちろんのこと消滅のシの字も感じられませんの。


 せいぜい一箇所に集められていた光の羽が解除されて、少しだけ周囲にバラけ弾けたくらいでしょうか。


 また手元に集め直せば何度だって障壁を形成できましょう。


 つまりは消滅の光を、ほぼ何の犠牲も払うことなく打ち消すことに成功したってコトなのでございますッ!!!



「…………ふっ。コレで攻略完了、ですわねっ」


 消滅の光も防げると分かってしまえば怖くはありませんの。

 震え怯え縮こまるだけの日々ともようやくオサラバできましょう。


 さぁ、改めて己を誇りなさいまし、蒼井美麗。


 誰一人そして何一つ、傷を負うことも傷を負わせることもなく、完全完璧に彼女の攻撃を無かったことにできたのです。


 誉めるべきときに褒めてこそ、人は更に成長いたしましてよ。



 にしてもミレイユブルーの金の羽はスゴいですわね。

 さすがは〝守り〟に特化した神聖法女のチカラですの。


 迫り来るソレが正義の光であれ邪悪な怨念であれ、こちらに害を成すモノであれば、これからも全部完璧に防いで差し上げられましょう。


 つまりは鉄壁の乙女がここに誕生したってことですの。

 ……アイアンなメイデンではないのであしからず。


 こう見えて私、人よりずっと経験豊富なレディですからね。



 それにしても……防御が間に合ってよかったですの。

 マジめのガチめに間一髪でしたの。


 先ほどから涼しい顔を装っておりますけれどもっ。

 防いだ本人としましては、本気で冷や汗モノだったのです。


 いやぁー、上手くいって本当によかったですのー。

 もし失敗してたらまるごと亡き者にされてましたのー。


 心の内側でコッソリと安堵しておきます。

 地味にカッコ悪いですのであくまで表には出しません。



「やっぱり私にできないことなんてありませんでしたのー。

えっへんっですのー。さすがは私でしてよー」


 改めて胸を張ってフンスと鼻息を荒くして差し上げます。


 ここまで来るのに本当に長い道のりでしたけれども、頑張ってきた甲斐があるってモノですわね。


 魔装娼女の特訓自体が神聖法女のチカラに繋がっているわけではございませんが、この一ヶ月間本気で頑張って、確かな充実感を抱けているからこそ、得られた新たなチカラにも真正面から納得ができているのでございます。


 私、再認識いたしましたの。


 かつての魔法少女プリズムブルーも。

 先ほどの魔装娼女イービルブルーも。

 そして、神聖法女ミレイユブルーも。


 全部が全部、私を形成する大切な一部なのです。

 一つとして欠けていいチカラはございません。


 改めてそれを再認識できましたの。

 今日まで諦めなくてホントによかったですのーっ。


 心の奥のほうでホッと一息吐いておりますと、私のすぐ前のほうからトサリという衣擦れ音が聞こえてまいりました。


 見てみれば、つい先ほどの私と同じように、力なく膝から崩れ落ちる複製さんの姿があったのでございます。



「……そん、な……。最高最強のチカラが……オリジナルなんかに……防がれちゃった、なんて……」


 何やら、やけに深めな絶望感に苛まれておりましたの。


 たかが一撃を塞がれてしまっただけですのに。


 もちろんそれが実は、絶対の信頼を置いていた大事な攻撃だったのかもしれませんけれども。



 今もブツブツと独り言をこぼしていらっしゃいます。


 挙げ句の果てには、心底悔しそうに拳を地面に打ち付け始めなさったくらいなのです。痛々しい音が響いておりますの。


 何事かと聞き耳を立ててしまいます。



「どうしてだよ……! 私が、最高、なのに……。私が、最強で……有り続けなきゃ……いけない、のに……っ。オリジナルなんて、簡単に乗り越えなきゃならない、のに……っ!」


 ……段々と強くなる語勢とは裏腹に。

 彼女の瞳からは輝きが失われていきましたの。


 まるでどこか遠くを見つめるかのような目になられて、その後すぐに何かに怯えているかのように震え始めてしまわれたのでございます。


 その目元には確かな涙が溜まっておりました。


 つーっと頬を伝って、ポタリと地面に落ちましたの。



「……私の光は……絶対に一番じゃなきゃダメなのに……。魔法少女スペキュラーブルーは……誰にも、負けちゃ……いけないのに……。こんなところで……立ち止まってちゃ……いけないのに……」


「複製、さん……?」


 己を鼓舞するような言葉とは逆に、ついには腕を力なくぶらんと下ろしてしまわれましたの。


 どうやら上手く力を込められていないようなのです。


 まるで心の拠り所を失って、これからはどこを向いて歩いていけばよいのか、全く分からなくなってしまったときのような。


 心の芯をまるごと抜かれてしまったかのような。



 思わず私も杖を下ろして、つい歩み寄ってしまいます……!


 もしかしたらこれも彼女の作戦で、一瞬だけ弱いトコロを見せて私を油断させて、不意を突こうとしているのかもしれませんけれども……っ。


 もはや時が止まって見えるほどの神聖法女に、小手先の小細工なんかは効かないといっても過言ではないでしょう。



 それにちょっとした確信なんかもありますの。


 この小さくて弱々しいお姿には、どの角度から見ても嘘偽りの色が見えてこないのでございます。


 一応の用心はしておきつつも、もう一度正面から話しかけて差し上げます。


 今度はあくまで言葉尻を柔らかく、そして喧嘩腰にならないよう細心の注意を払いながら、ですのっ……!


 

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