私は……私たちはただ
舞い踊る花びらに合わせて、金色の光で出来た羽のような物質も、私の周囲に浮かんでいるのが分かりました。
どうやら黒泥とちがって私の意図で動かすことはできないようですが、どこかに飛んで消え散っていくような気配もありません。
こちらはもしかしたら……姿形を変えたAegisの盾なのではないでしょうか。
イコール私を守ってくださる光の盾ってことですの。
私には無理でもポヨなら扱えるかもしれませんの。
「とりあえず私は私の好きなように動かせていただきますゆえにっ。サポートのほうはよろしくお願いいたしますわねッ!」
『了解したポヨッ! 本当なら出来ることを一つずつ確かめていったほうがよさそうなんポヨが――どうやら、あちらさんにその気はなさそうポヨからね。早速来るポヨよッ!』
「分かっておりますのッ!」
ポヨの警戒指示を聞き届けるのとほぼ同時、空気のピリつきをお肌でダイレクトに感じ取れてしまいましたの。
察知した方向を見てみれば、もちろんのことスペキュラーブルーさんが佇んでいらっしゃいます。
先ほどよりもずっと殺意と嫉妬に満ちた目で、私を睨んでいらしたのです。
キッと見つめられるだけならまだよろしいのですが、問題はそのお手のほうなんですの。
目に突き刺さるような光を集中させておりました。
どうやら今まさに消滅の光をチャージし終えたらしく、重厚な大砲でも構えるかのように、私のほうにその平手を向けなさいまして……!?
「私は最高最強の魔法少女……そのためだけに造られて……そのためだけに生きる存在……!
私以上の存在なんて、許さない……そんなヤツはこの世に一人も必要ない……!
だから、死んじゃえ、死んじゃえーッ!」
「んっもう!? まったく乱暴な方ですのっ! やーっと変身が終わった途端にソレですの!?」
どうやら説得の余地はなさそうです。
このままではゆっくり息を整えている暇もありません。
まったく仕方ありませんわねっ。
まだミレイユブルーのチカラがどれほどなのか分かりませんし、真正面から消滅の光をガードできるかどうかの保証もございませんしっ。
多少の博打にはなってしまいますが、ここは一つスタタと大地を蹴って、一時的に空中に退避させていただきましょ――
「ほぅわっ!? 予想外のジャンプ力っ!?」
何だかやたらと高く跳び上がることができちゃいましたの。ハイヒールを履いているとは思えませんのっ。
それこそほんのちょっと力を込めただけで、バレーボールのネットを軽く跳び越せちゃうほどだったのです。
おかげで放たれた消滅の光ビームを楽々にご安全にかわすことができました。
しかも、ですの。
驚くべきはそれだけではなかったのです。
まるで背中に羽でも生えているかのように、滞空時間が普段の何倍にも伸びておりますの。
ただふわふわと浮かんでいるだけでなく、私の周りに浮いていた光の羽が、少しずつハイヒールに集まっていって……!
「こ、これは、空中お散歩機能ですのっ!?」
空中で完全に静止することができてしまいました。
前後左右に上までプラスして、今ならどこでも歩けてしまいそうですの。
これなら戦術の幅が大いに広がります。
色々と試してみたいことが増えてしまいますわね。
……一人ニヤニヤとほくそ笑んでいたところ。
「次は外さないッ! 今すぐ撃ち落としてやるッ! 空中に逃げ場はないんだからぁッ!」
「いやぁー、私もついさっきまではそう思っていたんですけれどもねぇ」
今度は余裕を持って再跳躍して差し上げます。
私に向けて放たれた消滅の光線をしっかりと目で追って、目の前にできた光の足場を辿って、完全完璧にかわして差し上げられましたの。
彼女の攻撃が落ち着いたのを見計らって、螺旋階段を降りるかのように、優雅にそして大胆に、地上に戻ります。
「よいしょっと。多分私、最高最強のアナタよりも圧倒的に強くなれちゃいましたの。正直負ける気がいたしませんの。
それでもまだ、お続けなさるおつもりなんでして?」
「ば、馬鹿にしないでッ! ポッと出のオリジナルなんかより、魔法少女として生きるためだけに造られた私のほうがッ! 何百倍も何千倍も適正があるのッ! 今すぐそれを思い知らせてやるッ!」
「……まぁ、そうなりますわよね。アナタにもアナタの意地ってモノがありますものね。
……そのお気持ち、分からないでもないですの」
だって、かつての私もそうでしたから。
たとえ己が負けると分かっていても、最後までやり遂げなきゃいけないときがありましたの。
その先に続いていたのは――果てしない虚無と絶望の時間だけでしたけれども。
「う、うるさいうるさい黙れぇぇえッ!」
ふぅむぅ……。
と言いますか、彼女は何に焦っていらっしゃるのでしょう。
いや、そりゃあ自分のほうが圧倒的優位に立っていたと思っていた矢先、いきなり戦況をひっくり返されてしまっては心身をお察しいたしますの。
ましてほとんど格下扱いしていた存在から、慈悲と哀れみの目を向けられてしまっては腹を立ててしまうのも当然かと思います。
でも……でも……。
「……私は別に、アナタをブッ倒したいわけではありませんの。今この場で引き下がってくださるのなら、そして弊社には必要以上に手を出さないコトをお約束いただけるのなら。
今すぐにでも帰らせていただくつもりですの」
多分私、このまま戦ったら間違いなく余裕を持って勝ってしまえると思います。
これは過信でも虚勢でも何でもありません。
実際、今ではもう文字通りに彼女の攻撃が止まって見えてしまっているのです。
さっきまでは近付くことさえ容易ではなかった彼女が、今はもう目と鼻の先に感じられますの。
本当にやろうと思えば、そのもちもちスベスベそうな頬っぺたに固く握りしめた拳を簡単にぶつけられてしまえそうなのです。
それほどまでに、神聖法女ミレイユブルーのチカラは圧倒的なモノなんですの。
複製さんにだって伝わっておりますでしょう?
だからそんなにも焦っていらっしゃるのでしょう?
そうでなければ、どうして……っ!
「……ねぇ、私の複製さん。このまま戦い続けることに意味なんてありますの?」
あれだけ怯えていたはずの消滅の光でさえも……今はもう、そこまで怖くはないのです。
もちろんのこと、私たちの結社にとっては脅威であることに変わりはありません。
でも、ホントに何となくですけれども。
この神聖法女のチカラをもってすれば。
完全完璧に防げてしまいそうな予感はしております。
見惚れるほどに綺麗に防いで差し上げたら……さすがに彼女の心も折れてしまいますでしょうか。
その自信に満ち溢れていたお顔に、永遠の影を差すことに繋がってしまいますでしょうか。
敵方の少女さんとはいえ、誰かが悲しむ顔はあんまり見たくはありませんの。
そのチカラの使い方を、そして使いどきを、もっと慎重に考えていただけるのであれば……私としてはそれ以上の対応を求めるつもりはないのです。
「あの、私は別に本当にアナタを痛め付けて地面にすっ転がして差し上げたいわけではございませんの。
私は……私たちはただ、安全が欲しいだけなのです。自由が欲しいだけなのです!」
「黙れ黙れ黙れェッ! お前がいたから、私には最初から自由なんてなかったんだ! お前にも同じ苦しみを……ッ!」
ふぅ、むぅッ!? な、なんですのその光は!?
今日一番の、辺りを白く染めるほどの眩い光……ッ!?
で、ですがちょっと待ってくださいましッ!
今、私の後ろには茜とお父様がいらっしゃいますのッ!
攻撃をかわすコト自体は簡単ですが、このまま撃たれてしまっては……ッ!?
ああ、もう!
深く考えていられる暇はありませんッ!
とにかく手に持つブーケステッキを固く握りしめて、ありったけの力を込めさせていただきますッ!