愛と美と麗しの女神【挿し絵有り】
ふっと勝ち気な笑みを見せ付けて差し上げたのも束の間に、胸の内から溢れんばかりのパワーが沸き起こってくるのが直に分かりましたの。
コレはきっと適合率が90%を超えて、ポヨから身体能力向上の加護を受け取れるようになったからでございましょう……!
ぐっぱぐっぱと手を開いて感触を確かめます。
『美麗、聞こえるポヨか。首尾は順調ポヨ。こうしてまた念話も出来るようになったポヨ』
おまけに念話までもが聞こえてまいりましたの。
おっけですの。私のほうもすこぶる良好ですの。
ポヨの心の声、ばっちり届いておりましてよッ!
本当は声を大にして喜びを表現して差し上げたかったのですが、今からはあくまで秘密裏に過ごしておくのです。
ほら、ふと気を抜いた瞬間に作戦をポロリしてしまうかもしれませんし。下手な動きを見せてはなりません。
それで、今は具体的にはどんなご状況なんですの?
体感した限りでは過去最長レベルの変身タイムな気がするんですけれども。おまけに感触も少し不思議な感じです。
時折、衣装の裾部分が私の太ももの辺りをサワサワとくすぐっていきますの。プリズムブルーの頃よりもずっとフリル生地が多い気がするのです。
視界のほぼ全てを真っ白な光で覆われてしまっているせいで、当事者の私自身があんまり理解できておりませんが、もしかしてこの変身は……ノーマルな変身ではありませんの……ッ!?
『えっと……現在、適合率98.7%ってところポヨね。伸び方もだいぶ穏やかになってきたのポヨ。けれどももう一踏ん張りの辛抱だポヨ』
ふぅむ。了解ですの。であれば余計なことを考えていないで、さっさと己の願いに忠実になりましょうか。
今日一番のレベルでグッと集中しておくのです。
ここで止めてしまったら何も変わりませんもの。
かつての私たちであれば、この高適合率について手放しに喜んでいたところでございましょう。
しかしながら、今回ばかりは現状に満足してしまってはいけませんの。
なにしろ相手は最高最強の魔法少女さんなんですからね。
適合率100%でようやくトントンといった具合でしょうか。
むしろそれ以上の数値を叩き出せなければ、私たちに待っているのはボロ負けするだけの悲劇な未来なのでございます。
今から私は、前人未到ならぬ前美麗未到の神域に、片足どころか全身まるごとを突っ込まなければなりませんの。
覚悟の度合いがケタ違いなのでございますッ!
『……よし。たった今99.9%に到達したポヨ。さぁ、最後の仕上げといこうポヨ。ここから先は意地次第ポヨ。お前の誓いがお前自身の糧となるのポヨ。
美麗の真なる願いを、ココに宣言してみせろポヨッ!』
「私の、真なる願い、ですのね……っ!」
ふふっ。その仰り様から察するに、単に胸に手を当てて祈るだけではもの足りないと感じられたのでございましょう。
しゃーないですの。分かりましたの。
100%を超えるためなら何でもいたしますの。
今ここに発表させていただきます。
全ての枷から解き放たれた私の。
プレッシャーも責務も全て受け入れた私の。
数多の艱難辛苦を乗り越えてきた私のっ!
地の底に身を堕とした私の、たった一つの願いとはっ!
カッと目を見開いて、真っ白な世界に宣言して差し上げます。
「ほぉらポヨも複製さんもよろしくてッ!?
お耳をかっぽじってよーくお聞きなさいまし。
私の願いは、私の愛する人々を守り抜くことですのッ!
そしてまた、私を愛してくれる方々の思いに応えたいだけですのッ!
見知らぬ誰かに自己中心的と笑われても構いませんッ!
私はただ、私の好きな人と世界を、完全完璧に守り抜いて差し上げたいだけなんですのーッ!!」
私が求めるのは誰も傷付かない絶対的なチカラです。
それこそ消滅の光のような、あんな危険でしかないチカラなどは必要としておりません。
それにほら、生きとし生ける全ての者を平等に愛するとか、それこそ自己犠牲を重ねて常世のために身を粉にして奮闘するとか。
そういうのも別にどーでもいいんですの。
私はただ、私の身の周りの世界を守れたらそれで充分なのでございます。
何も知らない人の目から見たら、なんと最低最悪なエゴイズムだと蔑まれることでしょう。
けれども馬の耳に念仏、美麗の耳にお説教。
そんなこと私の知ったこっちゃないですの。
私はもう正義の魔法少女ではありません。
ただの悪の秘密結社の慰安要員なのです。
余りあるスーパースペシャルなポテンシャルを以て、現役の魔法少女さんを軽ぅく凌駕して差し上げられるだけの可能性を有した、欲深くて罪深き幸せ乙女ってだけなのでございますッ!
『フッ。なんだか実に美麗らしい願いポヨね。これはもう、相棒にする相手を間違えてしまったポヨが悪かったポヨ。完全にお手上げポヨよ』
ふっふんっ。褒めても何も出ませんのっ!
出せるのは満面の笑みかお汁くらいですのっ!
といいますかそう悪態をつくアナタこそ、どこか満足げな口振りをしていらっしゃいませんでして?
ポヨとはもう長い付き合いなんですもの。
それこそ私に本当の意味での悪意が無いことも、とっくの昔にご存知だと思いますの。
誰よりもワガママな私が、ただ私利私欲のためだけに〝誰かを守るためのチカラ〟を渇望させていただきます。
もう逃げも隠れもいたしませんの。
正真正銘、コレがラストバトルになるのです。
私の悪意と複製さんの正義、どちらが優っているのか改めて勝負いたしましょう。
――さぁ、そのときがやってまいりましてよ。
溢れ出てくるチカラがついに最高点にまで到達いたしました。
この上ないほどの元気と勇気が湧いてきております。
なるほど、これが適合率100%のその先なんですのね……っ!
本当に何でも出来そうな気がいたしますの。
むしろ不可能を可能に変えてしまうような、そんな素敵な魔法を使えそうな予感さえするのでございます。
少しずつ、瞼の向こう側の光が薄れてまいりました。
ゆっくりと目を開いて、自分の格好をこの瞳に映します。
ほぅわっ、なんですの……!?
この青と金のゴージャスな衣装は……ッ!
着装 - make up - というよりはむしろ!?
盛装 - dress up - と呼ぶべきシロモノではございませんでして……!?
気が付けば、私はこれまで着てきた衣服で一番ふわふわでモコモコでサラッサラなドレスを身に纏っておりましたの。
魔装娼女のときのような、黒と紫を基調とした鋭さを際立たせたモノではございません。
むしろその逆、衣装の随所に女性的な華々しさや麗しさが散りばめられているのですっ!
まるで最高級のウェディングドレスに身に包んだ、童話の中のお姫様のようですのっ!
とにかくゴージャスかつセイントな雰囲気に当てられて、否応無しにテンションが爆上がりしてしまうのでございます……ッ!
「あらあら、これはまたなんとオシャレな……」
どうやら頭の上にはいつもの王冠の代わりか、大小様々な宝石を散りばめられたティアラがちょこんと乗っかっているみたいですのッ!
っていうか今更に気が付きましたけれどもッ!
この手に持っているステッキも、テッペンにフラワーブーケがくっ付いているではありませんか。
やっぱり……間違いありませんの……ッ!
この衣装は、魔法少女と呼ぶよりは、花嫁女神と呼ぶべき最終衣装に違いありませんのっ!
ふと、脳裏にとある名前が浮かんでまいります。
魔法少女プリズムブルーを名乗ったあのときのように、今回もまた、自然と変身名が分かってしまいましたの。
それは〝賞賛〟を意味する単語でございました。
まさに私、蒼井美麗のために存在しているかのような……何よりも身近に感じられて、それでいて最高級にエレガントな響きで、一瞬で気に入ってしまったのです。
ゆっくりと、噛み締めるようにしてその名を呟きます。
そうですの。今の私の名前は。
「神聖法女ミレイユブルー。
愛と美と麗しの女神がこの地に降臨いたしましてよ」
唖然とする複製さんの目を見つめながら、自信と余裕に満ち満ちた顔をまっすぐに向けて差し上げます。
そうしてまたにっこりと微笑みながら、意気揚々と続けさせていただきますの。
「海より深い慈愛の心を以てお相手して差し上げますゆえ、どうぞお手柔らかにお願いいたしますわね。
適合率も120%ほどあれば、アナタにもご満足いただけますでしょう?」
「ひゃ、120%……!? そんなの、最高最強の私でも叩き出せたことなんて……っ!」
「ふっふん。あらあらそんなに身構えないでくださいまし。
途端にお小物さんに見えてしまいましてよ?」
ウェディングスカートの端っこを摘み上げて、あくまでお上品に挑発して差し上げます。
さぁて。ここから先はショータイムですの。
オリジナルの底力というモノを、そして本当の守りのチカラというモノを、複製さんのその身に刻み付けて差し上げましょうか。
手始めに手に持ったブーケステッキを固く握り締めます。
そのままくるくると振り回しますの。
右に左に振るたびに、綺麗な青の花びらが周囲にふんわりと舞い飛んでいきます……!
全ての枷から解き放たれた
光り輝くアルティメット美麗ちゃんっ!
その名を、神聖法女ミレイユブルー!
ここから先はミレイユのターンだぜッ!!!
今回もまた
ゆきや紺子先生に描いていただきました。
いつもありがとうございます……ッ!!
(*´v`*)