有信実行ってことですの!
変身文句を唱えた途端、手のひらの上のポヨから、堪えきれないほどの眩い光が溢れ始めましたの。
未だかつてないほどに明るくて、まるで恒星をそのまま手の中に納めたかのような光り具合なんですの。
こんなのホントに人生で初めてなのでございますッ!
目を細めながらも握り締めた拳を見てみると、彼自身の身体が青色と金色を半々に混ぜたような独特な色味に変わっていらっしゃいました。
現役時代でも、そんな奇抜なツートンカラーなお姿、見たことございませんでしてよっ!?
私の視線に気付かれたのか、ポヨはむにりと身体を起こしなさいました。
「あー、もしかしたら、コレが総統の言ってた〝新たな鍵〟とかいうヤツの影響かもしれんポヨね」
「鍵、ですの? よく分かりませんけど、ポヨがそう仰るのならそうなのかもしれませんわね。
にしてもおっかしいですのー。総統さんは私の中に眠っていると仰っていたはずですけれども……」
別に特別なことはしておりませんの。
ただ強く、まっすぐに願っただけなのです。
「ふぅむぅ。私としては何かを明確に変えたつもりはなくて、かといって全部そのままというわけでもなくて……せいぜい物の捉え方と己の心構えを改めて認識し直して差し上げたくらいでしてよ……?」
「……案外それだけで充分だったのかもしれんポヨね」
「ふぅむ?」
一つずつ確認し合っている間に、ポヨが完全に金色になられましたの。
まさにマッキンキンのツヤ肌饅頭さん誕生ですの。
パッと見では金箔を貼った超高級水饅頭と見紛うほどの高級な輝きを放っていらっしゃいます。
彼は一言一言を考えながら話すように、ぼそりと小さく呟き始めなさいました。
「あれはほんの一ヶ月ほど前だったポヨか……。お前と再会して、地下施設内で魔法少女に変身しようとしたときのことポヨ。
あのときはどんなに頑張っても60%を超えるか否かという低適合率しか出せなかったポヨよね。
でも、今回は全く違う感じなのポヨ。もう既に80%を超えているポヨ。しかもまだまだ上がそうなのポヨっ」
「はへぇー……やっぱり火事場の馬鹿力ってのは凄いモノなんですのねぇ……」
つい他人事のような反応をしてしまいましたが、今回ばかりは私も適合率が高まっている理由を何となくは察せておりますの。
ポヨと同じく、私もまた一ヶ月前に言い放たれた言葉を思い出します。
地下施設内で上手く変身することのできなかった、ほんのちょっぴりだけ苦い記憶です。
あれは……そう、魔法少女のチカラの根源を理解した瞬間でもありましたの。
装者が魔法少女のチカラを求めようとしなければ、魔法少女のチカラもまた、それに呼応しようとはしてくれない、と仰っていらっしゃいましたっけ。
適合率が上がってくれないのは私自身の努力や才能が足りていないのではなく、そもそもの心構えや、求める意識そのものに原因がありそうなのだ、と。
だって仕方がないものは仕方がないではありませんか。
つい今の今まで魔装娼女のチカラに全幅の信頼を置いてしまっていたんですもの。
それでも簡単に覆されて全然歯が立たなくて……私自身は何も強くなっていなかったことに、ようやく気が付けましたの。
……残念ながら私は誰よりも弱い存在なのです。
その証拠に一人では何も成すことができません。
誰かを頼って、誰かに助けていただいて、そうやって他者からの干渉を受けていないと……とてもではありませんが生きていけませんの。
……でも。
別に今のままでも、いいかな、なぁんて。
このまま怠惰で平和な日常を貪り続けているのま、存外悪くはありませんの、なぁんて。
そう気楽に思ってしまえるのも、きっと私が幸せ者なのだと実感できているからなのでしょうね。
私、こう見えて沢山の方々から愛されている自覚はありますの。
しかしながら、愛とは一方的に受け取るだけではダメなんですの。
あくまで双方的なものであって、いただいた分だけキチンとお返ししなければいけません。
ただの私一人だけでなく、私の愛する人みんなが平和で静かで仲睦まじく暮らせる日々を、この手で掴み取るためにッ!
それがどんなに業の深い傲慢だったとしてもッ!
私は私の正義を貫かせていただければと思いますのッ!
だから今回は、お相手を打ち倒すためのチカラではなくッ!
ただ大切なモノを守り抜くためのチカラを、お寄越しなさいましッ!!!
空いた片手で今一度ガッツポーズをし直しますと、眩い光が今度は私の身体からも発され始めましたの。
最初は足先から、それから段々と上に昇ってきて、終いには腰回りも胸も指の先も頭のテッペンまでも、すっぽりと光の膜が覆い包んでしまいますっ!
うふふ、それにしてもなんと優しげで柔らかな光なのでございましょうっ!
黒泥みたいな……けれども黒泥とはちがう、酷く懐かしくて温かくて、とにかく心強い光なんですの……っ!
「これなら、何とかなる気がいたします!」
魔法のチカラとは思いの力を糧にいたしますの。
そのことを前提として考えれば、たとえ魔法少女のチカラを模倣して作られた魔装娼女だって、そのチカラの動力源自体は同じのはず……!
となれば、私が魔装娼女のチカラを信頼していたように、今度は魔法少女のチカラを心から信じて差し上げれば、これまで以上に応えてくださるはず……!
彼女が私のクローンさんなのだとしたら、元となった私にだって最強になれる素質が眠っているということですわよね!?
この際曲解でも拡大解釈でも構いませんの。
思いの力は何でも実現できるはずですのっ!
同じ魔法少女のチカラのぶつけ合いであれば、ここから先は願いの強いほうが勝つと信じる他にないのです!
有言実行ならぬ有信実行ってことですの!
「はーぁっ。いきなり何を始めたかと思えば、まさか最高最強の魔法少女に対して、今更中途半端でしかない正の力をぶつけようだなんて……ねっ。ぷくくっ。呆れちゃうね。見苦しくて可哀想に思えてきちゃうね」
「ふっふんっ。せいぜい今のうちに笑っていなさいまし。すぐにあっと驚かせて差し上げますゆえにッ!」
「ま、小賢しいことされるまえに、その変身、無理矢理に止めちゃうんだけどね――」
おっと、そうは問屋が卸しませんでしてよ。
今だけ使える必殺の牽制ワードを存じ上げているのです。
アナタが最高最強の魔法少女だからこそ最大限の効果のある、黒泥イージスよりもずっと強固な盾言葉になり得ましょう。
「――スペキュラーブルーさぁん? 変身タイムに攻撃するのは魔法少女にとって完全なタブーなのではございませんでして?
何があっても黙って見守っておくのが、最低限の礼儀だと私は思うんですけれどもー?」
「……くッ!」
ふっふん。やっぱりお手をお止めなさいましたわね。
なるほど懸命なご判断だとは思います。
まさか最高最強の魔法少女さんが世の理から外れた行いなんてなさるわけがないですものねぇ?
まして近くでお父様が見ていらっしゃるのです。
あくまで最高傑作の存在が、万が一にもその道の礼節に欠いた行動をするなど、お見せするだけ損だと否応無しに分かってしまいますものねぇ?
思わずほくそ笑んでしまいます。
ほらほら、アナタはそこで黙って見ていなさいまし。
過去の私をも超える真なる姿を、もうすぐその目に焼き付けて差し上げられるのですからッ!
大変長らくお待たせいたしましたっ!
次ページにて、ようやくっ!
美麗ちゃんの最終〝真〟衣装がお披露目となりますっ!
もちのロンで乞うご期待ですのっ!