うっさいうっさいうるさーいッ!
満を持してご説明して差し上げましょう。
〝スーパースペシャル乙女パンチ〟とはっ。
ガッチガチに固めた黒泥製のメリケンサックを拳に装着して、とにかく接近してチカラの限りブン殴って差し上げるという、わりと古風で愚直な必殺技なんですの。
確かに一見では地味ですが、高適合率のおかげで身体能力にプラスの補正が掛かっているのです。
ほんのちょっと踏ん張るだけで、それこそ硬岩をも穿つ一発を放つことができるのでございます。
コレを喰らってしまえば、さすがの最強最高の魔法少女さんでも無傷ではいられないことでしょうね。
もちろんあの子もあの子で身体能力補正が乗っかっていると思われますが、私と複製さんではそもそもの体格が違うんですの。
オトナが渾身の力でぶん殴って差し上げればッ。
文字通りに骨を折ることだって可能なんですのッ!
ところ構わず危険な光をぶっ放してしまうような、物事の良し悪しが判断できないお子さまにはお仕置きが必要でしょう!?
痛い目に合わせて差し上げるくらいがちょうどよいのです。
たとえホントに骨をポッキンしたとしても、きっと調整槽とやらに浸かれば治りも早いんでしょうし。
痛い目にあってトラウマを植え付けられるくらいがベターな狙い目と言っていいはずなのですっ。
むっふっふっふっふっ……その私そっくりな澄まし顔を苦痛一色に歪ませて差し上げましてよぉ……っ。
自分ではあんまり見られませんものね。
鏡面反射さんは鏡面反射さんらしく、私のことを映し出せばよろしいのですっ!
ほらほら、もうすぐ拳が届いてしまいまし――
……あっれぇ、おっかしいですわねぇ。
いつまで経っても距離が縮まりませんの。
もはや終わらない鬼ごっこに等しいのです。
「ちょっとアナタッ! そうお逃げなさるばっかりではッ! どうやったってアナタの望むデスマッチには発展し得ませんでして――んふぅッ!? ぅ危なッ!?」
「誰が好き好んで殴られなんかにいくか、オリジナルのばーかばーかッ! 喰らえぇぇ!」
「むふっ!? ぐっぬぬぬぅ……! まずはあの消滅の光をなんとかいたしませんと……! かといって下手に大きな動きをするわけにもまいりませんしぃ……っ!」
正直、咄嗟にかわすので精一杯なんですの。
たまーに飛んでくる矢のような消滅の光が私の加速を大きく妨げているのです。
単なる牽制的なモノなら特に気にしないでおいても問題はないのですが、残念ながらあの子はマジのガチで私の命を狙ってきているらしいんですの。
その証拠に、何発かに一発は胸元直撃コースに飛んできているのです。
完全にかわしきれないモノはポヨが黒泥塊を操作して軌道を逸らしてくださいますが、さすがに完全に度外視して突き進むことまではできませんの。
多少は回避に気を取られてしまいます。そのせいでイマイチスピードに乗り切れていないというのが現状と言えましょう。
つまりはいつまで経っても鬼ごっこが終わらないまま、くたびれ損の黒泥失いということになってしまうのです。
「ばーかばーかっ! オリジナルのほうこそ! さっさと直撃して死んじゃえばいいんだ!」
「ふぅむ!? さすがに今のは聞き捨てなりませんわねぇ! 仮にも正義のヒロインさんが軽々しく死んじゃえとか言っちゃダメですの!
せめて熱い心と固い意志も持って、決死の覚悟でおチカラをご行使なさいまし!」
「うっさいうっさいうるさーいッ! 表舞台から逃げ出したオリジナルがッ! 今更上から目線な説教なんてしないでよッ!」
ぐ、ぐぅの音も出ない正論ですの。
おまけにやっぱり劣勢なのも変わってないみたいです。
私のすぐ真横を真っ白な閃光が通り過ぎていきましたの。
自動防御泥が反応しなかった以上、直撃はしない攻撃なのでしょうが、この目に映してしまえば冷や汗は出てしまいます。
けれどもそれでおめおめと引き下がってよい状況でもないのです!
感情露わに首をブンブンと振っては抵抗をなさる複製さんではありますが、その御手からは絶えず浄化の光が放たれ続けておりますの。
対する私は、先ほどよりも更に姿勢を低くして小回りの効く体勢を保ちます。
少々スピードは落ちてしまいますが、ジグザグに駆け抜けて照準を合わせて差し上げませんのッ!
駆け回りながら辺りを伺ってみましたが、アスファルトの地面には既にソフトボール大の小さな穴がいくつも穿たれてしまっておりましたの。
全て消滅の光が直撃して、地面ごと抉り消されてしまったらしいのです。
このまま光を放たせ続ければ、地面も廃工場の壁面もいずれボロッボロになってしまいそうです。
やっぱりこのチカラ、決して多用してはいけない超弩級の危険物だと思いますの……ッ!
今日ここで彼女を止めておかないといずれ大変なことになっちゃう気が150%ですの……ッ!
彼女の閃光攻撃をかわしていなして防いで、少しずつ距離を詰めてまいりますッ!
複製さんとの距離、ようやく10メートルくらいにまで縮まりましたでしょうか。
それでも、そのあともう一歩が埋まりません。
こちらが地を蹴ってダッシュの構えを見せれば、向こうもそれに合わせて後方に跳躍なさいますし、かといって下手に大きな動作で跳躍などしてみれば、それこそ消滅の光の格好の的に成りかねませんし……ッ!
「仕っ方ありませんのッ! ポヨ! ほんの少しだけ作戦変更いたしますのッ! もう一つ黒泥塊をお借りしましてよッ! アナタの制御下から外してくださいましッ!」
『おっけ了解ポヨッ!』
ふっふんっ。やっぱり私といえば正攻法ではなく。
搦め手を駆使した曲者芸にこそ趣がありますわよね?
すぐさまポトンと力なく地面に落ちた黒泥塊を、あえてハイヒールで思いっきり踏み締めて差し上げます……ッ!
装備変更ですのッ!
拳が届かないならお次は美脚ですのッ!