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呼んだのはそっちでしょ

  

 目眩に頭痛と吐き気と掛けて倦怠感で割ったような疲労感がぐぐぅっと襲ってまいります。


 ちょっと強めの車酔い程度でしょうか。

 しばらく深呼吸をしていれば良くなるとは思いますの。


 大事なバトル前ですがこればっかりは仕方ありません。ホントいつになっても慣れませんわよね。


 魔装娼女姿になっているおかげで転移のダメージもかなり軽減できているはずですが、それでも全くのゼロにはできませんの。


 ふんわりとした感覚が徐々に収まってまいります。


 どうやら無事に廃工場の駐車場跡に到着できたようです。


 固いアスファルトの感触が尖ったハイヒールの底で感じられましたの。


 相変わらず明順応の弱い私の視界は、辺りを正しく捉えられるようになるまでもう少々時間が掛かりそうですけれども。


 目慣れと酔い醒ましのため、今しばらくじっとしておくことにいたします。でないと即座におリバースしてしまいそうですのー……っ。



「……ゔぇっぷ……ぅぁー……あったまイテェですの……ちょっとフラフラじまずのー……多分二日酔いってこんな感じではありませんでしてぇー……」


「あっはは、酔いのせいで言葉遣いがお嬢様とはかけ離れちゃってるね」


「ぅぶぅー。んだって仕方ありませんでしょうー? 体調不良は人を変えてしまいますのー。ただでさえ普段からガサツでお上品でない言葉ばっかり耳にしてるんですものー」


 さすがの私だって自然と影響受けてしまいますの。


 それこそもう三年以上も極端な男社会(・・・)の中で時を過ごしているんですもの。


 いえ、それだけでは変わりませんわよね。

 原因に心当たりがございますの。


 ズバリ、主に土日のお競馬中継観戦のせいでしょう。


 レースが大荒れになった際は、それこそ食堂にたむろするギャンブル好き怪人さんたちと一緒に、ブーブー野次飛ばしのNGワード祭りを楽しんでおりますの。


 ちり紙と化した新聞がいくつも宙を舞うんですのよね。毎回、後片付けがちょっとだけ大変なのです。


 それがまた楽しいんですけれどもっ。


 身内で騒ぐくらいは許してくださいまし。

 現地で観戦するときは皆紳士的でイイ子ちゃんな客人になるのですから。



「……二日酔いといえば、もうあと数年も経てば、私たちもお酒を飲める年齢になっちゃいますのよねー。やーっと一人で馬券を買えるようになりますの」


「縁あって結社に転がり込んでから、もうそろそろ四年が経っちゃうんだね……。ホント、いろんなことがあったなぁ」


「ええ、たくさんありましたのー……」


 命からがら俗世から退散してからというもの、アジトの内部で退屈な夜を何度も経験してまいりましたが、その一方で彩り豊かな日々もたくさん送ってきましたの。


 精神的な苦痛とは無縁の日々でしたわね。

 皆さまやたらと気を遣ってくださいましたし。


 何度でも言いますが感謝しかありませんの。

 ホント悪の秘密結社さまさまでーすのっ。


 ……ぅおっほん。


 結構カッコよさげな言葉で誤魔化してみましたが、結局のところはアレですの。


 蓋を開けてみれば茜も私も、この数年間の思い出はだいたいはピンク色に染まっているのです。


 アンダーグラウンドな事実については今回は黙っておこうかと思います。自他共に認めざるを得ない結構なご奉仕を楽しんできたんですもの。


 表舞台から離れたところで、毎日のように筆舌に尽くしがたい蜜月な世界を広げていたのでございますっ。



「……ホントのホントに、イロイロなことだったね」


「ええ。イでもエでも成立してしまうアレですの」


 彼女もソレを具に思い出してしまったのか、一見では無垢で汚れを知らなそうな横顔を、意外なほどに赤く染めていらっしゃいます。


 恥ずかしそうにポリポリと指で頬を掻いているかと思えば、その瞳には間違いなく飢えた獣のソレが垣間見えておりますの。


 いやはや、茜ったら、末恐ろしい子……ッ!


 私としては、ですわね。


 その魔法少女らしからぬ劣情を持ちながらも魔法少女の姿になり続けられるおチカラ、この上なくトンデモない才能だと思っておりましてよ。


 私たちにはもう正義のセの字もないのですから。むしろセの付く言葉なんて一つしか知らないくらいなのです。



「……あはは。なんだか締まらないね」


「ふっふんっ。それくらいでちょうどよいのです。美女二人に曇り顔は似合いませんでしてよ。

私たちは私たちのペースで生きてまいりましょう。私たちにとっての〝当たり前〟を続けるために、今は目の前の障害を取り除くだけでしてよ」


「そう、だね。今更普通の普通(・・・・・)になんで戻れないもんね」


「無論、戻るつもりもないですのっ!」


 他愛もない会話に心を弾ませることほんの一分弱。


 ようやく私の明順応も仕事をし始めましたの。

 薄目を開けて辺りを確認いたします。


 ここは私が初めてプリズムブルーに変身して、敵さんに重い一撃を受けて、これまたお初のおゲロを吐いてしまった思い出の地……。



 それはひだまり町の外れの廃工場ですの。



 ここだけは四年前からずっと姿形を変えていないのです。まるで時が止まっているかのようですの。


 いえ、もしかしたら内部の目立たないところでは老朽化が進んでいて、今にもガラガラと崩れ始めようとしているのかもしれませんけれども。


 それこそ私の知ったこっちゃないですの。


 感傷に浸れるほど、ここには良い思い出はないのです。痛い思い出しかないですの。


 それでも全部大切な思い出ですけれども!

 言ってることが二転三転して申し訳ありませんわね!


 やっぱり思い入れはあるのでございます!

 だからこそココを決戦の地に選んだのです!


 いざとなったら即座に転移を唱えて緊急離脱ができるとか、関係のない一般人を巻き込まなくてよいとか、そういう打算的なコトも一応は考えておりますけれども!


 この場所が一番戦いやすいんですのッ!



「して、件の複製さんは? そろそろ約束のお時間なんですけれども。もしかしてお遅刻? それともこの私に恐れを抱いてブッチしてしまわれ――」


「やっほ、お姉ちゃん(オリジナル)


「ッ!?」



 前後左右をしっかりと警戒して、それこそ腕組み首を傾げて唇をムッと結んで差し上げようとした、まさにそのタイミングでございましたの。


 背後に気配を感じてしまったのでございます!

 


「ブッチなんてそんなつまらないコトするわけないじゃん。オリジナル(お姉ちゃん)ってば正真正銘のお馬鹿さんなの? 大丈夫? 私の代わりに調整槽入っとく?」


「ふぅむっ!? 出やがりましたわねッ!?」


「呼んだのはそっちでしょ」


 そしてまたすぐ近くから、私のモノとよく似た声が聞こえてきたのでございますッ!


 さすがにまずいですの。不意打ち被弾はイヤですの。

 咄嗟に大地を蹴って距離をとります。


 とりあえず茜と背中合わせになって警戒いたします。


 どうやら魔法少女スペキュラーブルーさんがようやくこの場に姿を現したようなのです。



「に、逃げずに顔を出したことっ、ほほほ褒めて差し上げましてよ」


「まったくどの口が言うんだか」


 うぅっ。痛いところついてきますわね。

 何も返せなくなってしまうではありませんか。


 とりあえず両目にその姿を映して差し上げます。

 やっぱり、私の中学生時代にそっくりですの。


 まるで鏡に映った自分の……されども年齢だけが異なった……それこそ四年前のまだ穢れを知らなかった頃の姿ですの……!


 私の完全なる上位複製(アッパークローン)さん。

 ここであったが百年目(二度目)ですわね。


 今回ばかりは逃げも隠れもいたしませんッ!


 どちらかがギブというまで終われない、最強最悪のデスマッチを繰り広げて差し上げますからご覚悟なさいましッ!


 荒ぶる鷹のポーズよろしく、ビシィッと華麗なる決めポーズをお見せして、間髪入れずに牽制して差し上げます。


 初っ端から私がペースを掴ませていただきますの。

 こういうのはスタートが肝心なのでございます。

 

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