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私の最初で最後のクライマックスがやってまいりましたの

 

 きっかけを掴めば、そりゃあもう怖いモノなんてナシも同然の嵐ですのっ。


 今後がどんなに楽になることでしょう。


 けれども私、こう見えて過度な無いモノねだりはしない主義ですの。


 ワガママと強欲は全くの別モノでしてよ。


 私の中に眠っている〝鍵〟とやらが何なのかはミリもミクロも検討が付きませんが、不確定要素に泣きつく他に手がないほど、切羽詰まっているわけでもございません。


 改めて確認いたしますけれどもっ!


 私は今日っ!


 これまでの頑張りを成果に変えるためにまいりましたのっ。


 練習は本番のように、本番は練習のように。


 それこそ血反吐もおゲロも垂れ流しになるほどずーっと厳しい鍛練に励んできたのです。


 

 総統さんの仰る最後の変身へのきっかけを掴むためにも、本来であれば、よりハイレベルかつ更に過酷な鍛練に励み直しておいたほうがよろしいのでしょう。


 しかしながら、もう悠長に構えていられる時間はなくなってしまったのでございます。


 あのスペキュラーブルーさんが世に解き放たれてしまったらしいのですから。


 このままボヤボヤとしていたら、いつ弊社の人員に被害が出てしまうのか……考えたくもありませんの。


 きっと日付を指折り数えたほうが早いくらいです。

 なるべく早く手を打たなければいけません。


 そのために私がいの一番に頑張るのでございます。



「……恐れながらご主人様。ここ最近、アジトの中が特にピリピリしてきているように感じておりますの。

まず間違いなく私の複製さんが原因なんですのよね?

このままでは皆安心して外回り営業にいけなくなってしまいますの。それだけは絶対に避けなくてはなりません」


 居候に愛玩動物を足して下っぱで割ったような私にだって分かります。このままでは弊社はお金を稼げなくなってしまいますもの。


 自分だけのことを考えたら、別にいつも通り慰安要員としてしこしこと己磨きに努めておくべきなのでしょう。

 

 しかし私はこの悪の秘密結社のイチ構成員。

 正スタッフとして誇りを持って所属しておりますの。


 愛するアジトのために行動したいのです。



「正直に申しますの。ヤれるかどうかなんてそのときになってみなければ分かりませんの。今までヤったことがないのですから。ヤるときが来たらそりゃヤるしかないですのっ!」


 過去の自分をお子さま扱いできる程度には、今は心も身体も強くなれております。


 そして何より誰より、カメレオン怪人さんのお墨付きをいただけていることが大きいのです。


 先日試させていただいたオーク怪人さんとの力比べだって、結構いい勝負ができたと自負しております。


 他にもデンキウナギ怪人さんのビリビリにもギリギリ耐えられるようになりましたし、モグラさんの超回転ドリル攻撃も黒泥を駆使すれば無傷で受け流せるようになりました。


 カマキリ怪人さんの鎌デンプシーも目を瞑りながらかわせますし、ローパー怪人さんの四十八手触手攻撃も全部綺麗に避けて差し上げられますの。


 精神面もまた同じくです。


 ハチ怪人さんの媚毒にも歯を食いしばって耐えられるほど、意地と気合と根性を磨き上げられました。


 毎日のように血反吐も弱音もおゲロも吐いて、それでもひたむきに前を向き続けて、やっとの思いで今の強い自分になれたのでございます。



「分からないことだらけの今でも……それでも……。それでも行かせてくださいまし。私の最初で最後のクライマックスがやってまいりましたの。勝つ覚悟だけはできておりますの」


 今回ばかりはすごすごと引き下がるつもりも、尻尾を巻いてキャウンと逃げ帰るつもりもないのです。


 私の複製さんに対して、真っ向からのタイマンを張って差し上げる所存ですのッ!



「というわけで、ご提案いただいた上で大変心苦しいのですけれども。この際〝鍵〟については一旦考えないでおきましょう。

見つかるかどうかも分からないチカラに縋り付くよりも、私には成さねばならないことが十も二十もあるのでございます」


 そのいち。

 宿命の敵を倒して身の安全を確保すること。


 そのに。

 優しくしてくださった皆さまに、多大なるご恩をお返しすること。


 そのさん。

 頭のド固いお父様をスンと黙らせること。


 そのよん。

 オリジナルと複製と、どっちが強いのかハッキリさせること。


 以降は長いので省略させていただきます。



「ですからどうかこの私に〝リベンジ〟のGOサインをくださいまし。日程を定めて決闘を挑みますの。今度ばかりはエキシビジョンで終わらせるつもりはございません。

血で血を洗うデスゲームよろしく、どちらかが動かなくなるまで徹底的にヤり合う所存ですのッ!」


「勝てるのか? あの最強最高の魔法少女に。そんでトドメを刺せるのか? 優しすぎる(甘チャンの)お前が」


「ご主人様もご存知のとおり、私はヤるときはヤれる女でしてよ。守ってもらうばかりの子どもではいられないのです。私も守る側の立場になっちゃいましたの」


「……そうか」


 ご主人様はその一言だけをお零しなさいました。


 諦めとも安堵とも言えない複雑そうなご表情をなさっていらっしゃいます。


 たとえ複製さんが〝有り得たかもしれないもう一人の私(・・・・・・)の未来の形〟だったとしても、そんな不格好で不幸でしかない未来など、この手で断ち切って差し上げましょう。


 この世に(美麗)は一人だけで充分ですの。


 蒼井家の過酷な運命に縛られてもよいのも私だけですの。


 瞳の中に真っ赤な炎を宿します。

 この握り締めた拳は決意の表れですの。


 総統さんのすぐ目の前にまでにじり寄って、本気の意志をこれでもかというくらいに訴えかけて差し上げます。



「……分かった。だが無茶だけはしてくれるなよ」


「っ! ぜ、善処いたしますのっ!」


 もちろん善処()いたしますの。


 今回ばかりは必ず従いますとは言えません。


 まず間違いなく過去最強の敵さんですもの。

 相当無茶をしないと勝てないお相手なのです。



 これより行うは、決死の決戦ただ一つですの。


 

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