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衣装の意匠


 ふぅ。お着替え完了いたしました。


 魔装娼女イービルブルーの見参ですの。


 実際のところ肌の露出度はほとんど変わっていないのですが、ピチッとしたタイツの質感がイイ感じに身も心も引き締めてくださるのでございます。


 ちょっぴり鋭さの目立つリボンもかなり好印象ですの。黒や紫の要素が大人の女性感を際立たせてくださいます。



「それでは、まいりましょうか」


「……なぁ美麗、何で着替えたのポヨ?」


「そりゃもちろん気分が乗るからですのっ!」


 こんな妖艶でえっびぃ衣装を着たら、誰だってテンション上がりますでしょう!? 私もいつも以上に意気揚々と動けるってもんですのっ!



 そういえば魔装娼女のデザインはどなたがご担当なさったのでしょうね。研究開発班にも美的センスに優れたお方がいらっしゃるのでしょうか。


 正直、素晴らしいセンスをお持ちだと思いますの。

 一度はお会いしてお礼を申し上げたいものです。


 パーツの随所に製作者のこだわりをヒシヒシと感じております。ただでさえ魔装娼女は私のためだけに作られた、いわゆるオーダーメイドなシロモノゆえに……もしかしたら私のファンさんなのかもしれませんわね。


 あっ。思い付きましたの。

 衣装の意匠……いえ、何でもありません。

 今のは忘れてくださいまし。

 


 ともかく、この素敵でアガる格好に身を包んで、改めて司令室に突撃させていただきましょう。


 自室をルンルン気分で後にして、フンスと気合混じりに廊下を闊歩させていただきます。


 道すがらすれ違う怪人さん方には、等しく会釈をお送りいたします。


 どなたも気前よく挨拶を返してくださいます。


 しかしながら、幸か不幸か魔装娼女姿であれば、早々にはちょっかいを出されなくなってしまいましたの。


 ちょっとだけ残念なのです。


 私が日々キツぅい鍛練に励んでいることをご存知で、お邪魔にならないようにご配慮くださっていらっしゃるのでしょう。


 確かに疲れているときや急いでいるときはありがたいのですが、逆にそういう(・・・・)気分のときに愛玩動物として扱っていただけないと、慰安要員として結構な物寂しさを感じてしまうんですのよね。


 一目置かれるというのも考えものですの。


 私も怪人さん方と同じ〝戦える側〟の人材として、つまりは対等な同僚として見られつつあるんでして……?


 ふぅむ。やっぱりなんだか複雑な心境なのです。


 しかしながら今は甘んじて受け入れおきます。

 まずは目の前にそそり立つ壁を越えねば状況は何も変わりませんものね。


 ウダウダ言うだけ時間の無駄ですの。



 司令室へと続く一本エレベーターの中、また新たに決意を固めさせていただきます。


 この悪の秘密結社の天敵、魔法少女スペキュラーブルーをはっ倒して、私にとっての真の平和を手に入れる必要があるのです。


 自由とは常に私の歩く先に続いておりますの。常に追い続けなければならないものなのです。


 今だって沢山の怪人さんと仲睦まじくさせていただいておりますが、それだけでは到底満足しきれておりませんからね。


 私の承認欲求は言わば底なし沼ですの。


 それに何よりも誰よりも、敬愛する総統さんに溺愛していただきたいのでございます。


 全ての厄介事を片付けたら、今度は今以上に自分磨きに励む所存です。


 炊事に洗濯に身の回りのお世話に夜のお伽相手まで……全てバッチバチに極めて差し上げましょう。


 花嫁修行という言葉は過去の産物になりつつある世の中ではございますが……一人の乙女として、多少の憧れはあったりいたしますの。


 未来の賢妻として、彼の背中をお支えする者として、ゆくゆくは唯一無二の敏腕秘書的なポジションを狙っていきたいですわね。


 メイドさんにご奉仕の極意を伝授していただかなければなりませんし、夜のお勤め用に、ハチさんに全身マッサージの秘術を教わる必要がありますの。


 やらなければいけないことが沢山です。


 きっと、今以上に暇々言っていられなくなってしまいますでしょうね。


 過去も今も未来でさえも、やること成すべきことはあまり変わりません。


 夢と野望のために突き進むだけなのです。




 そうこう想いに耽っているうちに、ようやく司令室の扉の前に辿り着きましたの。


 ふっと軽く息を整えてから、あくまでお淑やかにノックを響かせていただきます。



 しばらく待っておりますと、今日もまたひとりでに扉が開いていきました。



「よう、お疲れブルー。そろそろ来る頃かなって思ってたところだ。ついさっき、カメレオンのヤツからも報告を受けたしな」


「ご機嫌麗しゅう、ご主人様。相変わらずお耳が早くてビックリしてしまいますわね。何でも筒抜けのようで、壁に耳あり障子にメアリー状態ですの」


 王妃の気分を味わうにはあと数年は掛かりそうですが、私だって多少は恵まれた環境で生まれ育ってまいりましたの。


 淑女という存在は至極身近なものですの。


 決して私が人一倍におてんばで、落ち着きから遠ざかっているわけではありません。



 ……ぅおっほん。


 私の到着を予想してくださっていたとのことであれば好都合です。


 いきなりですが本題に入らせていただきましょう。



「ご主人様。今日はお一つ、ご報告のために参上させていただきましたの。私、そろそろ実家と決着を付けてこようかと思っておりますの。

一人の〝元〟魔法少女として、そして悪の秘密結社の〝現〟魔装娼女として。

……また同じく蒼井家の一人娘としても一旦に区切りを付けておきたく」


「……そうか」


 意外にも、彼からの返答はそれだけでございました。お部屋をお訪ねしてからというもの、終始私に優しげな微笑みを向けてくださっております。


 蒼井家に反旗を翻すということはつまり、もう表の世界に帰るつもりは毛頭ないと、身を呈して示しに行くということを意味しますの。


 蒼井美麗(わたくし)はこれから、お父様の真の敵になりますの。


 かつての正義の味方ではなく、あくまで悪の秘密結社に心を売った女狐として……。


 一人のイービルブルーとして敵対するのです。


 これから一生、ずっと……ずっとですの……っ!



「……なぁ、ブルー」


「……ふぅむ?」



 思わず口を横一線に結んでしまっていたところ。


 ぼそりと呟くように、総統さんが私の名を呼んでくださいましたの。

 

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