えっへっへぇ……おぉっとコホンコホン
魔装娼女の機能がパワーアップされて過信してしまって、物は試しと本気を出していただいたカメレオンさんにケチョンケチョンに叩きのめされて。
あれから早くも一ヶ月が経とうとしております。
皆さま、ご機嫌麗しゅう。
今日も優美で淫美な蒼井美麗ですの。
秘密結社のお淑やかなお嬢様系慰安要員として、時には惨めで憐れな戦うゲロインとして、日夜激しい鍛練に身を粉にしております。
今は自室のベッドの上にてのんびりと寛いでいたところなのでございます。
さてさて。
いきなりなのですが聞いてくださいましっ。
つい先日、カメレオンさんからこんなことを言われてしまいましたのっ。
とにかく嬉しかった内容なのです。
もちろんのこと一言一句覚えておりましてよ。
ふっふっふんっ。
地頭の良さをここで発揮して差し上げましょうか。
……ぅおっほん。
ま、愚図なお前にしちゃあ頑張ったほうなンじゃネェのか?
免許皆伝とまでは言わネェが、実際のところ俺から教えられるコトはもう何も残ってネェ。
あとは実戦で死ぬほど揉まれてこい。
ンだがホントに死ぬんじゃネェぞ。
閣下が悲しむからナ。面倒事はゴメンだ。
必ず帰ってこい。
――ですってぇぇえっ!
あのカメレオンさんが仰ったんでしてよ!?
いつだって軽くあしらうばかりで全然相手をしてくださらなかったツンデレさんがッ!
こんなにも真っ直ぐな言葉を、ですのっ!
私の成長を素直に褒めて、更には身体の心配までしてくださったのでございます!
「むふ、むふふふふ……っ」
「美麗。最近なんだか気持ち悪いポヨよ。ずーっとニヤニヤしてるのポヨ。正直浮かれすぎだポヨ」
「えっへっへぇ……おぉっとコホンコホン。もちろん分かっておりますの。淑女たるもの破顔のしすぎは格好が付かないってことですわよね。これから気を付けま……むっふふふぅ」
「はーっ。こりゃ重症ポヨね」
ため息を吐く代わりに、私のお腹の上でペタンとお凹みなさいましたの。ビタンビタンと叩いてくるのです。
だだだって仕方がないではございませんか。
嬉しいときには全身で表現してしまいたくなる性分なのです。
ちょっと気を抜いただけですぐに口元が歪んでしまうゆるゆるさんなんですものっ。
あのカタブツで捻くれ者筆頭なカメレオンさんが、やーっと私のことを褒めてくださったんですのよ!?
間違いなくデレが見えましたのっ!
もはや天地を返せたも同然ですのっ!
半年もの間、必死に鍛練に励んできた甲斐があったというものですっ!
「えっと? けれどもポヨさん? あらかじめ釘を刺させていただきますの。別に私、そこまで浮かれすぎてはおりませんの。カメレオンさんに褒められたくて頑張ってきたわけではないのですッ!」
「それは別に構わんポヨが、いきなりどうしたポヨか」
むしろ認められたいのは別のお人ですの。
もちろんのこと親愛なる総統さんです。
間違いなく強くなれた今こそ、命を救っていただいた大恩を返すときだと思うのです。
ただ強く気高くなるだけでは足りません。
身を呈して癒して差し上げるだけでも半分ですの。
彼のご期待に全身で応えるためには、やっぱり一つ大きなコトを成し遂げなければならないのでございます。
「……そろそろ決戦のとき、ですわよね。地下施設の中もだいぶピリピリしてきておりますし。普段の慰安業務だけでは全然賄えなくなってきましたし。もはや元凶を止めるしか他に手はないと思えてくるくらいですの」
「魔法少女スペキュラーブルーの活躍、連日耳にするポヨね。早くも複数の怪人組織が壊滅しかけてるらしいのポヨ。もはや地上は彼女の独壇場といっても過言ではないのポヨ」
「ウチも時間の問題……とはしたくはありませんわね。コレは私が引き起こしてしまったのも同然な問題ですの。私が動かねば何も始まりませんし変わりませんの」
我ながらできることは全てやったつもりです。
魔装娼女の適合率だって、結局は100%に届きませんでしたが、それでも限りなく完璧に近しい数字を叩き出せたこともございました。
今では黒泥だって第二の手足のように動かせますの。
それにポヨがサポートしてくださるようになったこともあって、未だかつてないほどに華やかで圧倒的な戦術を編み出せた気がするのでございますっ。
今のチカラなら、あの厄介な〝消滅の光〟にも対抗できるかもしれません。
コレは過信ではなく、心からの自信です。
むしろ成し遂げなくても何とかいたしますの。
せめて相討ちくらいには持っていく覚悟です。
あの複製さんさえ止めることができれば、また怪人組織が自由に暴れ回れる世の中を取り戻すことができるのですから。
別に弊社の活動に心酔しているわけでもございませんが、施設の中の空気がピリピリしているのは、あんまり居心地がよろしくないのでございます……っ。
私は平穏な毎日を貪り続けたいだけなんですのっ。
「……それではいざ、行動に移りましょうか。まずは日程の調整から始めますの」
「そうポヨね。オリジナルの意地ってヤツを見せつけてやれポヨよ。美麗ならできるポヨ」
「ええ。餅棒ロングのあったぼうよ、ですのッ!」
お父様に果し状をお送りするときがやってまいりましたの。
近いうちに、アナタの実の娘と理想の娘のどちらが強いのか本気で比べっこする必要があると思うのです。
ご覚悟なさいまし。
今度は逃げ出したりはいたしませんからね。
新旧どちらかの心が折れるまで、バッチバチにやり合うのでございます。
それでは最後のゴーサインをいただきに、総統さんのところに赴かせていただきましょうか。
あとは決闘の日時候補をお伺いしてぇ……双方が納得できる場所もおさえてぇ……あ、お父様のお仕事スケジュールなんかも把握しておかなければなりませんわね。
あくまで大人の淑女として、一人のデキる女として振る舞わなければならないのです。
そうでもしなければ、誰よりも頑固者なあのお父様が、一人娘の独り立ちを認めてくださるわけがありませんからね。
勝ち負けだけのお話でもないのでございます。
……そう思うと途端に気が重くなってきましたの。
やっぱり面倒なことこの上ないですの。
「…………はーぁっ。何も危惧せずにずーっとぐぅたらし続けていたいですのー。……ただ己の欲望に身を任せてぇ……こうやってぇ……ベッドの上でごろごろー……ごろごろぉー……」
「ウダウダ言ってないでまずはさっさと着替えろポヨ。いつまでそんな裸同然の格好でいるつもりポヨか。淑女が聞いて呆れるポヨよ」
「だぁってコレが私のお仕事の正装なんですものーっ。それにお着替えだって〝偽装〟してしまえばチョチョイのチョイでしょうー? アナタこそ手のひらに乗ってくださいましー」
なんだかポヨってお姑さんみたいですわよね。口うるさいのは過去から何も変わっていらっしゃいませんの。
でも、別にそれで構わないとも思っております。
私はそんなポヨのことを認めているんですもの。
ぶーぶー不平を言ったところで状況は何も変わりませんし。私が変わってしまったほうが何百倍も早いのですしっ。
ベッドの上に寝転んだまま、仕方なくポヨを鷲掴みにいたします。
胸の前に掲げて、口の中で小さく呟きます。
「……偽装 - disguise - 」
いつもの生温かくて優しい黒泥が、私の身体をぬめぬめと包み込んでくださいます。