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涙もおゲロも見せないように

 

 それはもう過酷な鍛練でございましたの。

 極度の疲労のせいか吐き気が止まりませんの。


 っていうかいくらか戻して(・・・)ますの。


 本気のカメレオンさん、マジでヤバかったのです。

 太刀打ちとかそういう話ではなかったですの。


 即座に黒泥がチリと化して蒸発してしまうレベルでぇ……わりとすぐに枯渇してしまってぇ、ほとんど無抵抗のままキッツい一撃を受けてしまったくらいなのでございます……!



「……ぁぁぁっ……正直舐めてましたの……っていうか己のチカラを過信してましたの……。

所詮私はBランク止まりの〝元〟魔法少女でしたわね……。多少強くなったところで特S怪人のカメレオンさんには歯もお股間もタちませんのぉ……」


「タつモンネェだろ、お前には」


「うっ……」


 ごもっともなツッコミに言葉を失ってしまいます。



 どうも皆さまこんにちは、負け犬美麗ですの。


 さきほどから全身の震えが止まりません。


 全ての黒泥盾を引っ剥がされて、最後には直接受けてしまったボディーブローによって、胃の中全てを口からサヨウナラしてしまいました。


 いえ、日々の鍛練でもしょっちゅう吐いておりますので、もはやこれくらいは慣れっこなんですけれども。


 さっきから口の中がずぅっと苦いのです。

 うがいをさせてくださいまし……うっぷ。



「いやぁ美麗ちゃんも災難だったねぇ。なんていうかさ、最後の方はもう〝凌辱〟とか〝蹂躙〟ってな感じじゃなかった?

実力の差とかそんなレベルの話じゃなかったよね。ホントに桁が違うねーあっはは」


 そこ、無責任にケタケタ笑わないでくださいまし。



「……ぇぅぅぅ……笑い事じゃなぃでずの……アレは訓練とか稽古とか、そんな生優しいモノではございませんの……私じゃなければ絶対死んでまじだの……ゔぇっぷぇ……」


 カメレオンさんが本気を出されてからというもの、ココが地獄の一丁目と言わんばかりの、生と死の狭間なガチ鍛練が繰り広げられてしまったのでございます……!


 結論から先に言えば、30分と(・・・)持ち堪えることもできませんでした。


 ガチモードのカメレオンさんには、それこそポヨの自動防御も、私の隙を見出しての特攻も、何一つとして通用しなかったのです。


 絶えず防戦一辺倒なだけでしたの。

 成す術なしとはあんな状況を言うんでしょうね。


 極度の恐怖と絶望的な疲労と限界ギリギリの身体的ダメージを、この短時間で嫌と言うほど味わってしまいました。


 一本取るとか一矢報いるとか、マジでそんなレベルじゃなかったんですの。


 本気のカメレオンさんは……マジで歩く恐怖そのものでしたの……ッ! 敵に回すだけ絶対に損ですの。


 お味方さんでホントに良かったのです……!


 ただ死なないように立ち回る、その一つしか考えられなかったのでございます。



「……私、分かりましたの……やっぱり逃げるは恥ではないですの……世界でイチバン立派な戦術ですの……!」


 この人と敵対するくらいなら即座に靴でもお舐めして、更には仰向けになってお腹を曝け出して、ワンと鳴いて負けを認めたほうが何倍もマシでしてよ。


 身を晒すタイプの献身自体は普段からやっているも同然なのですけれども……っ。


 こればっかりはホントに心からの結論なんですのっ。他に手を思い付けませんでしたのっ。



「……ゔっ……ゔぇぇえええ……にしても怖がっだでずのぉ……死ぬがど思いまじだの……」


「バーカ。さすがの俺でもホントにヤりはしネェよ。その辺の分別は有るゼ、ッたく」


 涙か吐き気か自分でも分かりません。


 過酷すぎる鍛練に心が悲鳴をあげて、すぐに胃が物を受け付けなくなって、むしろ息を吸うたびに吐き気を催すようになってしまって。


 茜とプニが用意してくださった金バケツにゲロゲロと戻し始めて(・・・・・)しまったのが数分前、ようやく落ち着き始めて胃の中が完全にスッカラカンになったのがたった今。


 吐けるモノなんてもう何も無いですの。

 これを最後にしてしまいましょう。



 〝弱音〟も含めて、吐きませんの……ッ!



 心配そうに背中をさすってくださる茜に感謝しつつ、目の前に佇むカメレオンさんに、心からの言葉を絞り出して、向けて差し上げます。



「……ん……でも……カメレオンざん……」


「おう?」


「今日は……最高レベルのご鍛練……本当にありがとうございましたの……。おかげで自分の課題が見えた気がいたしますの。

……次は……ゔっ……涙もおゲロも見せないように……より一層頑張りまずゆえにぃ……」


「お前のガッツだけは認めてやる。ま、死んでないだけ見込みはあると思うゼ。コレに懲りずに今後も精進するように。あと、ちゃんと休んでおけよ。自覚以上に疲弊してるはずだからナ」


 うっへぇ、カメレオンさんが優しい言葉を掛けてくださいますのぉ。マジのガチでシゴいてくださったからだと思いますのぉ。


 こういった感謝のお言葉を、もっと余裕を持ってお伝えできたらよかったのですけれどもぉ……。


 おあいにく、かろうじて頷きを返して差し上げるくらいの体力しか残っておりません……。


 気を抜いたら、今すぐにでも気絶してしまいそうな……。それこそ多分、三日は眠り続けてしまいそうな……っ。


 本当ならふかふかなベッドで寝落ちしたかったところですが、この際プレイルームのかったい床マットでも何でも構いませんの……。



 ああ、もう視界が霞んできましたの……。



 ……体の節々が、ビリ、ビリ、と……。



 痛みの感覚も薄れてきて、い、ま……。











――――――

――――


――








「――お嬢様。そろそろ起きてくださいまし。もう四日目の朝ですよ。さすがの私めも心配してしまいます。つい先ほど、カメレオン様にも直談判しに伺ってしまったほどなのですから」


「…………ん、ぅ……ふわぁ……ぅん……?」


「ああ、よかった。ご無事で何よりです」



 次に目を覚ましたとき、この両瞳に映ったのは……。


 ナース服姿の、メイドさんでして……?

 

 

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