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手ェ抜かずにちぃとばかし本気ってヤツを見せてやっか

 

 壁面の黒泥クッションが少しずつ剥がれていって、やがてはいくつかのバレーボール大の球体に収束していきました。


 その数、ちょうど6つですの。


 正六角形の形成するようにふよふよと浮かんでは次第に私を取り囲み始めます。どういう原理か分かりませんが、私の周りをくるくると回り始めたのですっ。


 それはまるで、宙に浮く〝盾〟でしたの。


 それぞれが別個に意志を持っているかのように、時折ボクシングのジャブのように鋭い伸び縮みを繰り返しているのです……!



「この黒泥盾は物理攻撃ならほぼシャットアウトできるチカラがあるポヨ。けれども実体のない攻撃については……場合によりけりだポヨね」


「ふぅむ? と仰いますと?」


「さすがに〝消滅の光〟レベルの光線は防げないポヨね。あれはマジの規格外ポヨから、当たれば何でも、有無を言わさず消されてしまうのポヨ」


 あら、その辺は以前と変わってないんですのね。


 あくまで今回の黒泥は扱える量が増えただけ。

 そして私だけでなく、変身装置のポヨも黒泥を使えるようになっただけ。


 その変更点だけ抑えておけばよさそうな気がいたします。


 あ、でも……それでは対スペキュラーブルー戦ではほとんど役に立たないのでは?


 消滅の光が直撃してしまったらそれで即終了なのです。ということはまーた隠れんぼ戦術を駆使せねばなりませんのね……。


 と、一瞬だけ悲しくなってしまったのですけれども。


 ポヨの言葉はまだ終わっておりませんでしたの。



「ただし、少しだけ改善もされたらしいのポヨ。もちろん当たった黒泥自体は犠牲になるポヨが、光の軌道を逸らして直撃を避けることくらいならできるはずだポヨ。

つまりは魔装娼女(お前)の黒泥ストックが尽きるまで、ほぼ(・・)完璧な自動防御を展開してやれるってことなのポヨね! きっと朗報ポヨっ!」


「はぇーっ! それなら全然イイではありませんのっ! 充分なアドバンテージだと思いますのーっ!」


 少なくとも彼女に対抗できる方法が一つは手に入ったのです。最悪、黒泥盾を犠牲にして無理矢理に肉薄することだってできちゃいますのっ!


 ほぼ全ての攻撃を防げるのであればっ、魔装娼女の基本戦術にも更に大きく幅を持たせられること間違いなしですのっ!


 今から夢が広がります。


 黒泥が尽きるまで自動防御を展開できるだなんて、それこそ私お得の耐久戦にピッタリな機能ではございませんこと!?


 だって私がいちいち気を回さなくても、勝手に貴方が身を守っていてくださるってことですわよね!?


 ただでさえ戦闘中は状況が目まぐるしく変わりますの。その最中にわざわざマルチタスク的に攻撃と防御それぞれを考えなくても済むってことなのでしょう!?


 もはや怖いモノ無しの千人力ですのっ!

 濡れ手で粟の儲け物間違いなしですのっ!


 受け身のことを考えなくてよろしいなら、私の耐久戦術にもより一層の選択肢が広がってまいりましてよっ!


 今からルンルン気分にもなれちゃいますのっ!

 軽快なスキップをお見せして差し上げましょうか。



 と思った矢先のことでございました。



「……ッたく閣下め。青ガキにこんなシチ面倒くせぇチカラを与えやがってよォ。さすがの俺でもコイツには骨が折れそうだゼ。

しゃーネェ。手ェ抜かずにちぃとばかし本気ってヤツを見せてやっか」


 指を景気よくパキポキと鳴らすカメレオンさんが、この目に映ってしまったのでございます。


 なんやかんだ、お優しい彼はいつも丁度いい感じの手加減をしてくださっているのです。


 そのリミッターを外されてしまっては、私なんかでは到底太刀打ちできるはずがございません。


 先ほどの長髪だって、口から出任せとまでは言いませんが、その場には勢いってモノがありますでしょう!?


 マジの本気は、真面目に想定外でしてよ!?

 勝てる気もいたしませんでしてよっ!?



「え、あ……本気……ってそれマジで言ってますの!? 適当なご冗談ではなくっ!?」


「でネェと鍛練にならネェんだろ? お前がそうしろっつったンだから覚悟しろよナ。無色透明(俺色)の、色付きの地獄ってヤツを見せてやンからよ」


「んひっ」


 ドスの効いた黒い微笑みがトンデモなく怖いのです。


 え、えっと、あの……胸元の宝石ポヨさん?

 もう一度だけ安全確認をしてもよろしくて?


 その自動防御、ホントのホントに全幅の信頼を置いても問題のない機能なんですのよね?


 脆弱性とか(アラ)とか欠陥とか、そういったマズそうな不安要素は一ミリも無いって認識でよろしいんですのよね?


 本当にアナタにお任せしてしまってもイイんですのよねぇッ!?


 だってほら、今まさに身に纏うオーラが変わった……超絶本気そうなカメレオンさんの攻撃を……キチンと防ぎ切れる未来が見えないんですもの……っ!



 ポヨったら、弱々しく明滅なさるだけでしたの。


 口では明言しないことから察するに、彼にも防ぎきれる自信はないようです。



 ……くぅ。わっ、分かりましたわよっ!


 私だって強い乙女になりたい一人ですの。

 この豊かなお胸に覚悟を固めましてよ。


 最悪自動防御に失敗してしまって、本気のカメレオンさんからキツぅい一撃を受けてしまうとしても。


 慈愛に満ち溢れたこの乙女心で赦しましょう。

 痛みも確かな経験なんですの。

 

 これも一つの成長の糧と割り切って、気絶するくらいなら笑って許して差し上げまし――



「ボヤボヤしてっと、お前、死ぬぞ(・・・)?」



「ひ、へっ?」



 え、あ、そんな、嘘ですの……っ!?


 今、目の前のカメレオンさんが一瞬でボヤけて、三人くらいに見えませんでし……てぁぇぇぃぇえッ!?









――――――

――――


――










「ん、ぶ、おげぇぇぇえ……ゔぇぇぇ」



 

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