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つまりは美麗百烈拳ってことですの

 

「……偽装ッ! - disguise -」


 唱えてすぐに気付きましたの。

 なんだかすっごいんですのっ!


 握り締めれば握りしめるほどに、この手のひらに黒泥が集まってくるのでございますっ!


 今まで扱えた総量がせいぜいお風呂の湯舟程度だとしたら、今日の私は遊泳プールくらいに泥を捻り出せるのではありませんでして!?


 チカラがグングン湧き立ってくるのでございますッ!



 みるみるうちにめちゃめちゃカッコいい腕甲が生成されました。


 まるで闇夜に暗躍するヴァンパイア騎士が愛用していそうな、鋭利さの光るスタイリッシュなパンチグローブですの。


 とっても軽いですのにとっても強そうなのです。


 単なる飾りではないことが、そのデザインとオーラで分かります。



「これなら秒間5回はジャブが打てそうですの。右でも左でも渾身のストレートが放てますのっ。抉るように打ち込みましてよ」


「いいか美麗。あの魔法少女に打ち勝つには接近戦が不可欠ポヨ。その為の攻撃力アップの新泥装ポヨ」


「ぐっじょぶですのっ!」


 これなら非力な乙女でも岩をも砕く一撃を放つことができましてよッ!


 この数ヶ月の鍛練によって、私の戦闘技術も格段にアップしているはずです。


 優れた技術と優れた装備による相乗効果によってッ!

 私の戦闘力は何倍にも飛躍しているのでございますッ!



「興奮してるとこ悪ィがナ。どんなに強い装備が手に入ったとしても、ソイツを使いこなせなきゃ意味はネェ。攻撃ってのは当てられて初めて意味が出てくるモンだ。俺は逃げも隠れもしネェゼ? 今に限ってはナ」


「もちろんっ、言われなくてもですのッ!」


 余裕そうなカメレオンさんに相対し直しまして、瞬時に肉薄して瞬きを忘れるほどの怒涛のパンチラッシュを繰り出します。


 ちなみにパンチラではございませんの。

 パンチのラッシュですの。


 必殺のデンプシーロールさながら、無限の軌道を描くようにしてとめどなく剛の拳を放ち続けます。


 まるで腕甲が勝手に動いているかのように、隙なく隙間もなくパンチの壁を築くことができるのですっ!


 つまりは美麗百烈拳ってことですの。

 私が最後の星の伝承者ですの。


 ……胸に傷はございませんけれども。

 むしろ乙女のお肌に生傷は厳禁ですの。


 ですがこれならさすがのカメレオンさんでも、チカラの差に圧倒されてしまうのではございませんでし――



「――ま、所詮は単調な攻撃の繰り返しだナ。確かに攻撃力自体は上がってるようだが、俺にゃあまだ止まって見えるゼ」


「くぅッ! このッ! このぉッ!!」


 カメレオンさんは千手観音か何かなんですのっ!?

 まだ舌も解禁なさっておりませんのにっ!?


 単純なパンチでは味気ないと思って時折左右のフックやアッパーも混ぜておりますのに、それでも全てを無駄のない動きでシュパパパと受け流されてしまいます。


 それどころか、攻撃を放ち続けているはずの私のほうがジリジリと後退させられちゃってますの。


 暖簾に腕押し……というよりは、質量のある暖簾が面で迫り来ているような感じです。


 ふと視界に紛れ込むカメレオンさんのやれやれ顔がやけに印象的に目に映り込んでしまいます。



 一瞬の隙を見せてしまったそのときでした。



「青ガキ。これだけは忘れンなヨ」


「うそっ。そんなっ!?」


 固くて鋭い腕甲がひしゃげてしまうほどの強い力で、右手も左手も掴まれてしまいました。


 そのまま大の字のポーズにさせられてしまいます。


 このまま辱めを受けると思いきや、ほぼ初めて見る彼の真剣なご表情に思わず息を呑んでしまいました。



「お前の持ち味はナンだ? こんなつまらネェ無機質な攻撃か? 力任せなだけの愚図な連撃か?」


「むっ……」


 言われてみれば、私が常々に戦闘相手を薙ぎ倒して倒してこれたのは溢れんばかりのチカラをぶつけていたからではなく、その場その場の状況を利用していたからだと思いますの。


 どんなときでも格上相手さんの隙を探して……ッ!

 弱点を見つけて、じっくりと裏をかいて……ッ!



「確かにお前はバカで愚鈍で乳のデカさくらいしか取り柄のネェ女だけどよ」


「ふぅむっ!?」


「そのどこから湧いて出てきてるのか分からネェ高飛車度合いと、相手の嫌がることを素直に選べるズル賢さと、それなのにバカ正直なくらいまっすぐでいられる心の豊かさは、素直に誇っていいんじゃネェのか?

そんでもって、その小賢しさをテメェの戦い方に活かしたほうがと、俺ぁ思っちまうワケでよォ」


「……それ、褒めてますの? 貶してますの?」


 きっと隠れツンデレなカメレオンさんのことですから、両方の意味で仰ってるんでしょうけれども。


 もう一回ゆっくりと仰ってくださいまし。

 今度は一言も漏らさずに録音しておきますから。


 基本的にこの人は言葉にはしないですものね。

 身体で感じて身体で覚えろタイプですの。


 そんなある意味では一番不器用な方が、あえて諭すように私にお言葉を向けてくださっているのは……かなりメッセージ性が含まれているとみて、間違いはないはずです。


 確かにチカラ任せなだけの攻撃方法は、 私本来の戦い方ではありません。


 新しい力に溺れてしまって、良さが消えてしまうのはもったいないですわよね。


 言われて気付きましたの。

 おっけですの。更に理解を深めましたの。


 貴方の仰る〝心のまっすぐさ〟を以て反省いたします。



 カメレオンさんが続きをお話しなさいます。


 

「あとアレだ。コイツぁ蛇足かも知れネェが、腕っ節に任せた戦い方なら、お前っつーよりはそっちの赤ガキのほうが百倍向いてンと思うぞ」


「ちょっとー? それってどういうことー!?」


 唐突に巻き込まれた茜が、言葉のわりにケラケラと笑いながら抗議の意を示していらっしゃいます。


 返答のご様子から察するに、茜は茜でご自身の戦闘スタイルをよく理解なさっていらっしゃるようですわね。


 小柄でスピードを活かしつつ、手数の多さと緩急とで相手を翻弄する攻撃タイプ……それが魔法少女プリズムレッドの基本戦術ですものね。


 私とは絡め手の使い方が根本的に異なるのです。


 茜の絡め手はあくまで敵さんの気を逸らして、その後の本命をブチ当てるのが狙いですの。その一撃はデカければデカいほど効果的なんですの。

 


 対する私の絡め手は、それ自体でお相手に肉体的&精神的ダメージを与えるのが目的ですの……。



「ふぅむぅ……なるほど……確かに私、新しい黒泥に頼りきって、脳筋プレイになりかけてましたわね。もっと頭を捻りますの。……しっかし悩みますわね……」


 いっそのこと今すぐ頬杖を突いて物思いに耽りたいところでしたが、おあいにく腕を掴まれてしまっているせいで身動きが取れません。


 仕方がありませんのでこのままカメレオンさんに拘束されたまま、つまりは大の字体勢のまま考えます。


 ゆっくりと目を閉じて、閃き回路に訴えかけますの。



 私の、一番得意な戦闘スタイル……。


 

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