先手は私がいただきですのッ!!!
「お待たせいたしました。多分ですけど大丈夫ですの。きっと何とかなりますの」
「いや、多分やきっとじゃ困るンだが」
「であれば訂正させていただきましょう。絶対に大丈夫ですの。ですから何も言わずに私と遊んでくださいましぃ。その身を以て好きなだけ試させてくださいましぃ。やーいカメレオンさんの腰抜け怪人ー」
「お前くらいなモンだゼ。俺相手にそんな態度とれるヤツぁよぉ」
だってせっかく新装備を手にしたのです。
すぐに試してみたくなるのが好奇心旺盛な乙女の性というものでしてよ。
アナタならば頑丈なサンドバッグになれますのぉ。むしろアナタほど最適なつよつよ怪人さんはいらっしゃいませんのぉ。
……ちらっ。ちらちらっ。
「……ッたく。コイツぁ貸しにしとくからナ」
「いやっほい! ですのっ!」
ふっふん。まぁチョロいもんですわね。
乙女のうるうる目懇願に引っ掛かるとは、カメレオンさんも所詮はオスということでしょうか。
冗談ですの。優しさに感謝しておりますの。
むしろどんなに色目を使っても手を出してこない貴方の紳士さには誰よりも尊敬の意を抱いているくらいです。
すかさず彼の手を握って、もむもむと揉み込んでおきます。
いやはや実に爬虫類らしいザラザラとした感触ですわね。下手したら紙ヤスリよりもキメが荒いかもしれません。
是非とも黒泥エステを施して差し上げましょう。もし私が勝ったら問答無用にマッサージを受けていただきますの。
あの手この手で癒して差し上げましてよ。
となれば俄然やる気が湧いてきましたわね。
「ここは一つ、背中を床に付けてしまったほうの負け、などはいかがでして? 世は常にシンプルイズベストが欲されますの」
勝敗のルールくらいは先に定めておきましょうか。
ヒーロー連合のキュウビさんともこのルールでお戯れをいたしましたわよね。
実は私の中で流行っておりますの。
これなら安全に決着が付けられますし。
誰も悲しい思いをしなくて済みますもの。
あのときは三回までおっけーでしたけれども、今回は一回限りの待った無しルールを採用するつもりです。
「別に何でもいいゼ。お前の好きにしろ」
「では決まりですのっ。
茜ー、審判員的なのをお願いできましてー?」
「おっけいいよー了解ー」
ついでのついでに、入り口のほうでニコニコしながら眺めていた茜を手招きさせていただきました。
せっかく伝達役を担ってくださったんですものね。
もっとお近くで私の邁進を目に焼き付けてくださいまし。
それではようやくお披露目の時間なのでございます。
プレイルームの真ん中に茜が立ち、両壁付近に私とカメレオンさんが佇みます。
さぁさぁいつでも始めてくださいまし。
きっとカメレオンさんも同じ気持ちのはずです。
三者それぞれがお互いにアイコンタクトを送り合います。
最後に茜がコックリと大きく頷いて、その手を真上にお掲げなさいましたの。
「それじゃ二人とも、準備はいいかな?
模擬戦――開始だよッ!」
間髪入れずに一気に振り下ろしなさいました!
こちらが今回の開戦の合図らしいんですのっ!
「先手は私がいただきですのッ!!!」
すかさずマット状の床をヒールで蹴って、最速加速で一気に駆け出しますッ!
生身の身体では無理な動きでしたが、魔装娼女の衣装に包まれた今なら、舞い落ちる木の葉だって止まって見えますのッ!
目にも留まらぬ超絶スピードも目で追えるくらいッ!
飛躍的に私の身体能力が上がっているのですッ!
一瞬でカメレオンさんに肉薄いたしまして、思いっきりに右ストレートを抉り込んで差し上げます!
「おっと。バカ正直な攻撃なら俺には通用しネェぞ。ただ単に速度を上げたくらいじゃあ話にもならん。ほれ、やり直しやり直し」
「くぅ」
けれども片手で軽く受け止められてしまいました。
スパパとあしらわれて、更には追撃の膝蹴りがとんできます。
ふっふんっ。素直に食らって差し上げるほど、私もおっとり系のんびり屋さんではございませんのッ!
「効かないコトくらいここ数ヶ月鍛練してたら嫌でも分かりますのッ! ですから今の今からがホントの本番なんですのッ! 魔装娼女だからこそできるこの技、とくと味わいなさいましッ!」
私も彼の膝蹴りをかわして、そのままの勢いで回し蹴りを放ち返して差し上げますっ。
言っておきますがこれはダメージを与える為の攻撃ではございません。
次の行動に移る為の予備動作ですのッ!
着地と同時に地面を蹴って、今度は大きくジャンプいたします。
「ポヨッ! とりあえず最初のうちはッ! 私の好きにやらせてもらいますわよッ!」
「おっけポヨッ! サポートは任せろポヨッ!」
気付いたことがあったら教えてくださいましっ!
今日の黒泥は一味も二味も異なる感じにしたいのですっ!
まっすぐなパンチがダメなら次は絡め手ですのっ!
私の十八番中の十八番で、カメレオンさんを圧倒して差し上げましょうっ!
拳にありったけの黒泥を集め始めます。