淫美に過激に推参ですのッ!
未だ視界は半透明の水饅頭に覆われておりますが、思い切って腕をワキワキとしてみます。
基本むにむにとした泥的粘性体なだけあって、動いても動いても私の肌にピッタリと纏わりついてくるようです。
これがトリモチトラップであれば冷や汗モノでしょうが、私はポヨをもう一度信じてみると心に決めましたの。
今はじっと黙って待って差し上げましょう。
『そう焦る必要はないポヨ。もう間もなく変身も完了するポヨよ。今回は初回アクセスゆえに最後に微調整に加えてるだけポヨから』
ああ、なるほどやーっぱり、ですの。
ただでさえ世界で唯一、私個人が活用するためだけに造られた変身衣装なのです。オーダーメイドなシロモノにすんなりと合わせられてしまっては、研究開発班の皆さまが泣いてしまいますの。
どうぞ余裕のある今のうちにじっくり丁寧に最適化を進めてくださいまし。こちらはただの予感ですが、これから長い付き合いになると思いますもの。
いざというときに不具合が出てからでは遅いのです。
スペキュラーブルーさんとの戦闘では一瞬の隙が命取りにもなっちゃいますの。
『あと、ちなみにこれは余談なんポヨが……』
お待ち申し上げている最中のことでございました。
ふぅむ? どうかなさいましたの?
やたらと不安そうな声をお出しなさいまして。
『いやなに、お前のボスが言ってたのポヨ。〝魔装娼女にはまだ秘められたチカラが存在する〟とのことだポヨけど……美麗には何が心当たりはないポヨか?』
いえ、間違いなく初耳な案件だと思います。
といいますか、試作品の変身装置にそんな摩訶不思議な要素まで込められているとは思えないのです。
今の私がまだ力不足のカタマリで、いずれ適合率が100%を超えるようになったら使える……とかならまだ分かりますけれども。
それにしても秘められたチカラって何なのでしょう。
主力の武器の黒泥だって初めの方こそ手探り状態で使っておりましたが、今ではもう第二、第三の手足のように扱えるレベルにまで慣れ親しんでおります。
今更に第二、第三の能力が残されているとは、到底思えませんわねぇ……。
かつて一度だけ使った己の身を傷付けることで発動する決死の血泥攻撃も、今はドクターストップを受けてしまっておりますし。
皆目見当もつきませんの。
『やっぱりそうポヨよね。であればポヨがその扉のカギとなれることを祈るポヨ。ま、時間はそこそこあるのポヨ。これからじっくりと検証していこうポヨよ』
そうですわね。おっけですの。了解ですの。
私も新たなチカラとやらには興味がありますし。
それにほら、何が打倒スペキュラーブルーの糸口になるか分かりませんし。
手札は多いに越したことはございません。
『さて。というわけでお待たせしたポヨね。そろそろちゃんと目を開けてもいいポヨよ。覗き見は行儀がよろしくないポヨ』
「…………ん……むぅ」
ふふふ。薄目で観察していたの、バレてしまっておりましたか。ホントに手に取るように分かるんですのね。
それでは改めまして、withポヨ状態での魔装娼女の衣装について語り申し上げて差し上げましょう。
時間にすれば数分足らずといったところでしょうが、ようやく黒泥の寝袋状態から解き放たれましたの。
肌に纏わりついていた生温かなぬるぬるが、次第にいつものピチピチタイツの感触に変わっていったのです。
見た感じはいつもの魔装娼女の衣装でしたの。一言で言えばスタイリッシュの極み、でしょうか。
全体的に黒と青と紫を基調とした鋭めなデザインですが、何よりもまず露出面積が広いのです。
おヘソと背中に至っては大部分がこんにちはしておりますし、夏場くらいが丁度良く、冬場であれば少し肌寒さを感じてしまうような、そんなフルオープンな仕上がりになっております。
ピタピタの手袋の感触を確かめながら、ポヨに訪ねて差し上げます。
「ふぅむ。見た目も肌触りも、特にちがいは感じられませんわね。至って普通のイービルブルーだと思いますの」
衣装の生地だけではありません。張りが自慢のお胸をガードするスベスベしっとりインナーも、肩甲骨辺りの布地からドドンとその存在感を主張する、とにかくおっきな青紫色の飾りリボンまで……!
やっぱりコチラも一緒なのです。
頭には勝者を表す王冠が乗っておりますの。
飾り付けの黒紫のハートジュエルが一際高級感を演出してくださっていることでしょう。
最後に黒くて鋭い形の杖を手にしておけば、あら不思議ですの。
殺風景だったこのプレイルームに、泣く子も驚き喚き散らす高嶺の花――魔装娼女イービルブルーが再臨してしまうのでございますっ!
変身完了ついでにいつもの決めポーズをとっておきましょうか。
「ぅおっほん。とりあえず、ですのっ。
泣く子も黙る魔装娼女イービルブルーッ! 淫美に過激に推参ですのッ! 改めてそのお瞳にっビンビンと焼き付けなさいましッ!」
腰にクイっと手を当てて、ビシィッと指差して、おまけにウィンクも飛ばしておきます。
「おおー、美麗ちゃんいつになく決まってるぅ! いよっ、稀代のスペシャル美人さんっ! 結社に咲いた一輪の花っ!」
側から見ていた茜がパチパチと拍手を送ってくださいました。褒められて悪い気はいたしません。
……んー、でもやっぱりコレ、どう見てもどう感じても、ただの魔装娼女イービルブルーの衣装ですわよね?
心身共に別に変わったところはありません。
湧き上がるようなパワーも別に感じられませんの。
私、お褒めは甘んじて受け入れますが、朝三暮四な見せかけに騙されて差し上げるほど、能天気なお人好しキャラでも頭ゆるゆるさんでもないつもりでしてよ。
「ちっちっちっポヨ。驚くべきは機能のほうポヨよ」
「あら、アナタ……?」
先ほどまでは頭の中で直接鳴り響いておりましたのに、今度は首元からポヨの声が聞こえてまいります。
コレこそ一番に魔法少女時代を彷彿とさせますの。
「何だかんだでこの位置が一番落ち着くのポヨねぇ。見える景色も伝わってくる体温も、全てに懐かしさを覚えてしまうポヨ。感慨深いポヨ」
「まったくっ。都合がよろしいんですから」
首元に取り付けられたハートの形の宝石ブローチに、ポヨが姿を変えていらっしゃったのです。
色は透き通るようなブルーダイヤではございません。
紫にも黒にも青にも見える、暗めのタンザナイトカラーの宝石が元となっているようなのです。
「ポヨったら、そこからまーた耳障りな指示をお飛ばしなさるおつもりでしてっ?」
「ふっふっふっ。それだけではないポヨよ……! とりあえず一度、戦闘訓練をしてみるがいいポヨ。
ちょうどそこにイイ鍛錬相手もいるみたいだポヨから」
鍛練相手……? ああ、なるほど。
きっとカメレオン怪人さんのことですわよね。
そういえばここ最近は生身での模擬バトルだけでしたの。たまには魔装娼女の姿で全力をぶつけてみるのもよいかもしれません。
であれば善は急げですの。
ダメなら泣き落としも辞さないつもりですのっ。
この本気の姿でもお相手してくださるのか、軽くジャブ打ちついでにお尋ねしてみましょうかっ。