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私のことなんてどうでもいいのです

 


「……み、美麗。話を進めさせてもらいたいんポヨが……いい、ポヨか?」


「ええ全然構いませんの。むしろどうぞお続けくださいましぃ?」


 あえて満面の笑みで答えて差し上げます。

 漂わせたオーラで強者感も演出いたします。


 もちろんのこと固く握った手はそのままですの。

 少しも力を緩めたりはいたしません。


 柔らかくてふわふわでまん丸の水饅頭のような体型が売りのポヨですが、そんな彼をあえて形が変わってしまうくらいに握り締め続けております。


 今大事なのは勢いとチカラ関係の掲示なんでしてよ。この辺りで再確認しておいたほうがいいと判断いたしましたの。



 幼気で無知だったかつての私ならともかく、今の私はもう、ある程度の知識を有した上で、尚且つ核心に迫ったお話に臨めているのです。


 毎度の発言にはえー、ほえーと言って差し上げられるほどウブでもございません。


 対等で上等、私優位で上々なくらいです。


 アナタは〝元〟私の相棒であって、〝現〟のお話ではございませんの。



「ほーら、どうなさいまして? お続きをお話しなさらないんですの?」


「ぐぅ……あ、あともう少しだけだからからかうのは勘弁してくれポヨ……ついでに手も緩めてくれポヨ……っ! それ、地味にトラウマなんだポヨ……っ」


「ふっふん。まぁそうでしょうね。ようやくアナタもヒトの心の痛みが分かるようになりましたか。感心感心ですの。ってなわけではい、これでよろしくて?」


「相変わらず、装置扱いが酷い……ポヨ」


「誰のせいでこうなってしまったんだか」


 けれども少々強く握り締めすぎてしまったかもしれませんわね。ほんのりとぐったりなさっていらっしゃいます。


 仕方なく握り締めを一旦解いて、代わりに指で摘み上げて、もう一度また手のひらに乗せて差し上げますの。


 んもう、ダメでしてよ蒼井美麗。


 オトナのオンナとは、常に澄まし顔を駆使して虎視眈々とチャンスを窺っているモノなのです。


 解放されて早々にほっとひと息吐かれましたの。

 彼に口なんてついておりませんけれども。



「さて、ポヨ。ほんの一夜にして第一線級の魔法少女二人と変身装置一体を失った連合本部も、さすがにまずいとは思ったんだろうポヨね」


「まぁそうなりますでしょうね。なんやかんや言っても私たちはそこそ優秀な魔法少女でしたし。基本的には常勝街道まっしぐらでしたし。治安維持に関しては大いに貢献してましたの」


「うむポヨ。ゆえに連合本部は、せめて直近の戦闘データくらいは今後の研究に役立てようと、無惨に飛び散っていたポヨの残骸を無理矢理にかき集めたポヨ。そうして連合の技術の粋を集めて、身体と記憶情報の再結合を試みたのポヨ。

その為に用意された変身装置修復用の装置が――」


「――ふぅむ、なるほど。私たちが盗み出してきたあの縦長筒状の謎機械であった、と。つまりはそういうコトですのね?」


「うむポヨ」


 はっはーん。それであのよく分からない筒箱の中から念話を飛ばしていらしたんですのね。


 偶然に偶然が重なるとは末恐ろしいお話です。



「ポヨは長いことあの中で悶々としていたのポヨ……。外部との通信も遮断されて……時間の流れも忘れていたくらいポヨ。常に半起半睡、永遠に続くうたた寝状態だったポヨ」


「ふぅむ。なるほどなるほど」


「身体の再結合が終わってからも、ポヨは長らくデータの抽出に繰り出されていたポヨ。ゆえにずーっとずーっと出られなかったポヨからね……人と喋るのが久しぶりで、声の出し方を忘れていたくらいポヨ」


 最強の魔法少女さんの近くに転がっていたのもつまりはそういうことなんですのよね。


 必要に応じてすぐに情報を引き出せるようにという利便的かつ建設的な理由があったからでしょう。


 初めの頃はやたらと聞き取り辛かったのも、そのうたた寝状態とやらが原因だったのでしょうか。


 私が現地に赴いて物理的な距離が近くなったせいなのか、ポヨの後悔の念と私の懐古心が偶然にぶつかって寄り添い合って、それで私たちの念話が成立したのだと思われます。


 まったく数奇な運命ですの。



 それにしても、これでようやく過去から今までのお話が繋がった気がいたしますわね。


 まだ解明の決定打にはなり得ておりませんけれども。


 情報整理の糸口としては充分すぎるほどなのです。



 茜とプニから聞いた話によれば、魔法少女と変身装置の念話とは単なる電波的な通信ではないらしいんですのよね。


 心と心が通じ合っていないと成立しない……それこそ科学も技術もへったくれな〝思いのチカラ〟そのものなのでございます。


 ですから、アナタがスペアでも二号機でないことも。

 一応は信じて差し上げてもよろしくってよ。


 でないと、魔法少女を辞めてしまった私と繋がることなんて万が一にも億が一にも有り得ませんでしょうし。



 ポヨとサヨナラしてから、ポヨと再会するまでの空白の日々。


 私たちは常に別々の道を歩いてまいりました。

 最後には仲違いだって経験しておりますの。


 けれどもこれからは心機一転、新たな壁をぶち破るために過去はあえて水に流して、改めてお互いに協力――











 ――するなぁんて、ムシの良すぎるようなお話。


 このワガママな私が許すとお思いでして?



「とりあえずアナタの言い分は分かりましたの。理解も同情もして差し上げますの。それでも……本当に大事なのはむしろここから(・・・・)だと思いますの」


「ポヨ? ここから? どういう意味ポヨか?」


 ポヨのお次は私のターンなんですの。

 長らくお待たせしてしまった気がいたします。


 ……私、コレばっかりはどうしても。

 どんなにオトナになろうと心に誓っても。


 あの日起こってしまった事実だけは有耶無耶にしておきたくはないのでございます。



 私のことなんてどうでもいいのです。


 だからせめて……せめて。



「私たち、残念ながらまだ仲直りしてないですの。そしてまた、何よりもまずは巻き込んでしまったメイドさんに対して、言わなきゃいけないことがあるのではございませんでして?」


「あっ……」



 せめてメイドさんに一言、ごめんなさいとだけでもお伝えくださいまし。


 過去の精算はまだ終わっていないのですから。

 

  

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