成長率
「メキメキと頭角を表していったポッと出の魔法少女を、ヒーロー連合の中枢が放っておくわけがなかったのポヨね。彼らはお前の成長率に一番着目していたのポヨ」
「私の、成長率ですの……?」
再三に小首を傾げさせていただきます。
確かに始めの頃は小杖程度の杖しか出せませんでしたが、半年後にはギンギンに煌めく発光杖ブレードを生成できるまでにはなっておりましたの。
そういった観点では、ポヨの仰るとおり私の成長率は著しかったほうだとは思います。
けれども所詮は〝早熟型〟のソレでしかありませんの。
世人よりほんの少しだけ伸び代が大きめに用意されていた程度のお話です。決して特別ではありません。
あらかた伸びきってしまえば、あとはずーっと平行線を辿っているような感じで、辞めた今だってその伸び悩みに嘆いているのです。
どこまでも吸収し続けられる、そんなフレッシュな存在だったらよかったですのに。当初のようなノリノリ感や充実感を得られていないのです。
今はまだ魔装娼女の域から出られておりません。
最高最強の魔法少女に太刀打ちできそうな未来は見えておりませんの。
別に焦る必要はないとも重々に理解しておりますが……カメレオンさんやハチさんを始め、沢山のアジトの皆さまが私のために貴重な時間を割いてくださっているわけですからね。
責任感やプレッシャーを感じないわけがありませんの。
私はもうただのお気楽乙女のままではいられませんの。この両肩にアジトの未来を背負ってしまっているのです。
独りしゅんとしてしまいましたが、ポヨが続きを話したそうにウズウズしているのが見えました。
一旦はコクリと頷いて、お話のターンを渡して差し上げます。
「美麗のその成長過程と法則性をイチから解析することさえ出来れば、今後は〝より簡単に魔法少女のタマゴを見つけ出せる鍵になるかもしれない〟と。ひいては〝強大的なチカラを持った魔法少女を人為的に生み出すことも可能になるかもしれない〟と。
連合本部ではそこまで求められていたのポヨね。
そしてまた、大抵の内容が実現してしまったのプニ。結果については、おそらくお前も知っている通りだと思うのポヨ」
「より簡単に見出して、そしてより強大な魔法少女を生み出す……ですか」
ポヨが私の手の中でぽいんと跳ねられました。
何かを訴えかけるような目で私を見ておりますの。
なんとなく、予想できております。
それぞれ該当する方々と面識があるんですもの。
「多分、プリズムピンクさんプリズムグリーンさん。そして先日のスペキュラーブルーさんってことですわよね?」
「ああ、その通りポヨ」
ポヨがぷるりんとお震えなさいました。
よかったですの。合ってましたの。
今までよりも更に簡単に魔法少女のタマゴを見つけ出す……それはつまり、ある意味では魔法少女の量産化をも意味しているのだと思われます。
幸か不幸か、私の魔法少女としての活動が、時を経て後輩の花園さんや翠さんのような見習い魔法少女さんが生まれるきっかけになったってことですのよね。
元はほぼ一般人に等しい人材でも、その子に少しの才能さえ見出せれば誰でも簡単に魔法少女になれる……そんな簡易な時代を、私が作ってしまったわけですか。
つまりは私が巻き込んでしまったも同然ですの。
尚更に責任重大ではありませんの。
人の欲というモノは何よりも業が深いのでございます。
一度魔法少女の量産化という成功体験を味わってまえば、お次はより強大なオンリーワンな存在を創り出しくなってしまうことも、想像に難くありませんの。
私も多少なりとも高みも目指す者として、そのお気持ちは分かってしまいます。
引き続き魔法少女についての研究が進められていって、最終的には究極的にチカラを高めた魔法少女を生み出すことも可能になってしまった、と。
その結果生まれてしまったのが私の上位複製さんなのだ、と。
ふぅむ。やっぱり全ては繋がっているんですのね。
事の発端として他人事ではいられそうにありません。
無論独りきりで抱え込む気は更々ありませんが、かと言って素知らぬ顔をして生きていけるほど私の面の皮も厚くはありません。
改めて気を引き締め直させていただきます。
「美麗をベースにしたデータ収集も、始めの頃は上手くいっていたらしいポヨ。けれども、計画の途中から少しずつ翳りが見えてきたポヨ。
おそらくお前が、進んで戦場に赴かなくなり始めたのが原因だろうポヨね。参考となるデータが減ったのポヨ」
「うっ。だって……だってだって辛かったんですもの……! 全然耐えられなかったんですもの……!
ホントに忙しくて夜もロクに眠れませんでしたし……日々のお勉強の時間も確保できませんでしたし、心身のダメージでご飯も全然喉を通ってくださいませんし、でぇ……」
全てが乙女の天敵と言えたのです。
過労とストレスのせいで多分痩せちゃいましたの。
あの頃はメイドさんに甘える時間が私の数少ない癒しタイムでしたからね。
茜が倒れてしまっていてはもう、残るメイドさんだけが私の心の拠り所となっていたのですっ!
「見かねた本部は強硬策に出たポヨ。そして、ここからがさっきのお前の質問への回答にもなるポヨ……」
神妙な面持ちでポヨが口を開きます。
ご、ごくり、ですの。
さすがに息を呑まざるを得ませんの。
「本部はポヨに対して〝魔法少女の活動の障害となる事象を即刻排除するように〟との指令を送ってきたのポヨ。
……無論、イチ変身装置でしかないポヨに逆らえる権利はなかったポヨ」
「その障害が、メイドさんであった、と……!?」
ついカッとして手が出てしまいそうになりましたが、グッと歯を噛み締めて耐えました。
心の内側の炎を、今一度必死に鎮めます。
感情を解放するのはまだですの。
「そう、ポヨね。上層部から見れば魔法少女の活動にストップを掛ける存在ではあったポヨから。も、もちろん誓って言うポヨが、ポヨの本心ではなかったポヨよ!? 本当ポヨっ!」
今までで一番に体を凹ませたポヨが、その声を震わせながら言葉をお続けなさいます。