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異例中の異例

 

「そもそもの話、美麗をしきりに戦闘へと赴かせていたのは、全て本部からの命令だったのポヨ。明らかにお前は特別視されていたポヨからね」


「特別視……まぁ確かに? 有能かつ優美な私は常に引っ張りだこな感じでしたわの。最後のほうはホントに猫の手も借りたいくらいでしたの」


 空いた片手でにゃんにゃんポーズをしておりますと、ふと茜がバツの悪そうなお顔をしているのが見えてしまいました。


 慌てて咳払いをして誤魔化しておきます。


 忙しさが激化してしまったのは、間接的には茜がダウンしてしまったから……と言えなくもないのです。


 もちろん彼女が直接の原因ではありません。

 悪いのは全部野菜やフルーツの怪人勢力ですの。


 新米に毛が生えた程度だった私に負担をかけないように、先輩であるプリズムレッドが全てを自ら一人で背負い込みなさって、夜通しパトロールをなさっていて……気付いたときにはもう手遅れ寸前にまで疲弊させてしまっておりましたの。


 長期入院させてしまったのは、私のせいでもあるのです。


 その責任に報いるためにも、私は頑張りましたの。


 己しか戦える者がいないという重圧に耐えながら、日進月歩でメキメキと成長していったことを覚えております。


 人間万事、もう後がないという状況では何倍ものチカラを発揮することができるのです。


 私が強くなれたのはある意味では茜のおかげですの。

 だからそんなに気負わないでくださいまし。


 今更、誰も責めたりはいたしませんでしてよ。

 むしろそんなことする方がいらしたら、私が今すぐ平手で往復ビンタをかまして差し上げますの。


 お気になさらずという意を込めて、茜にサムズアップを送っておいて差し上げました。


 クスリと微笑んで、頷いてくださいます。

 これで私も安心してポヨに視線を戻せますの.



「美麗が一人前の魔法少女に成長して、独力でも怪人を撃退できるようになってからというもの……連合本部は魔法少女プリズムブルーの戦闘データをしきりに集めたがっていたポヨ。

いや、戦闘データだけでないポヨね。生活スタイルから内面、知能的な能力に至るまで……逐一報告するように指示を受けていたポヨ」


「ふぅむぅ。どうしてまた私のデータなんかを……? もしや私の父が中枢に近しいところに在籍していたからですの? まさかの親心的な? あの厳格で偏屈なお父様がそんな回りくどいことをするわけがありませんし」


「それも全くの無関係ではないだろうポヨが……おそらく第一の理由は、お前が異例中の異例(・・・・・・)な魔法少女だったからだろうポヨね」


「はぇ?」


 私が、異例中の異例、ですって?


 とんだ二つ名をいただいてしまったものですわね。


 希代の伝説と謳われたり、今度は異例に扱われたりと、私の魔法少女時代は本当にバラエティに富んでしまっておりますの。


 むふふふ。

 つまりは蒼井イレイってことでして?


 ……冗談ですの。重っ苦しい雰囲気を少しでも和まさせて差し上げようと思っただけですの。


 もちろんのこと口と態度には表しません。


 あくまで平然を装って、目線でポヨに続きを促して差し上げます。



「自覚がないだろうポヨからこの際ドストレートに言わせてもらうポヨが、100万人に1人の逸材だった茜とはまた別の方向性で、お前も特別な魔法少女と言えるのポヨ!」


 そのポヨの語勢に、ついごくりと息を呑み込んでしまいます。



「言い換えてみればプリズムブルーは、己の中に眠る才能を努力によって開花させた後発的な(・・・・)魔法少女なのポヨ。そんな奴は魔法少女の中でも稀中の稀ポヨ。〝元〟相棒のポヨでも正直驚くレベルの伸び代と成長率を誇っていたのポヨッ!」


「はぇー……あ、え? でもポヨの仰る通り、自覚は一つもありませんですけれども……」


 だって今も昔もあんまり変わっておりませんの。

 ただひたすらにがむしゃらに頑張ってきただけなのです。


 思えば私の魔法少女人生も、全ては意地のつっぱりから始まったものでしたわね。


 旬の季節の強敵というピンチに晒された茜を助けるため、どうか一般人の私にもチカラをお寄越しくださいまし、と。初めて出来たお友達を守る術をくださいまし、と。


 ありったけの願いを込めたら、それが偶然にも叶ってしまっただけなのでございます。


 けれどもその程度の魔法少女なら、それこそそこそこの数はいるんじゃありませんでして?


 ほら、10万人に1人という割合で見つかるのなら、都会の街中を探せば苦もなく見つかるはずですの。


 私はただ単に地味ぃに運がよろしかっただけな気がするのです。せいぜい万馬券が当たる程度の細やかな幸運に恵まれていたってだけのお話ですの。


 わざとらしく小首を傾げて疑問の意を示して差し上げますと、ポヨはチッチッチとでも言いたげなダメ出し顔をなさいました。


 この子、水饅頭に目しか付いていない存在ですのに。なんだかとっても小憎たらしいことで。



「いいか美麗。ちょっと考えてもみろポヨ。お前はヒーロー連合側から直接スカウトされたわけでもなく、偶然その場に居合わせていただけで、おまけに自ら勝手に魔法少女になるとか宣言して、それでもって見事に変身してみせた特異な存在なんポヨよ?

おまけに最初は60%程度しかなかった適合率も、ほんの一年も経たずに90%台にまで跳ね上げてみせたのポヨ。

これを異例と呼ばずして何と呼ぶポヨ?

誰にでもできることではないポヨよ……」


「ふぅむ。そう言われてみれば、そうとも言える……かもしれませんの? いや、やっぱり自覚はありませんけれども」


 何度でも言わせていただきますが、私はただ何事にもひたむきに取り組んできただけですの。


 お友達の茜に追いつけ並び立てと必死に毎日を過ごしていただけですし。


 変身にしたって適合率にしたって、いつのまにか気付いてみれば、という状況が多かった気がいたしますの。


 常にやる気を切らさず、鍛錬を怠らないようにしていた結果なだけなのです。


 頑張れば誰にだってできるはずです。


 この基本ぐうたらで後ろ向きでマイナス思考な私にだって出来たのですから。


 ……こっほん。

 皆さま、覚えていらっしゃいまして?


 ひだまり町に引っ越してきたばかりのうら若き私は、とにかく箱入りで引っ込み思案で自信のカケラもないお淑やかなお嬢様だったんですのよ?


 ただ登校するのだって億劫の極みでしたの。


 そんな健気で幼気な女の子に出来たのですから、別にこんなのは全然特別なことじゃないですの。


 異例と呼ぶには弱すぎますの。


 皆が皆当たり前に出来ると思ってしまえるからこそ、私もまた堂々と胸を張って差し上げられるのです。


 ……けれどもなんだかちょっぴり腑に落ちませんのー。


 唇を尖らす私を他所に、ポヨが意気揚々とお続けなさいます。


 

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