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美麗とサヨナラしたあの日のことから

  

 このモチモチ感、なんだかとっても懐かしいのです。


 プリズムブルーに変身するために、何度この手で握り締めてきたことか。


 頭で考えるよりも身体が覚えておりますの。

 コレはポヨの触り心地そのものなのでございます。



 けれどもまだ、完全に信じきってはいけませんの。


 この子が私たちと同じ時を過ごしてきた〝同一個体〟なのかどうかまでは確定していないのですから。


 よく似た別人――もとい別変身装置の可能性だって捨てきれなくはないのです。


 念の為に口頭試問による確認も挟んでおきましょうか。


 きっと杞憂に終わるとは思いますけれども。


 こういうときの乙女の直感はよく当たるのです。


 あくまで念には念を入れての対応ですの。



「アナタ、本当の本当に私の知るあのポヨなんですの? それとも実はよく似たスペアかバックアップの第二号機さんだったり? その場合、かつてのポヨからはどこまでの記憶を引き継がれていらっしゃるんですの? ねぇ、ねぇったら。ポヨのそっくりさんってば」


 半ば挑発も兼ねた質問の嵐を向けてみますの。

 誤魔化さずにまっすぐぶつけて差し上げます。


 ついでに両手で摘むように持ち上げて、突き立てのお餅のようにむにぃんと引き伸ばしますの。


 手のひらサイズだった青色水饅頭が、縁日の大きめのフランクフルトサイズにまで伸びましたの。


 ……ああ。

 粘度も柔らかさも全て記憶の中のソレ(・・)なのです。


 間違いなく、ポヨの柔らかさでしたの……。


 もはやここまで鮮明に覚えてしまっているのかと自らにツッコミを入れてしまうくらい、この両手にフィットしてしまうのです。


 茜と同じように肩に乗せたら、それこそ数年前の私たちのような関係に戻れるのかもしれません。


 ……です、けれども。

 今はまだそのときではありませんの。

 お一つ大事なこと(・・・・・)を忘れてはなりません。


 とりあえず手のひらに乗せ直します。



 もう一度、彼と目が合いました。



「……幸か不幸か、ポヨはスペアでも二号機でも何でもないポヨよ。正真正銘、美麗の言うあのポヨだポヨ」


「はぇ……ってことは、つまりはかつて私がこの手でギリリと握り潰したポヨってことですのよね? アナタ、間違いなくビッチビチに飛び散って、再起不能になられたはずですわよね!? どうしてどうして!?」


 あの日の光景はこの目にしかと焼き付けておりますの。手に伝わってきた感触でも確信したのです。


 この手で、アナタを壊したはずなんですの。


 床一面にも溶け広がっておりましたでしょう!?

 水饅頭のなっていい形状ではなかったと思います。



「美麗の言うとおり、たしかにポヨは一度死んだも同然だポヨ。今こうして元の身体に復活できている理由も話せば少し長くなってしまうのポヨが……ま、黙っていても何も変わらないポヨからね。

ちゃんと話すポヨ。だからちゃんと聞いてくれポヨ」


「……ふぅむ。りょ、了解ですの」



 今更どういう風の吹き回しなのでしょうか。


 かつてはあんなにも私にナイショを突き通して、本部の指示ばかり従っていらしたといいますのに。


 核心に迫る内容を訪ねても、あの頃はほとんど何も答えてくださいませんでしたの。


 ずーっと言葉を濁されてきて、全部誤魔化され続けてきて……。だからこそ私はアナタに対して言いようもない不信感を抱きつつあったのです。



「そう、ポヨね。……いっそのこと、美麗とサヨナラしたあの日のことから話させてもらうポヨよ。

ポヨが美麗に握り潰された後、アレは意識が有ったのか無かったのか、この世のすべてがぼやーっとしたように感じ取れたのポヨ。今思えばソレが生と死の狭間だったというべきか、言い表しようのない虚無感だけが感じ続けたポヨ……」



 彼は私の目を見ながら、しょんぼりとした雰囲気で語り始めなさったのです。


 こんな姿を見るのは初めてかもしれませんの。


 ナイショモードではないんですの……?

 まさか今はもうご改心なさってますの……?


 三年もの月日が流れる間に、アナタのほうでは何が起こっていらしたんでして……?


 一旦ムニるのをやめて差し上げます。このまま立ち続けたまま聞けるお話ではない予感がいたします。


 彼を手の上に乗せたまま、先ほどのソファに座り直します。この場にいる皆が彼に注目し始めましたの。


 ポヨは周りをぐるりと一度だけ見渡して、遠くを見るような目をしたまま、ゆっくりと絞り出すように語り始めなさいました。



「次第に薄れゆく意識の中、美麗の悲痛な叫び声が、鮮明に聞こえてきたポヨ。氷水よりも冷たく震えた自嘲笑いと、触れるだけで切れてしまいそうな刃物のような鋭さの両方を、ヒシヒシと感じていたポヨ」


「ふぅむぅ……まぁ、あながち間違ってはおりませんわね。実際、あのときの私は相当病んでおりましたし、トゲトゲしておりましたし。

アナタも含めた連合連中を本気で軽蔑して、目の前に立ちはだかる仇敵(馬鳥)たちに対して、溢れんばかりの憎しみと殺意の感情を剥き出しにして。

余裕なんてのは毛先ほどもありませんでしたの。玉砕覚悟もイイところでしたの」



 ただでさえ日々のパトロールで疲弊に疲弊を重ねて、魔法少女であることに嫌気が差していた最中の出来事だったのでございます。


 唯一の心の拠り所だったメイドさんが拐われて、目の前で痛め付けられて。


 最愛の人が死にかけているというのに、一ミリも争うことができない歯痒さを、アナタは……アナタは本当に分かってくださいますの……?


 全てアナタが引き起こしたんでしてよ?


 ……幸いにも殺害未遂で終わって、メイドさんも長い眠りから目を覚ましてくださったからいいものの。


 最愛の人を失うという絶望感は、この世のどんな物事よりも耐えがたいシロモノでございましたの。


 今だって夢に見てしまうほどのトラウマなのです。


 だからこそ、今もこうして己の心を慰めようとして、もう二度と同じ辛い思いはしないようにと胸に誓って、日々闇雲に邁進し続けているのです。



 でもまぁご安心なさいまし。

 恨みつらみは後でたっぷりとぶつけて差し上げますの。


 怒りに身を任せて耳に栓をして暴れ散らすのは、聞き分けのないお子さまのやることです。


 オトナになった私は我慢を覚えたのですから。


 ふっと息を吐いて、あくまで落ち着き払ったまま続きを促して差し上げます。



「……で、それから何があったんですの。どうしてまだこの世に存在し続けられてるんですの? っていうかそもそもどうしてアナタはメイドさんを誘拐なさったのです?」


「…………ああ。ちゃんと、話すポヨ。時間はたっぷりとあるのポヨからね」



 まるで諦念を声色に乗せたかのように、彼は静かに言葉をお続けなさいます。


 

  

祝! 100万字に到達いたしました(*´v`*)

間違いなく読者の皆様のおかげです←

本作品をご愛読いただけまして

誠にありがとうございますっ!


最後までとにかく突っ走りますので

どうかよろしくお願いいたしますっ!

 

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