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今は歩の状態でも

 

 メイドさんから小さな頷きが返ってまいりました。口元を手で隠しつつ、珍しく困り眉を見せながら言葉を続けてくださいます。



「あの……私めの見当違いであれば申し訳ありませんが、もし小暮様の光だけでは足りないのであれば、他の方の光もお借りしてみたらよろしいのではございませんか?」


「ふぅむふぅむ?」


「三人寄れば何とやら、という言葉もございますし。複数人の魔法少女の光を重ね合わせることができれば、より大きな効果も望むことも可能になるのではないかと思いまして」


「なる、ほど、ですの」


 終始恐る恐るといったご様子でしたが、理由も含めキチンと話してくださいました。


 複数人の光を重ね合わせてみる、ですか。

 所感で恐れ入りますが効果有りだと思いますの。


 実際、私が現役の魔法少女であった頃は、相棒のレッドと二人で光を照射することで、浄化完了に至るまでの時短を計っていたこともあるのです。


 確かに二人でやったほうがずっと早かったですの。


 メイドさんが仰ったように、茜単体の光だけでは足りなくとも、二人目の光や三人目の光も掛け合わすことができれば、最終的には〝消滅の光〟と等しいチカラを作り出すことができる……!? かもしれません。


 しかしながら立ちはばかる大きな壁がお一つ。

 一筋縄ではいかないのが人生なんですのよね。



「ご提案ありがとうございますの。仰ることはごもっともだと思いましたの。……けれども、実現させるにはちょいと厳しそうな気もしているのです」


「あら。そうなんですか?」


「ええ、そうなんですの」


 彼女の疑問顔にお応えするべく、同意の頷きをさせていただきます。


 別にメイドさんを否定したいのではないのです。

 かなりの時間と運の両方が必要となりそうな気がしております。


 といいますのも、私自身がもう既に魔法少女ではありません。


 もうこの手のひらをぐっぱぐっぱと開閉させてみてもウンともスンとも反応せず、光のヒの字も放たれてくださらないのでございます。


 ……魔法少女とは稀有な存在ですの。


 誰しもが成れるようなポピュラーなモノではなく、あくまで運の女神に愛されていて、かつ胸に秘めた思いを〝光〟に変換できる適正を持つ、極少数の乙女のみが魔法少女への変身を許されるのです。


 となれば当然のごとく〝魔法少女の光〟なんてモノは、オスの三毛猫よりもレアなシロモノとなってしまうわけでして。

 

 世に生きる皆が皆、ポンポンと手のひらから放てるわけではないのでございますっ。



 ……そして、更に理由がもう一つ。


 本来であれば、悪の秘密結社の内部に魔法少女の居場所なんて存在するわけがありませんの。


 茜や私たちが特例中の特例なのです。


 ここがヒーロー連合の拠点ならまだしも、よりにもよって悪の秘密結社のアジト内だということを忘れてはいけません。


 魔法少女の光は全スタッフの天敵ですの。

 おいそれとぶっぱなせるものでもないのです。


 むしろコチラのほうが根幹的かつ顕著な理由だと言えるもしれませんわね。


 脳内整理の勢いに任せて、回答を続けさせていただきます。



「……残念ながら、魔法少女の数が少なかったからこそ、現役時代の私や茜は多忙を極めていたわけでして……。

今から光を扱える方をイチから探し出してきて、あまつさえコチラ側(味方)に引き入れることなど、あんまり現実的では無さそうな気がしてるんですの」


 それこそ気の遠くなるような時間を費やして、ようやくお一人チカラの片鱗を扱える方を見つけ出せるか否か、レベルのお話だと思うのです。


 恐れながらその旨をお伝えしようと、口をへの字に曲げ始めた、ちょうどそのときでございました。



 メイドさんのご表情が気になりましたの。


 いつもの微笑みの向こう側に、ほんの少しだけ自信ありげなご様子を感じ取れたのでございます。


 静かに言葉を紡いでくださいます。



「――きっと、(すい)なら喜んで引き受けてくださると思いますよ。あの子は素直で心の優しい、私自慢の妹なのですから」


「翠さん……ふぅむっ!? そうですの! 翠さんたちがいらっしゃいましたのっ!」


 なるほどその選択肢がございましたか。

 簡易変身を操る、あの見習い魔法少女さんたちなら。


 花園桃香(プリズムピンク)さんと、亀戸翠(プリズムグリーン)さんならっ!


 少なくとも彼女たちは協力してくださると思います。


 もちろん私の現役時代には遠く及びませんけれども。それでも居ないよりは何億倍もマシなはずですのっ!


 今こそあのお二人にスポットライトを当てて差し上げるべきなのですッ!


 あくまで見習いさんゆえに完結した戦力とまでは数えられませんが、彼女たちも魔法少女の光自体は扱えるのです。


 見習いさんたちの光を現役のレッドの光と合わせられれば、少しは〝消滅の光〟に近しい出力を叩き出せるのではありませんでして!?


 1は1のままでしかありませんの。けれども0.5と0.5を足して差し上げれば2になるのです。


 そうやって重ね合わせた光を黒泥塊に照射してみて、効果と対策を練るくらいはできるかと思います。


 試してみる価値はありますの。


 同じくどんな結果になるかくらいは試してみてもバチは当たらないと思われます。



「路線変更ですの。やっぱり採用ですの! ナイスでグッドなアイディアでしたのっ!

研究開発班の皆さまにも実験の打診をしてみましょう。言うだけならタダですしっ。おそらく反対もされませんでしょうしっ。実際に決行するかどうかもまたその先々のお話なのですしっ」


 ほんのちょっとだけですが、未来への糸口が見えてまいりました。


 皆でチカラを合わせて現役最強の魔法少女のチカラを再現して、ぎゅるんぎゅるんに対策を練り上げることができれば、お父様にもひと泡吹かせて差し上げられるはずです。



「それじゃあ、プニちゃんに二人と連絡が取れるかどうか聞いてみよっか。もし難しそうでも、そんときは直接会いに行けばイイんだもんね」


「ええ。よろしくお願いいたしますの!」


 お返事ついでに、湯船の中に滑り込んで熱い露天風呂の中に首までしっかりと浸かります。


 温かなお湯が私の疲れたお筋肉をやんわりと包み込んで癒してくださるのです。


 私、俄然やる気が出てまいりましたの。


 温泉の湯の如く、ふつふつボコボコと湧いてきておりますのっ!


 詰め将棋の駒を着実に集め始められているような気がいたします。


 あとはこの私が頑張るだけですの。


 今は歩の状態でも、進み続ければいずれは金になれるのですから。


 

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