まさかの鬼畜の極みッ!?
体感にしておおよそ10分。
湯船の縁辺りに腰掛けて、足湯のような体勢でお二人をお待ち申し上げていたところ、ようやく露天風呂のエリアに姿を現しなさいました。
どちらも髪を頭の上で束ねていて、大事なところをタオルで隠していて、私と目が合いますと優しげに微笑んで近付いてきてくださいました。
けれども一度立ち止まって辺りをキョロキョロし始めて、今度は少しだけ怪訝そうなお顔になりましたの。
そのお気持ち、分からないでもないですの。
確かに今日の露天風呂はいわゆるなオーソドックスのモノではございません。つまりは夜風+星空のクールなタイプではなくなっているのです。
いつもが〝さむっ〟からの〝ほーっ〟の流れを楽しむモノだとしたら、本日のは言うなれば〝カラッ〟からの〝あつっ〟、場合によっては〝眩しっ〟までもを全身で楽しむことに特化させたモノなのでしょう。
だいぶはぐらかしてしまいましたが、回り道はせずに結論へとまいりましょう。
「美麗ちゃんお待たせー……って今日の露天、何これ? やったらアッツいし明るいし波の音も聞こえるし」
「おそらくは南の島スタイルってことなんでしょうね。ほらそこ。ヤシの木やら大きなカニやらが見えますし」
耳をすませばボサノバのBGMが聞こえてきますの。
少々眩しいですが天井もご覧くださいまし。
サンサンと輝く太陽的な照明が用意されております。
ほんのちょっぴり紫外線も感じませんでして?
ふふっ。このままでは私たち、こんがり健康的な小麦肌になっちゃうかもしれませんわね。
「なーんか珍しい感じだね。日焼けサロンに温水プールも追加しちゃった的な? これで塩水だったら更に本格的なんだけど」
「あくまでなんちゃって露天風呂ですから。多分お手入れが面倒なことはしませんの。そんなことしてたら番台のナマズ怪人さんが過労死しちゃいますの」
「ま、それもそうだね」
茜がくすりと微笑みを零しなさいます。
ココはあくまで気分転換的な立ち位置の施設ですの。
温水プールというよりは、秘密のヌーディストビーチのような解放感を演出してくださっているのだと思われます。
だって基本的は……施設内部の男女双方が楽しめるように設計されているんですもの。
たまには開放的になってみたくもなるものです。
どこをとまでは言いませんし、今この場には殿方の姿はございませんから説得力ありませんけれども……っ!
ともかく閑話はこの辺に留めておきまして。
足湯スタイルの私の両サイドを固めるように、右手側には茜が、左手側にはメイドさんが腰掛けてくださいました。
ふっふんっ。まさに両手に花状態ですわね。
美女3人が横並びになっておりますの。
「んで、聞いたよ美麗ちゃん。カメレオンさんが直々に稽古付けてくれてるんだって? やったじゃん。圧倒的成長間違いなしじゃーん?」
「ところがどっこい、そう手放しで喜べるわけでもございませんのー。あの人、飄々としてるわりに手加減って言葉をご存知ないんですもの」
「それだけ彼も本気ってことだろうね」
隣の茜がけらけらとお笑いなさいます。
足先で水面をパチャパチャと波立たせておりますの。
「私もときどき顔出してもいいのかな? カメレオンさんの戦い方も参考にしておきたいし。何か手伝えることあるかもだし」
「ええ。全然構いませんでしてよ。むしろ大歓迎ですの。たまーに交代していただいて、私の休む時間を作ってくださいまし」
「あ、えっと。私も美麗ちゃんに攻撃する側として、のつもりだったんだけど……」
「まさかの鬼畜の極みッ!?」
申し訳なさそうなお顔が逆にビックリですのっ!
今日の一対一でもしんどさ極限MAXの状態だったといいますのに、まさか茜までカメレオンさんと共闘して拳をぶつけてくるおつもりなんでして!?
もしかしなくても日々の鬱憤が溜まっていらっしゃいますの!? アジトの皆さん、私を都合の良いサンドバッグか何かだと勘違いなさっておりませんでして!?
……いや、さすがにそれはないと思いますけれども。
いくら私が受けと耐えを美学とする戦法を好んでいるとはいえ……捌ききれる量にも限度が有るのです。
一度許容値を超えてしまったら最後、途端にメンタル側にもダメージが蓄積されていきますの。
修行の範囲で、命の危険は負いたくないんですけれども……っ。
ムムムムッという渾身の口窄み顔を向けて差し上げます。
いつもなら嘘だよ冗談だよと軽く笑い返してくださるところだと思ったのですけれども。
何故だか、今日の茜はとても真剣なご表情を続けていらっしゃったのです。
彼女なりに何か思惑があるにちがいありません。
直接お尋ねする代わりに、頭の上に疑問符を浮かべて差し上げます。
すんなりと答えてくださいました。
「というのもさ。この前、美麗ちゃんの複製――魔法少女スペキュラーブルって言ってたっけ。あの子がホントにこの世で最強最高の魔法少女だっていうんならさ。
この先、美麗ちゃんも〝対魔法少女〟の戦い方をたくさん経験しておいたほうがいいんじゃないかなって」
「あっ……」
なるほど。一理も十理もありますの。
私たち、怪人さん方とは数えきれないくらい拳を交えてきましたが、魔法少女さん方とは指折り程度にしか戦ったことがありません。
同じく、心の奥底でホッといたします。
単なるストレス発散や美麗イジメの為ではないと分かりましたの。むしろ100%の善意から提案してくださったらしいのです。
そのまま茜が静かに言葉をお続けなさいます。
「私には普通の浄化の光しか扱えないけど、さ。それでも魔法少女の光を浴び続けたら耐性が身に付いたりするかもじゃん?
今からやれること、色々と試してみようよ。かなりのギャンブルにはなっちゃうと思うけど……」
「まぁ確かに。簡単に打ち倒せる相手であれば、私たちだってすごすごと逃げ帰ってくる必要もありませんでしたものね。
分かりましたの。私、頑張ってやり遂げますから、貴女も全力で向かってきてくださいまし」
「そう言ってもらえると安心だよ。おっけ了解っ。魔法少女プリズムレッドの全力、とくと味わってみてよね」
拳と拳をコツンとぶつけ合って、お互いの意志を示し合います。
地下深くに身を潜めることを余儀なくされた私たちではございますが、この胸に激る熱い思いと向上心を失ってしまったわけではございません。
むしろ今までキリキリと抑えつけられてきた分、今度は250%のチカラで報いて差し上げたいのです。
魔法少女のチカラを失おうとも、魔装娼女のチカラを退けられようとも、何度でも立ち上がって反撃し続けて差し上げるだけなのですっ!
グッと勢いよくガッツポーズいたします。
揺れる身体に合わせて、水面がちゃぷんと音を立てました。
「……あの、お嬢様。僭越ながらお一つご提案があるのですが」
「ふぅむ? 何ですの?」
恐る恐るといったご様子で片手を上げて、忍びなさそうにメイドさんが口をお開きなさいます。
お返事の代わりに一旦ポージングをやめて、そのまま静かに彼女のご発言を拝聴いたしますの。
どうぞお好きなようにお話しくださいまし。