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非効率の極み、名付けてよわよわパンチぃ……っ


 ただでさえか弱い乙女の防御力が下がってしまっていると言いますのにっ!?


 魔装娼女の装備無しでカメレオンさんと戦うだなんて、そんな世迷い事をどなたが宣いましたの!?


 もしかしなくても総統さんでして!?


 確かに今の魔装娼女では最強の魔法少女には太刀打ちできないとはお伝えしましたけれども。


 このただの乙女な蒼井美麗がつよつよ上級怪人のカメレオンさんと拳を交えるだなんて、そんなのずっともっと無理なお話ですの!


 そもそものレベルデザインが狂ってますのッ!


 飛車角金銀桂馬落としの手加減ルールでも受け流せる自信がありません。



「くっ。今ならまだ間に合いますわよね……!?」


 世の中万事、逃げるが勝ちなのです。


 魔装娼女の黒泥鎧が無ければ、下手をすればこのスベッスベなお腹にポッカリと風穴を空けられてしまいます。

 

 まして実戦を想定した鍛練を想定なさっているのでしょう!?


 未来の私に待ち受けているのは……まず間違いなく三途の川岸!?



「い、いや、いやぁ……後生ですのぉ……せめてお風呂に、お風呂に逃げ込ませてくださいましぃぃ!」


「却下だ。俺だって暇じゃネェ。つべこべ言わずにさっさと歩け。でネェと俵担ぎして尻丸出しで運ぶぞ」


「お尻? それは別に構いませんけれども」


「…………ハァ」


 私のこのプリティな艶尻こそ、世の中に公開し続けるべき国宝だと自負しております。

 全世界同時生中継も大歓迎ですの。


 まったくもう。しゃーなしですわね。

 相変わらず強引な方なんですから。


 分かりましたの。駄々を捏ねるのはヤメにいたしますの。

 サッパリリフレッシュするのはもうひと汗かいてからにいたしましょうか。


 しばしの我慢のときですの。


 カメレオンさんに促されながら、筋肉痛のためにやや内股になりながら自室のドアをくぐります。


 戦闘訓練となりますとおそらくはギムナジウムか、もしくは上層のプレイルーム辺りになりますでしょうか。


 広いアジトというのも考えものですわね。


 お外への転移のように、内部も一瞬でワープできたら楽なんですのに。


 研究開発班の皆様、頑張ってくださいまし。






――――――

――――


――






「……クッ……ふっ……つぅッ……!」



 マイルームを後にしてから、いったい何時間が経ちましたでしょうか。


 予想の通り、訓練の舞台は上層のプレイルームでございました。


 着いて早々に戦闘訓練が始まりましたの。


 初めは遠距離からの攻撃回避を準備運動としておりましたが、あらかた身体も温まったタイミングから、少しずつ接近戦を想定したインファイト気味に切り替わっていきました。


 どうやったって被弾は避けられませんの。


 初めこそ手加減してくださっていたようですが、寝起きかつ体力ダウンの私に殿方の、ましてカメレオンさんの拳など耐え切れるはずもなく……っ。


 床にすっ転ばされてしまうことも多々ございました。


 そのまま休めるはずもなく、そして大して息を整える間もなく、次のラウンドに切り替わってしまいます。


 ただでさえ有酸素運動はキッツイのです。


 まして私、昨日から何も食べていなかったはずでは?


 それどころかお腹に入っていたものすべて、帰宅と共にリバースしてしまっていたのでは……!?


 思い返せば水しか胃に入れておりません。

 栄養のエの字も縁がございません。


 その事実に気が付いたのは、訓練のボルテージが三段階ほど上がって、カメレオンさんの動きを目で追えなくなってきた辺りのことでございました。



「……うぅぅ……お腹がぺこぺこでチカラが入りませんの……おまけに髪もベタベタでやる気も起きませんの……それでもお食らいなさいまし……非効率の極み、名付けてよわよわパンチぃ……っ」


「なんだその弱っちい拳は。そんなンじゃ蚊も潰せやしネェぞ」


「だってだってぇ仕方ありませんのぉ……この身体が潤いと栄養をぉ……具体的には濃厚なタンパク質を求めているのが、イヤでも分かってしまうのですぅ……!」


「チッ。ま、病み上がりの生身にしちゃあ多少は動けたほうか。しゃあネェ、今日のトコはこの辺で勘弁してやる」


 彼の言葉を聞き受けた途端、気が抜けてしまったのか、膝にチカラが入らなくなりました。その場にへたりと床に座り込んでしまいます。


 やっと。やーっと解放されましたの。


 周囲にいくつも生まれた汗の水溜まりが、先ほどまでの訓練の激しさを物語っております。


 多分、この運動だけで老廃物の全てを滲み出し切っておりますの。もう私の身体には何も残っておりません。完全なる絞りカスですの。


 いや、むしろベタベタの脂成分だけが身体に残っていて、ウナギ怪人さんもびっくりするくらいにぬるぬるになってしまっております。


 フライパン上にポイした溶けかけの牛脂のようにツルツル滑れる自信がございます。


 滑って向かうべきは……もうお分かりですわよね!?



「そンじゃ明日はもっとハードな訓――」


「細っかいお話は後ですのぉおお! 先にッ! お先にお風呂に行かせてくださいましぃぃいいい!」


「あ、オイ青ガキ!」


 何ですって? 乙女のお膝にチカラが入らない?

 そんなのはもう過去のお話になっておりますの。


 今はただ、この身体に溢れる不快感から解放されるために、全力疾走で大浴場に向かうのみッ!


 さすがに今回だけは誰にも邪魔されたくありませんのッ! 素敵な殿方からお誘いがあっても保留にできる自信がございますッ!


 私の残り香で地下通路を満たしつつ、今日一番のスピードで駆け抜けてまいります……ッ!

 

 遠くからカメレオンさんの〝なンだ全然元気じゃネェか〟というため息じみた悪態が聞こえてきたような気もいたしましたが……私の知ったこっちゃないですのっ!



 お風呂、ああ、愛しのお風呂ぉおおおおッ!



 

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