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ふぇっ……え、あぃええええええっ!?

 

 ついでのついでに、ベッドから身を乗り出して訴えかけて差し上げますッ!


 ああ、身体が動かせるって素晴らしいですわね。

 筋肉痛が心地良いくらいですのッ!



「っふんだ! 私だって分かっておりましてよっ!?

どうせ貴方のことですから、私のお勤め目当てではなくて、まーったく別のご用事でお訪ねなさったんでしょう!?

つまりは淡い期待をするだけ損ってことですのっ! ぷんすかぷんぷんのぷんですのっ!」


 縁に腰掛けて足を組んで、鼻息荒めにフンスとさせていただきます。


 これだけ強気の意志を示して差し上げれば、さすがのカメレオンさんだってスルーを決め込むことはできませんでしょう。


 さぁさぁ私渾身の策略をお食らいなさいまし。


 言葉尻にはお怒り感を匂わせつつも、軽快にウィンクを決めて情にアプローチして差し上げますのっ。


 お茶目な乙女のキュートさを演出いたします。


 更にはほのかに漂う汗の香りで彼の嗅覚にも刺激をプレゼントして、多面的かつダイナミックに悩殺攻撃を向けちゃいますのっ!



 ちらちら。ちらり。

 薄目を開けて彼の顔色を伺ってみます。


 ……明確なまでのやれやれ顔が見て分かりました。

 結果は大体分かっておりましたの。


 彼には私の悩殺フェロモン攻撃は効かないみたいなのですから。



「ふん。さすが鉄壁メンタルの色男ですわね」


「…………ハァ。ったく、ノーアポ訪問に嫌がってンのか喜んでンのか、ホント訳分かンネェヤツだよなァお前ってさ。バカ能天気っつーか」


「あら、よく分かってるじゃありませんの。鉄面皮さが私の売りなんですもの。そうでもないと今まで生き残れませんでしたし」


 実際、カメレオンさんの訪問が嬉しくないわけではないのです。歓喜と嫌悪、どちらも正解の感情なんですのっ!


 どんなご用事であれ、私がアジト内で必要とされているのであれば別にいいのですっ!


 複雑に絡み合う乙女心をご理解くださいましっ!

 貴方もお強い殿方であるならばっ!



 ……ただでさえ昨日の心身ダメージで、メンタルが不安定気味になっておりますの。


 全てを溜め込むだけではいずれは爆発してしまいますからね。


 この裏表のない素直なやりとり、私にとっては良いガス抜きになっておりますの。


 彼には少しばかりご迷惑かもしれませんけれども。



「ふぅむ。必殺悩殺メロメロビーム……は、また今度にしておきましょうか。残念ながら、寝起きでは効果も半減しちゃいますし」


 追撃の代わりにわざとらしくむふふんと唇を尖らせて誘惑を重ねてみましたが、彼から返ってきたのは更に大きなため息だけでございました。


 おどけ続けても大した進展はありませんの。


 この訪問が決して彼の意図ではないことなど、私にはまるっとするっとお見通しなのでございます。


 あのものぐさなカメレオンさんが自ら動かなければならないほどの理由とは、いったい何なんですの?


 まさかトンデモなく重大な責務を任されていらっしゃったり!?


 スンと真面目な顔に戻っておきます。

 というわけでさっさとお話しくださいまし。



「ハァ。で、だ。俺だってシチ面倒クセェことこの上ネェ話なんだがナ。総統閣下から直々に頼まれちまっちゃあそりゃ断れネェわけで」


「ご主人様はなんと? シモのお世話でもなければ、いったい全体、カメレオンさんが私に何のご用事がお有りでして?」


「それなんだが……」


 珍しく言い渋るようなご様子に、思わずゴクリと息を呑んでしまいます。


 もう一度溜め息をお吐きになりました。

 腕を組みつつ、眉間にシワを寄せなさいます。


 そして。



「――閣下曰く、オマエ(ブルー)の戦闘力向上に付き合ってやれとご命令だ。しかも出来ることなら早いほうがいい、何なら四六時中、みっちりしごき上げてくれても構わないとのお墨付きで、ナ」


「へっ……え……ふぅむ?」


 私の、戦闘力向上、ですって?

 それだけでなく、いつでもどこでも何度でも?


 それ、ホントにご主人様が仰ってましたの?

 スパルタもいいところではありませんでして?


 確かに私、複製さんを止めるのは私の務めなのだと、帰ってきて早々に声高らかに宣誓したばかりですけれども。


 さすがに対応が早すぎませんこと?


 もう少しくらいお休みの期間を設けていただけるとばかりに思っておりましたもの。


 イマイチ心の整理が追い付いておりません。


 それにほら、全く動けないほどではありませんが、昨日の筋肉痛はバリバリに残っているんでしてよ?


 間違いなく万全ではありませんの。

 さすがに何かの間違いなのでは……?



 と、一瞬、物申して差し上げようとは思いました。


 しかしながら、カメレオンさんの顔色から察するに、とても冗談ではなさそうなご様子なのです。


 視線で続きを促して差し上げます。



「秘密結社始まって以来の大ピンチらしいナ。あそこまで真剣な顔して告げられちゃあ、さすがの俺だって多少は危機感を覚えちまうわけでよ。

ってなわけだからクソ青ガキ。さっさと身体起こして立ち上がれってンだ。早速訓練のほう始めンぞ」


 腕をガシッと掴まれて、ベッドから無理矢理引き剥がされてしまいます。



「へっ? あ、いやでも私、今からお風呂のほうに向かおうかと」


「どうせ今から死ぬほど汗かくんだから。別に後でも変わらネェだろ。行くぞオラ」


「え、あ、いや」


 今だってじっとりと汗の滲んだ下着が肌に張り付いているんですの。それどころか何だか髪もベタベタしたままなのです。


 こう見えて私、そこそこに綺麗好きなわけですから、殿方の殿方(・・)(まみ)れにでもなっていなければ、わりと身体のベタベタは早々にオサラバしておきたいタチなのです。



「っていうかちょ、待ってくださいまし。いきなり訓練をと言われましても、昨日まで付けていたはずの変身ブローチもいつの間にか外されておりますし。これでは魔装娼女に変身――」


「それなら一時的に研究開発班のほうに戻してるってさ。装備(黒泥)の不足分の補充と、可能なら改良も加えてみるとか何とか言ってたみたいだが」


 だから起きたら身包み剥がされてたんですのね、私。



「そんなコンナで当面の間は生身での修行がメインだ。実際、お前自身が強くなンなきゃ鍛練の意味もネェだろ。抵抗するだけ無駄だ。つべこべ言ってネェでさっさと行くぞ」


「ふぇっ……え、あぃええええええっ!?」


 

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