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……ふわぁ……はむ……

  


「…………ふわぁ……へぁ……どう、しましょう……もう少し策を練っておきたいところ、でしたのに……何だか、急に眠気が……」


 猛烈に瞼が重くなってまいりましたの。


 つい先ほど気を失っていたばかりだといいますのに、何とまぁこの身体のイヤらしいこと。


 まだまだ休息を所望しているらしいのです。


 薄目に映り込む景色も少しボヤけてしまっております。

 微かに震えてよく見えません。


 これでは……総統さんのご尊顔を拝めないではありませんか……せっかく彼のお部屋に……お邪魔できておりますのにぃ……っ。


 もっとお話、していたかったんですのにぃ……。


 本日はミッション完遂とはなりませんでしたが、せめてこの私が掴んできた有益な情報に対して、多少のお心付けのご褒美くらいは施していただきたく……。


 手を伸ばそうといたしましたが、まったく反応してくださいません。自分の身体でないような感覚です。



「まぁ今日は朝から緊張しっぱなしだったからね。付き添い枠の私でさえヘロッヘロなんだもん。体力的なところも勿論そうだけど……多分、美麗ちゃんの場合は心労のほうが大きいんじゃないかなって」


「……たしかに、今日は……一段と疲れましたの」



 慣れない早起きばかりか、数年ぶりに豪華絢爛なドレスに身を包んで、更には見知らぬ土地に転移して沢山歩いて、不気味な真っ白研究エリアを通り過ぎたかと思えば、我が家の敷地内へと至る正門をくぐり抜けて、無限に広がる草原を車で彷徨って、と。


 午前中だけでもトンデモないイベント数でしたの。ホントに長い長い一日でしたの。


 その後もすんなりと終わるわけもなく。


 ヒーロー連合幹部のキュウビさんとお戯れ(戦闘し)して、辛勝して実家に辿り着けたはイイものの、お父様の放つオーラに圧倒されたり、地下へ移動して私の上位複製さんと相対したり、その実力をまじまじと見せつけられたり……っ!


 まして蒼井邸の地下施設で戦っていたものですから、とっくの昔に時間感覚など消え失せてしまっております。


 戦闘の最中に何とかポヨ入りの機械を奪取して、ギリギリのところで強制転移して逃げ果せたまではよかったのですが……強制転移の不快感のあまりに気を失ってしまいましたの。


 起きて早々に胃の中をリバースして、辛うじて動けるようになったのもつい先ほどで……。


 体感的にはもう夜か真夜中か徹夜明けの朝方もいいところなのです。


 体力的に限界を軽く超えておりますの。

 私も歳をとってしまいましたわね。

 過去はもっと動けていたのではありませんでして?


 魔法少女の加護がないから、とも言えるかもしれませんけれど、も……っ。



「…………ふわぁ……あふ……ふぅ……っ」


 さっきからあくびが止まりませんの。



「その様子なら続きはまた今度にしておこうか。今日はもう休むといい。何なら今すぐ入院して来ても構わん。しっかり養生してもらわないと、この先に着いてこれないからな」


「ふぇぇ……せめて……せめてお風呂にぃ……」


「ダメだ。湯船で溺れられても困る。まぁ安心しろ。眠ったら後で俺が部屋まで送り届けといてやるさ」


 そ、そんなのあんまりですの……っ。


 せめて貴方の近くで寝させてくださいまし……っ。

 別にこのソファの上で丸まっているだけでも構いませんのぉ……っ。


 一日働いた乙女の汗とほのかなおゲロの香りなど、この際気にいたしませんからぁ……っ。




 あ、いえ、やっぱり気になりますわね。


 百歩譲って汗は良くてもゲロだけは一歩も譲るわけにはまいりません。それはそれで淑女として失格だと思われますの!


 寝呆け始めてるからいけないのです。


 こんなとき、黒泥によるお身体リフレッシュ機能が使えたら苦労しないんですけれども……っ!



「でも……今は、頭も、胸のブローチも……」


 目が覚めてからというもの、胸の変身装置からはいつもの輝きを感じることが出来なくなっております。


 おそらくは黒泥の残量が原因でしょう。


 私の身体のケアだけでなく、消滅させられてしまった黒泥分も含めて、近いうちに点検と修理に出しておかなければなりません。


 そうですの。あくまで近いうちに……。


 決して今すぐでは、な、く……でも、せめてデリケートな部分、だけでもぉ……。

 


「…………でぃ……すぅ……がぃ……くっ」


「美麗ちゃん?」



 しかしながら、ダメでしたの。


 もはや変身文句を呟けないくらいには、意識が朦朧としてまいりました。


 喉を通る息がキチンとした声になりません。


 次第に腕にも首にもチカラが入らなくなり、くたりとソファに身を預けるしかできなくなってしまいます。


 しかしながら、ふんわりとしたお高級な生地が私の横顔を優しく包み込んでくださいましたの。


 そしてそのまま……なんでしょうか……。

 ピンと張り詰めていたはずの糸が……限界も迎えて……パツンと切れてしまうかのような……。



「おやすみ。ブルー」


「おやすみ美麗ちゃん。今日はお疲れ様」


「………………ふわぁ……はむ…………」



 最後にこの耳に届いてきたのは、心の底から私が信頼しているお二方の、優しくて温もりに溢れた、眠りのご挨拶でございました。



 意識が、黒泥よりも、黒く染まってまいります……。



 ふぅ……むぅ……ドロドロに……溶け……。










――――――

――――


――





 

 

 

 第4章 復讐編

 そろそろまとめに入りたいと思います。

 次なるサブタイトルは……!?

 

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