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唯一、私の永遠のトラウマとして

 

 己の過去の行いを今になって悔やむなど、世捨て人な私には以ての外だと理解しているつもりでしたけれども……。


 いざ、こうして切羽詰まってしまいますと、ね。


 身体がうまく動いてくれないときは、心も良い方向に向かってくださらないのかもしれません。


 後悔の種とはもちろん、ポヨについてですの。


 ポヨのチカラが、つまりは魔法少女のチカラが、少しでも私の身体に残っていれば……。


 今日の結果も変わっていたかもしれません。

 


「……黒泥のチカラだけではきっとダメなんですの。複製さん(あの子)の光に対抗するには、私も同等の光を扱えるようになるしか……。でも、その為には……ふぅむぅぅぅ……正直、悩ましさの極みですのぉ……っ」


 お側のお二人の視線も気にせずに、ただただ独り言を零させていただきます。


 この際ですから心の内側も整理しておきましょう。


 何かあれば側のお二人がツッコミを飛ばしてくださいますでしょうし。


 腕を組んで首を傾げて目を閉じて考えます。

 まずは閑話休題から入らせていただきますの。


 復讐と復縁とどちらが難しいかと問われたら、私ならどのようにお答えしておりますでしょうか。


 答えはビックリするほど明確ですの。

 まず間違いなく後者だと伝えておりましょう。


 だってほら、復讐は極一方通行な行為ですが、復縁は二者の心が向かい合っている必要があるのです。


 一方的と双方的のちがいってことですわね。

 お互いが別の方法を向いていては、絶対に成立しない事案なのでございます。



 正直に申しまして、コレは私とポヨにも当て嵌まりますの。


 果たして今のポヨに復縁のお気持ちがありましょうか……いえ、肝心の私自身だって、己が何をしたいのか、そしてこれから何をすべきなのか、よく分かっていないというのが本音です。


 自分の心は自分では見えないものですから。

 沈んだ心のままでは尚のことですの。



「……ふぅむ。まったく困ったものですわね」


 思えば、ポヨとサヨナラして、この秘密結社にお世話になり始めてから、早くも三年以上の月日が経ってしまいました。


 思春期真っ盛りの頃から居るわけですから、もうすっかりオトナな身体になってしまっておりますの。


 いわゆるボンッキュッボンッてヤツですわね。

 世の殿方が黙っていられないような素敵体型です。


 けれども、ここからが問題なんですの。

 心のほうは長らく止まったままも同然だったのです。


 理由はザックリ分けても三つほどございます。


 そのイチ、一緒に逃げ連れ去ってきた茜の記憶が混濁していて、外側の世界には触れないよう気を付けていたこと。

 そのニ、最愛のメイドさんがずっと眠り続けていて、あまり辛い現実を見つめたくなかったこと。

 最後にそのサン、ヒーロー連合の追っ手に怯えて、ひっそりと暮らし続けていたこと。


 あの日から私の時計は止まったままだったのです。



 しかしながらここ最近になって、いずれも無事に解消することが叶いました。


 茜は以前の温かな記憶を取り戻されましたの。

 メイドさんも無事に目を覚まされましたの。

 憎きヒーロー連中も総統さんが仇を討ってくださいましたの。


 心の枷は全て綺麗に無くなってしまったのです。


 そして同じく気が付きましたの。


 実は私、そこまで何も失ってはいないということを。



 もちろんのこと、陽の光やら輝かしい学校生活やら身の安全やら清々しい貞操観念やら、地下暮らしを送る上で棄て去ってしまったモノは多々有りますが……。


 ぱーっと腕を伸ばしてあくびをしながら〝まぁ変わってしまったものは仕方ないですの〟と開き直れるくらいには、あんまり気に留めていないのも事実なのです。



 唯一、私の永遠のトラウマとして深く胸に刻み込まれてしまっていることと言えば。


 この手のひらでポヨを握り殺めてしまったことでしょうか。


 あまりにドス黒くてドロドロとしたあの感情と感触は、そこそこの時が経った今でも鮮明に思い出せてしまいます。たまに夢にも見ますの。起きたら毎回汗ビッチョリ案件なんですの。


 あの頃、いくら私が精神的に追い詰められてしまっていたとはいえ……。


 果たしてポヨがこの手で握り潰されなければならないほどの罪を犯していたのかを再考してみますと……実際問題、どうだったのでございましょうね。


 結局、彼の言い分も聞かぬまま、私が一方的に関係を断ち切ってしまいましたから。



 確かにポヨには裏切られてしまいました。


 けれども。メイドさんも茜も、結果的には私の大切な人たちは誰一人として死んでおりませんの。


 皆、無事に懸命に生きていらっしゃるのです。

 居なくなってしまったのはポヨだけなのです。


 ……今ならきっと。エゴイズムに溢れた裁きの手を下すより先に、血の通った言葉による対話ができるのではないか、と思い始めております。


 一時の感情に身を任すことなく、最後まで冷静に、オトナっぽく会話ができる気がいたします。


 行いたいのは尋問ではありません。

 心と心の、一対一の意見交換ですの。



 ふふっ。今更虫の良すぎる話だと鼻で笑われてしまいますでしょうか。


 でも私は思うのです。別に誰も死んでいないのであれば、そして憎き仇敵も無事に葬り去れているのであれば、もう……あの過去の騙し(・・)については水に流して差し上げても、よろしいのでは……と……っ。


 そう簡単に踏ん切りつけられるものでもありませんが。



「……やっぱり……課題はその辺になりますわよねぇ……でも、どちらかというと、己の感情にも左右されてしまうような気も……」


 むしろ葛藤だけなら全然問題ないのです。


 何よりも面倒なのは、仲直りに肯定的ではない自分自身も、少なからず居ることなんですの。


 自分の心の100%を掴めていないからこそ、余計にタチが悪いのだと自覚してしまいます。


 上手く素直になれている私と、下手に意固地になっている私が、今まさに混沌とした葛藤を作り出してしまっているのです……っ。



「……ねぇご主人様。実は私、今の魔装娼女のチカラに限界を感じ始めておりますの。もちろんのこと、この変身装置が試行品の延長線上にしかないことは重々に理解しておりますけれども……っ」


 その、なんだ、あれですの。


 私ったら肝心なところで、子供っぽくて、恥ずかしいくらいに意固地なのですから……っ。


 こんな状況下で意地を張っているべきではないとは、分かっているんですけれども……っ!



「……ですから貴方にお一つだけお願いがございますの。

どうか近いうちに、私と私のかつての相棒(変身装置のポヨ)を隅から隅まで調べ上げてくださいまし。

そしてその後……面と面を向かい合わせてお話しする時間を設けていただけたらと思いますの」


「……なるほど、だからか。さっき研究開発班がレッドから受け取っていたのが装置の原本(それ)ってことだな?」


「ふっふん。お話が早くて助かりますの。御明察ですの」



 お相手が最高最強の魔法少女なのだとしたら。


 豪運だけで手に入れられた汎用的な魔法少女の〝着装〟でも、模造品で紛い物で急拵(きゅうごしら)えな魔装娼女の〝偽装〟でもない、それらを遥かに凌駕した〝真なる変身〟を身に付けなくてはなりません。

 

 既存のチカラの強化(・・)では足りませんの。

 求めるべきは更なる進化(・・)なのでございますっ!


 身動きの取れない蛹の状態から解き放たれて、いざ大空に羽ばたきなさいまし、蒼井美麗っ!


 アナタはそれができる乙女なんでしてよっ!

 この私自らが保証して差し上げますのっ!


 心のうちで自らを鼓舞いたします。

 

 そうでもしないと、今にもプレッシャーに押しつぶされて、気を失ってしまいそうなくらいなのでございますっ……!

 


 うっ。なんだか眩暈がしてまいりましたの。

 


 そろそろ、体力も……限界なのかもしれません……っ。


 

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